【SF短編小説】「量子の死角」
藍埜佑(あいのたすく)
第1章:静寂の中の異変
21xx年、東京。
高層ビルの谷間に佇む研究所の一室で、量子暗号通信システムのモニターが不規則に点滅していた。その異常な動きに気づいたのは、深夜まで残業していた主任研究員の佐藤美咲だった。
「これは……」
美咲は眉をひそめ、急いでキーボードを叩き始めた。モニター上に次々と現れる数値とグラフは、彼女の予想を裏付けるものだった。量子もつれを利用した暗号システムに、何者かが介入を試みていたのだ。
理論上、絶対に解読不可能なはずの量子暗号。その要となる量子もつれ現象は、アインシュタインですら「不気味な遠隔作用」と呼んで困惑した量子力学の神秘だった。観測されただけで状態が変化するその性質を利用すれば、理論上は完全な暗号通信が可能なはずだった。
しかし、目の前の現実はその常識を覆していた。
美咲は深く息を吸うと、セキュリティチームに緊急連絡を入れた。そして、研究所のシステムをシャットダウンする緊急プロトコルを発動させた。
暗い画面に向かい合いながら、美咲は静かにつぶやいた。
「誰が、どうやって……」
その瞬間、彼女のスマートウォッチが振動した。画面には「緊急連絡」の文字。送信者は、彼女の恋人である警視庁サイバー犯罪対策課の刑事、水野玲子からだった。
「美咲、大変なことになっている。今すぐに警視庁に来てほしい」
メッセージを読んだ美咲の胸に、不吉な予感が走った。
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