プリデイション、あるいは、地獄に堕ちろ、ベイビー!!
村田鉄則
プリデイション、あるいは、地獄に堕ちろ、ベイビー!!
大阪の繁華街脇にあるラブホ通りに所謂立ちんぼスポットがある。ラブホテルの清掃員として働いている僕はその辺りを仕事の行き帰りで毎回通っている。かなりの人数の女性がスマホを見ながら等間隔に横並びに立っている。僕は、そういった行為は好きな人とやるものと思っているので、その人たちに一度も声をかけることはなかった。
が、仕事帰りの朝の8時、女性が一人だけそのスポットにぽつんと立っているのが目に入ったときのことだ。珍しいなこんな時間にとその女性に僕は目をやったのだが、仕事で疲れていたはずの僕は、彼女を見るやいなや疲れが吹き飛んだ。僕の理想の顔、スタイルの女性がそこに居たのだ。服装は至ってシンプルで白のワンピースだった。しかし、初めて会う女性とそういった行為はしたくない・・・いや、しかし、こんな好みの娘と会える機会なんて今後あるのか・・・いや、けど、うーむ・・・そんなことを考えていた僕だが、性欲に逆らえず、すぐに声をかけ、彼女を連れてラブホに入ってしまった。バイト先のラブホに行くのは恥ずかしいので、競合他社のところにわざわざ行った。
空き部屋で光っている部屋のボタンを押し(できるだけ安い部屋を選択)、部屋に向かう。ドキドキが止まらない。そういや彼女は声をかけたときから無言だ。彼女もまた緊張しているのだろうか。
部屋に着き、彼女をリードしてドアを開け閉めした。鍵がかかる音がする。一種の密室がここで完成する。
ラブホの店員をしているが、ラブホに客として入ったのは初めてだ。時給がいいからラブホの店員をやってるだけで、特にラブホに思い入れとかはないのだから、そりゃそうなのだが。
ラブホの部屋という密室に入ってすぐに、彼女は無言で浴室に僕を引っ張って行き、一緒にシャワーを浴び始めた。
僕の心臓の音が限界まで高なり始めた。
シャワーを一緒に浴びお互いタオルで拭き合った僕たちはベッドインした。一戦がいよいよ始まる。
始めに彼女が僕に抱きついてきた。僕も彼女を抱きしめ返す。彼女は次に長い舌をペロリと出し、僕の口腔内に舌を入れ舌と舌を絡め始めた。僕も彼女に負けじと舌を絡める。やばい、いや、やべえ。ボルテージが上がる!
僕は次の戦いを始めるために彼女の胸に手を近づける。その瞬間痛みが襲ってきた。僕の口の中に血の味が染み渡る。僕は最初何がおこったかわからなかった。
彼女に目をやると彼女は僕の舌を咥えていた。引きちぎった舌を。彼女の口角は上がっている。
それに気づいた瞬間、今度は彼女は僕を押し倒し、耳を食いちぎった。ごくりと嚥下音が密室で響く。
僕は喰う側じゃ無くて喰われる側だったのだとそこで気づいた。
僕は悲鳴をあげるが、最新の防音性の高い壁ではそんな悲鳴は外に届かない。
ボリボリボリボリボリ
鈍い咀嚼音が僕の耳朶に触れる。いや耳朶はもう無いからこの表現は不適切か。それはさておき、僕は彼女に喰われ続け、そして・・・世界は真っ黒になった。
※※※※※
俺は元不良警官。今は人間に擬態化した宇宙人を探し捕獲する黒の組織の構成員の一人だ。組織が造った特製のサングラス越しで人間を見ると、そいつがエイリアンかどうかを見分けることができる。
俺はこの業界で”捕食者”と呼ばれているエイリアンが、日本のオーサカのラブホテル街に出没しているという噂を聞きつけ、はるばるアメリカから転移装置でやってきた。
スーツの懐に入れた特製の電撃銃を握り締め、ラブホテル街に向かう。タチンボといわれる女性たちがたくさん並んでいるところに辿り着いた俺はサングラスをかけた。
居た!
端っこの方でポツンと佇んでいる白いワンピースの女性を、サングラス越しで見ると、口が人間の百倍はあり、目玉が千個あり、顔が全長180cmはありそうな巨体のエイリアンだった。体はスライムのように柔らかい顔に覆われ見えない。
俺は電撃銃を取り出し、彼女に向けた。
「Go to hell baby!」
決め台詞を叫びながら電撃を放った。
辺りに閃光が走る。
彼女は突然の攻撃に逃げられもせず全身真っ黒こげになって即死。周りの人たちが集まってきた。あたりめえだ。端から見たらこれはただの人殺しに過ぎねえ。
やれやれ・・・
早いところこいつらの記憶を消さねえと・・・
俺は直近一時間程度の記憶を消す電波を出す音響装置をバックから取り出し、起動した。
(完)
【参考文献】
『メン・イン・ブラック』1997年
『ゼイリブ』1988年
プリデイション、あるいは、地獄に堕ちろ、ベイビー!! 村田鉄則 @muratetsu
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