第15話 【T子さんの文章】『再覚醒した快楽』

道哉が荒んだ暮らしを送っている頃。

響子は異国の地で奮闘していた。


友人から聞いてはいたものの、予想以上に厳しい環境だった。


貧困の差が激しく、子供達は虐待をされた者特有の輝きか失せ怯えた瞳。

そしてよそ者を寄せ付けない、緊張感の有る態度で距離を置いてくる。


まずは自分を知ってもらい、子供達が心を開くのを辛抱強く待つ。

ボランティアは、そこから始まった。


また響子が泊まる家屋は、トタン屋根でバラック小屋のような造り。

雨露が何とかしのげるレベルだ。

シャワーの出も悪く、バスタブもないバスルーム。

ライフラインは、しばしば止まった。


それでも、響子には戻る場所がない気がした。

ただ、自らの意志で選んだ事だけに、苦痛は感じなかった。

苦痛を感じる余裕もなく、毎日ヘトヘトになり、簡素なパイプベッドで、泥のように眠りについた。


3ヶ月も過ぎた頃。

子供達もすっかり響子になつき、

「キョウコ、キョウコ」

と、駆け寄って抱きついてくるまでになった。


彼女は化粧もせず、少し日焼けしたものの、美しさが損なわれる事はなかった。

むしろ、健康的な美しさが増した。


周りの男性陣は、日本からやってきた美しい女性に心を奪われた。

実際、彼女を狙って、バラック小屋にやって来る輩も居た。

しかし同じ事を目論む者同士、表で派手にやり合って、互いに傷だらけで去る。

そんな事が多かった。


響子は、はつらつとした笑顔で、皆を明るい気持ちにさせた。


そんなある日。

同じボランティア・スタッフの田島が、響子を飲みに誘った。

日焼けして浅黒いものの、細マッチョな爽やかさが、どことなく道哉を彷彿とさせ、響子が無意識に避けていた相手。


しかしその日は、子供達の発表会があり、その成功を祝う飲み会だったので、響子は誘いに乗った。


他のメンバーも飲みに参加すると思っていたのだが、現れたのは彼ひとりだけだった。

響子に片思いする田島の為に、セッティングされた事だと、彼女が知る由もなく…


久しぶりに、薄化粧をした響子は、いつもより更に美しさが増して眩しいほどの輝きを放っていた。


普段はジーンズ姿だが、これまた久しぶりに、花柄の上品なフレアスカートを履いていた。

シンプルなフレンチスリーブの白いカットソーが、少し日焼けした肌に馴染んでいた。


「すみません、今日は俺とふたりきりで。

響子さんは、俺の事、苦手でしょう。

いつも避けられている事、分かっていますから」

素直に気持ちを話す彼に、響子は戸惑いつつも好感を持った。

「ごめんなさい。

そんな風に感じさせていたのなら、思い過ごしです。

本当にごめんなさい」

響子が謝罪すると、彼は目を細めて微笑んだ。


それからは、楽しくお酒を飲みながら色々な事を話した。

ボランティアの苦労、子供達の将来、やりがい等々。


田島は知性に溢れ、また健康的な笑顔の持ち主だった。

響子は道哉に会ったばかりの頃を、ふと懐かしく思い出し胸が痛くなった。


「どうしました?」

響子の僅かな変化にも気付く彼が訊いた。

飲み屋から出て、星空の下を歩きながら。

「ちょっと昔を思い出して」

響子がそう答えると、

「もしかして、愛する男性の事ですか?

響子さんには色々なお相手が居そうだ」

「隠しても仕方ありませんね。

昔の事です。

私、年下の男性と不倫関係にあったんです。

その彼とあなたが、ちょっと似ていて、重ねてしまった。

失礼ですよね」


立ち止まって、田島は響子の目を見つめた。

沈黙の時が流れた。


どちらからともなく、重なった唇。

アルコールの酔いのせいか、蒸し暑い夜風のせいか、心地よい疲労のせいか…

響子は彼と情熱的なキスを交わした。


辺りに人影はなかった。


田島は響子を太い樹の幹に押し付け、響子は幹に背中を預け、彼を受け入れた。

久しぶりに繋がる快感と、野外でする事の興奮で、響子は快楽の声を抑える事なくあげた。


フレアスカートを捲り上げ、何度も奥まで突かれる度、響子は頭がクラクラするほどの快楽を得た。

彼の欲望の証が、太ももに放たれると、響子はいとおしそうに、その白濁した液を指で掬い舐めた。


再び彼女の官能が、目を覚ました夜の出来事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る