第14話 【私の文章】『逃避的性依存』
ここの所、響子にLINEを送信しても未読のままだった。
彰一に不倫がバレたのではないか。
他に好きな人でもできたのではないかという焦燥感に苛まれ、渦を巻いた激しい嫉妬は噴火寸前だった。
そんなある時、響子から宅配便が届いた。
中には、彰一に渡した未開封の品物と一緒に、黄色いミモザのラミネートされた押し花が入っていた。
よく見ると、手紙も添えられている。
目を通すと、美しい文字で、
「紫野 道哉様
私は、事情で日本を離れます。
幸せを陰ながら祈っています。
貴方と過ごした時間は、黄色いミモザの花言葉『秘密の恋』を彷彿させる、淡いトキメキを私にくれました。
変化のない日常を淡々と繰り返すだけの平凡な毎日を貴方が輝きと鮮やかさに変えてくれました。
同時に、男性を心から愛し抜く切なさと美しさも教えてくれました。
最後に、出逢えたことを一生忘れません。
どうか御自愛下さい。
サヨナラ。
桜木響子」
頭上から爪先まで体中の血液が搾り取られたような感覚がして、頭の中が白色のペンキで塗り潰されたのではないかと思った。
「どうして…どうしてなんだよ…響子さん。
俺は貴女が居なくちゃ生きていけねえよ!!
貴女の存在しない日常なんて考えられねえんだよ!!」
涙が一生出ないのではないかというくらいに咽び泣きを続けた後、虚ろな表情で高笑いをするように成った。
それは、悪魔が完全に侵食しながら体を支配して一体に成った瞬間だった。
それからというもの道哉は、全く仕事もせず、ジムにも通わなくなった。
以前のように適当に連絡を取るだけで直ぐに来てくれる、脳みそが切り取られたような頭の軽い女性達と昼も夜も見境なく、黒い心境と灰色の虚無感を埋める為に、ベッドの中でその場限りの激しい性的結合に耽ることを繰り返しながらも、何の罪悪感も感じなかった。
黄昏のシャワーの音が排水溝から流れ出る。
現実を忘却する為に数え切れない女性達と、熱を帯びた全身のまま汗を滴らせて、荒々しい呼吸で果てた後に魂の脱け殻に成っても道哉は何の幸福感も充足感も得られなかったのだった。
茶色のロングヘアーを指で弄びながら、濃いアイラインと付け睫をしたルージュの女子大生が、
「ねえ、道哉さあ。
また、最近付き合い良くなったよねえ!!
悠理花、また道哉に逢えるように成って嬉しい!!」
と、笑顔で抱き付いてくる姿を冷ややかに横目で見ながら、不敵に嗤った後に背を向けて目を瞑る。
響子の笑顔を追憶の彼方から呼び覚ます度に、涙が滲むのだった。
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