シークレット・クリスマス

――フレングルルート(モールズと結婚せずにいたら)


 ダゴン壊滅から約半年が経ち、最近会っていないフレングルに連絡を取ろうとするが、秘書が応対しすげなく断られ続ける。

 忙しいのは分かる。だが休息も取らねばいつか倒れてしまう。

 俺なんかに心配されるのはイヤだろうが、気になってしまうのだから仕方無い。端末を手に取りフレングルに電話を掛けていた。

「フレングルか?」

『なんだ?わたしはいそがしいんだがな』

「そこだよ半年ぐらい休んでないだろ?」

『きさまといっしょにするな、じかんかんりはしっかりしている』

「そうだろうけどさ、やっぱり心配になるんだよ」

『おまえにしんぱいされるいわれはない』

「でも、周囲の人も同じ事を思われているかも知れないよ?」

『そんなにわたしがこいしいのか?』

「ああそうだよ、恋しいんだよ」

『……そうか、ならしかたないな、いいだろうきさまのためにじかんをつかってやる』

「ありがとう」

 12月24日11時、時間ピッタリ到着した、フレングルはいつもと変わらず赤い長髪で高い身長に似合った肉体美を維持している。

「わたしのきちょうなじかんをうばったのだ、なにかさーびすでもあるんだろうな?」

 見た目からは想像出来ない幼い声は笑いを誘うが、本人の発する威圧感がその口を黙らせる。付き合いの長いJには関係ない。

「開口一番にそれ?」

「あたりまえだ、きさまとわたしではじかんのかちがちがうのだからな」

「はいはい」

「いつまでそとでまたせるつもりだ?」

「それじゃ行こうか」

「きさまにエスコートをきたいしたわたしがばかだった」

「欲しかったの?」

「そんなきほんもしらんとはな」

「あー……モールズを基準にしてたな」

「……あきれた」

「すまんな」

「ならせいいをみせろ」

「どうぞお嬢さん」

 Jが腕を少し広げフレングルはその腕に右腕を絡めた。

「おじょうさんといのはきにくわんが……まあきゅうだいてんをくれてやる」

「それはどうも」

「もっとしょうじんせよ」

「う〜ん、モールズと一緒にいる時間が楽だし――」

「わたしをよびだしておいてのろけか?」

 二人っきりなのに他の奴の名前など出すべきでは無い、そんな警告を腕に乗せて話題を変えさせる。

「……そう言えばまだ声は治して無いんだな」

「そうだな、だごんだとうのあかつきになおそうとおもっていたが、あまりふべんがないからな」

「そうか」

「で?なんでわたしをよびだした?」

「それは……」

 どうせ大した事ではないと催促する。だがJは言いにくそうにモジモジしている。

「いいからいえ」

「分かった、あのな」

再び催促され決意が固まらないまま言う事にした。

「ああ」

「好きだ、フレングル結婚してくれ」

あまりの動揺に手に持っていたグラスを落とし割ってしまった。


「大丈夫か?」

 あまりにも予想外過ぎた、まさかコイツが結婚を知っていたなんて、そういう事には興味がないと思っていたが。

「……おまえが……へんなこと……いうからだ」

 今の声は余りにもか細く、あのフレングルとは似ても似つかない。

「そんなに変か?」

「そうだろうが、あまりにもにつかわしくないせりふだ!だいたいもーるずはどうした!?」

 しまった、そう思っても仕方ないだろう、勢いで喋った事でも発言は撤回しない。

「何でモールズが出てくるんだ?」

「なんでって……そりゃ……まぁ……いいかんじだし」

 しどろもどろになりながらも口にする。最後は恥ずかしさのあまり小声になってしまったが聞き取れたようで。

「アイツとはそんな関係じゃ無いからな」

「そ、そうかいがいだな」

 更に赤面した、コップに入っていた水を一気飲みし冷静さを取り戻す。

「一緒に居た時間が長すぎてな、そんな気は起きないよ」

「そうか……」

「それで返事なんだが」

「いますぐこたえてやろう、いいぞうけてやる」

「……本当か?」

「なぜきさまがうたがう!」

「い、いやだってあの時冷めたとか何とか」

「ちゃんすがめぐってきたのにもぎとらないのはおろかものがすることだ」

「あ、そうですか」

「ああ、そしてわたしのざいさんにありつけるとおもっていたのならざんねんだったな」

「いや、思ってないけど」

「わたしのていしゅになるんだきりきりはたらいてもらうぞ?」

「……」

「にげられるとおもうなよ?いまやせかいくっしのだいきぎょうのしゃちょうだからなわたしは」

「……」

「きちんとしごとをこなせばあめだまをくれてやる、だがにげればせっかんだせいぜいあがけよJ?」

「なんか選択ミスった気がする」

「ほんにんのまえでいいどきょうだ、そのどきょうをしごとにいかせ」

「はい……」

 それからアレよアレよと簡易結婚式を執り行い、一つ5万フィの指輪をしてさっさと終了して次の日からは仕事三昧。家に帰れるのは深夜を回ってからだ。

「おいJ大丈夫か?こんな事でフラフラなんてよ」

「モールズゥ……」

「まったくもってなさけない、にくたいろうどうもついかだな」

「だったらウチはムチ打ちたい」

「それなんて拷問だよ」

「それぐらいしなければきさまのくさったこんじょうをきょうせいできんからな」

「酷いっ!」

「だってよフレングル」

「ひどいのはこんなとしをとっただけのやくたたずをやとわなければならんわたしのほうだ」

「だってよJ」

「何も言い返せないのが酷い」

「ならじゅみょうをけずってでもどりょくしろ、いままですててきたじんせいはそれだけおもい」

「はぁい」

 書類の整理と数字の確認をやらせた、細くゴチャゴチャと書いているが、要は間違い探しだ両方の資料を見比べて間違っているか間違っていたら修正の繰り返し、あまりにも額が大きければ直接電話をして確認もする。

 ワイワイ騒がしい秘書とJを眺めていた。


 俺は仕事を覚える為に彼方此方の部署の事を学んでいた。

「こんな事も出来んのか!歳だけ取った子供め!」

「フレングルにも言われたよ……」

 秘書が叱責しているが本当の事だから仕方無い。だけど出来ない事が出来るようになってくるのは楽しい。

「コレはこうだ」

「優しいんだな」

「教えなければ仕事が滞る、何より叱責だけでは人は育たんからな」

「あの〜ここが分からないんだけど……」

「そこか?難関だからな私もここで何度も躓いた」

「あっ、そうかこうすれば良いのか!」

「そうだ、出来るようになったな」

「ありがとうママ」

「誰がママだ!巫山戯るのも大概にしろ!」

「これから一緒に昼飯でもどうだ?」

「……まぁ、行ってやらんこともない」

 今まで難しいと思っていたものは、意外と簡単で忌避する事ではないと感じた。給料は最低賃金だが衣食住全て会社負担の為、生活苦は感じられない。

 家に帰ればモールズが居て、偶に社員の人が居ることもある。友好関係が広がって人生の充実が実感を伴って現れる。

 ――夜、フレングルとホテルに行き、一緒にベッドの前にいる。

「きさまにきたいすることはない、ねててんじょうのしみでもかぞえてろ」

「あのですねぇムードと言うのを大事に……」

「いらん、さっさと横になれ」

 私はJのモノを受け入れられるのだろうか?

(もし妊娠出来なかったら……)

 私の体は毒ガスで声がおかしくなったと同時に身体にも不調が出るようになった。ならばそういう機能がどうなっているのか、調べたことも無いから不明のままだ。

 この日不調は出なかった。数日後、何の反応もないことからJに病院に行こうと誘われ、了承し結果は。

「妊娠は出来ません、機能が完全に死んでいます、コレの治療は今でも出来ません」

「そうか、ならばいい」

「良いってそんな簡単に……」

「ほんとうにかんたんにきめているとでもおもっているか?ならばきさまはおろかだ」

私の言葉を受け、Jは知っていると顔に出ていた。

「……そうだな、ならどうする?」

「きまっている、さがす」

「だな」

「おまえもわかってきたではないか」

「流石にね」

 二人は病院を出て会社に戻る。いつも通りに働き情報収集をし様々な治療法を見つけるが。

「わたしじしんの身体で産まねば意味がない」

 と一蹴された、俺としてはこのままでも良いとさえ思っている。フレングルも消極的だ。

酒の席でポロッと零したあの言葉がなければぬるま湯の中で居たと思う。

「……ふにんちりょうがみつかったとしても、きちんとうんでやれるのか?きけいじだったりしょうがいじだったらこどもにもうしわけがない」

「フレングル……」

「……だったらいっそうまないほうがいい」

 そうか、怖かったのか毒ガスの影響が何処まで出るのか不安で仕方なかったのか。なら俺のやることは一つだ。日を改めてフレングルを呼び出した。

「どうした?」

「ああ、精密検査を受けよう」

「いや、身体に異常は――」

「子供にどれだけ影響を与えるのか、その検査だ」

「……J」

「まだ諦めるのは早いと思ってさ」

「……そうか、だがわたしは……」

「怖いからだろ?」

「……」

「分かってる、だから50%を超えたら諦めよう」

「まさか、わたしがJなんかにさとされるなんてな」

「どう?」

「やるぞ」

 即答だった。再び病院に行き精密検査をして、子供の影響を診て貰った。

「これはあくまでも予想ですから当てにしないで下さい」

「はやくいえ」

 失礼極まりないが内情が分かるので医者は結論を言った。

「奇形児や障害児が産まれてくる可能性が高いです」

 そう言って資料を見せる。赤と黄が殆どを占めていた。

「分かりやすいように赤が奇形児、黄が障害児です」

「そうか、正直に言ってくれて感謝する」

「ありがとうございました」

 資料を貰って病院を出る。このまま会社に行くのかと思ったら、俺の家に行くのだと言う。何故?そう思ったが一つの答えに辿り着いた。

「……」

 俺の狭い家のソファーに座って沈黙したままだ。

「うわあああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 突如泣き出し、俺にしがみついて来る。

 今まで我慢していたのを今吐き出している。

 俺は背中をさすって、泣き止むまで何も言わず一緒にいた。

 …………………。

「…………」

「……」

 沈黙が続く、既に泣き止んではいるが、気恥ずかしいのか動かない、どうやら寝ているわけでもなさそうだ。

 俺としては別に構わないが仕事はどうするんだろうと考えていた時。

「あ?帰ってたのか?仕事は辞めたのかJ!」

 場の空気を強制的に変えてくれるモールズが来てくれたのだ。

「辞める理由無いだろ!」

 玄関にいるモールズに聞こえるように声を張り上げ、フレングルに叩かれる。

「何やってんだよお前等?」

「さあ?何やってんだろうな?」

 モールズの当然の疑問は俺も分からない、当のフレングルはこの有り様で。

「そのままちちくり合えば良いんじゃねぇの?」

「モールズ!」

 窘めようとしたが、突然モゾモゾと動いてナニカをしようと動き出した。

「えっ!?ちょっ!」

「お?やんのか?だったらウチどっか行っとくけど?」

「止めてくれ!」

 止めようとするが力負けし、されるがままでそう叫ぶ。

「分かった分かった……真面目に仕事するようになってもこれか……」 

 呆れつつも止めに入るが。

「じゃまするな」

「お?」

 あろう事かモールズも力負けした。

「ハァ!?フザケンナ!お前がウチに力で勝つなんて認めらんねーよ!」

 ドタバタと暴れる二人にやっと解放されたJは静止する様に呼び掛けるが意味は無かった。

「えぇい!じゃまするな!」

「お前は無改造だろうが!なんでウチに勝つんだよ!」

「しゅうれんだ!それいがいにあるか!?」

「筋肉は全てを解決するってか?上限を設けろよ!」

「ハッ!じゃくしゃのたわごとだな!」

 終始圧倒するフレングルに怒鳴るモールズ、勝者は誰の目にもあきらかだった。

「ちっくしょー!」

「これでわかっただろ?もうたてつくなよ?」

「つーかなんでこんな事になってんだよ!」

「それは……もうふっきれた!」

「意味わかんねー……」

「あとでじぇいにはなしてもらえ」

「いやいや、今話しても良いだろ?」

「しごとのじかんだいくぞ」

「えっ!?ちょ!」

 取り残されたモールズは終始疑問符を浮かべていた。



終わり


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