落ちそで落ちない
天川裕司
落ちそで落ちない
タイトル:落ちそで落ちない
俺はつい先日、このアパートに引っ越してきた。
ほとんど人が入ってないこのアパート。
簡易アパートながらセキュリティーはまぁまぁしっかりしており、
一人暮らしには申し分ない。
そんな時、俺に続いてもう1人の男の人が
俺の隣の部屋に引っ越してきた。
岡田さんという人で、とても気さくで明るく
結構、優しい人だ。
結婚はしてるらしかったが、単身赴任だったのか、
奥さんや子供が来てるところをまだ見たことはない。
このアパートの部屋にはベランダがあり、
そのベランダに出て洗濯物などを干していると
「あー今日も良い夜ですねえ〜♪」
「あ、岡田さん。そうですね、夏だけど涼しいですね」
なんてベランダで鉢合わせすることもあり、
その時でも談笑して、やんややんやと笑いあったりしていた。
結構、岡田さんとは馬が合う。
歳は俺より7つぐらい上だったが、
結構若く見えるのもあり、岡田さんは人に合わせるのも得意らしく、
悩み相談なんかもよく受けてくれたりしていた。
「あの人、親友になれそうかな」
なんて思っていたある日の夜。
「落ちそ で 落ちない♪ 落ちそ で 落ちない♪ 落ちそ で 落ちない♪」
なんてベランダのほうから声が聞こえる。
晩ご飯を食べていたがその手をとめて、
しばらくじっとベランダのほうを眺めていた俺。
カーテンを閉めていたから
何がそこでどうなってるのかよくわからなかった。
ただその声がずっと聞こえる。
俺はふと立ち上がり、ベランダのほうへ行きカーテンをバッと開けた。すると…
「な、何やってんすか!?お、岡田さん??」
「落ちそ で 落ちない♪ 落ちそ で 落ちない♪ 落ちそ で 落ちない♪」
岡田さんは俺のベランダへ来て、
ずっとそんなふうに歌いながら、
変な踊りを踊るように、ベランダを左へ右へ
ずっと行ったり来たりしている。
「(俺は今、何を見てんの…?)」
その奇妙な光景に恐怖を覚えたほど。
「お、岡田さん!岡田さん!?」
と言った瞬間…
「あ、落ちちゃった♪……この能力が、あの時の俺に備わっていたらなぁ…」
岡田さんはベランダの向こう側へ落ち、そうつぶやいた。
その体は宙に浮いていた。
「うわあ!!」と叫んで俺は部屋を飛び出し、
すぐ警察かどこかへ行こうとした。
でも隣の部屋の表札を見てみると、
「あ、あれ…?」
「岡田」という文字がない。
それまで岡田さんが住んでいたはずの
その部屋は空き部屋になっており、
恐る恐る自分の部屋に戻って
ベランダのほうを見てみると、
もうそこに立っていたはずの岡田さんは居なかった。
後日、岡田さんが住んでいたその部屋の住人が以前、
ベランダから誤って転落死したという事を聞かされた。
それが岡田さんだったかどうかは調べてないからわからない。
ただこの思い出だけははっきり残っているのだ。
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=40hX9Znx6BI
落ちそで落ちない 天川裕司 @tenkawayuji
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