第15話 親

「――ふぁ、おはよう」


 まだ眠気が残り、欠伸を溢しながら父さんたちのいる『店』に向かう。

 俺が生まれる前からこの定食屋はあって、当然これは毎日のルーティーン。

 一人暮しは……してみたいけど、まだ子供部屋から抜け出すほど稼げてるとは言い難いし、それに……。


「ん? 今日は随分早いな。身体はもう大丈夫なのか?」

「流石に1週間もだらだらやってたら筋肉痛もだるさもすっかりだって。それより母さんは?」

「母さんはいつも通り裏で仕込みをしてるさ。朝の分の弁当を作らなきゃいけないからってな。なぁ、今からでもおにぎり大臣しないか?」

「あいにく俺は父さんと同じ馬鹿力だからさ。折角の米が潰れるのはみんな嫌だろ?」

「それは……確かに」


 はっきり言ってうちは儲かってない。

 なんなら貧乏。

 それでも継ごうと思っていたこともあったし、今だっていつかは……って思ってる。

 だけどどうしてもふっくら握れないんだよなぁ。

 今の職業のこともあるしむしろ悪化してる可能性すら……。


「――おはよう! 力哉、今日もダンジョン行くんだろ?これもってきなさい!」


 他愛もない話をしているといつも通り元気いっぱいな母さんが裏から顔を出してきた。

 元気なのが原因なのか、この人恐ろしいくらい老けないよな。


「母さん今仕込みしてるんじゃ……。忙しいんだからわざわざいいのに」

「何言ってるの! 腹が減っては戦はできないわよ! それに……ほら! 同期の子たちが実は平均250レベル越えてたって言ってるし、姫川ちゃんなんか自分の失敗、じゃないとは思うけど、それを払拭するためにブロンズスライムの素材を10000個用意したって朝からニュースになってるわよ!」

「……マジかよ。凄……」


 店のテレビをつけるとあいつが出演している番組が映った。

 最近じゃテレビで見ない日はないんじゃないか?

 はぁ、折角近づいたと思ったのにまた離されたなこりゃ。


「力哉、あんたもちょっと強くなっただけで満足しない! 諦めないでもっともっとがっつきなさい! お父さんが若い頃なんてもう凄くて凄くて……」

「か、母さん。その話はいいだろ?な?」

「とにかく! やっとやる気が出たなら止まっちゃだ――。痛っ……。と、とにかくか、母さんも、あの父さんですらパチンコ止めて頑張ってるんだからね!」

「か、母さん……その話もちょっと」

「分かった分かった! 分かったからあんまり興奮するなって! 足痛むんだろ?」


 母さんはこれで実は身体が弱い。

 ただ医者に行ってみても原因は分からずじまいで時折足や手が痛むらしい。

 表に立たず裏方に回ってるのもそれが原因。

 本人は言わないけど、結構しんどいと思う。

 少しでも楽にさせてあげるためにも、俺は頑張らないといけない。

 どっちかといえば昔はそんな目的が主で必死だったっけな。


「いいから行ってらっしゃい! よし! 今日も大漁よ!」

「気を付けてな」

「……うん。行ってきます」


 元気な母さんに控えめな父さん、そんな2人に後押しされて俺は家を出た。

 なんだかんだ婚約破棄されたあともダンジョンに向かえたのは2人のおかげだと当然今でも感謝してる。

 スキルの副作用なのか、ただ馴染むのに時間が掛かったからなのか、なかなか思うように身体が動かなくてしばらく休んでたけど、今日からまた頑張らないとな。



「――さて、クエストを報告できるようになったから今日はそれを絡めてダンジョン探索に……ん? 通知?」


『新ダンジョンの発見報告と注意報告』


 俺が探索者をしてからは初めて。

 前に新しいダンジョンが発見されたのはもう何年も前で、もう新しいダンジョンなんて生まれないと思ってたが……。


「このタイミング、か」


 初めてダンジョンを踏破したものは豊富な経験値とレアな報酬が与えられる。

 初級ダンジョンで手に入れたものですら俺にとってかなり高価なラインナップだったのに……。


「これは行くっきゃなさそ――」


『ブロンズ・シルバー・ゴールドランク帯探索者様は特定の探索者様に認定され次第探索可能となります』


 気持ちを高ぶらせているとやたらめんどくさそうな追加の通知が俺の目に映ってしまった。

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