第6話 元ボス

「……レアボスが現れるとその影響でモンスターの湧きに変化が起こる。だからバーサークコボルトの異常発生からそれはなんとなく予想できた。でもその時元ボスがどうなるのかまでは考えすらしなかった」


「が、ああっ!!」


「万が一お前が1階層まで登ったら死人が出る可能性だってある。……安心しろ、今の俺は逃げないからさ」



 ジェネラルコボルトは俺がまだ死んでいないと分かった途端全力で距離を詰めてきた。


 その様は何かに怯えて、焦っているようにすら見える。



 そんなジェネラルコボルトから俺は逃げるどころかあえて前に出る。



 というのもドラミングの効果が影響しているのか、痛みは思ったほどじゃなかったから。



「例えるならそうだな……強めのデコピン、ってとこっ!」



 ドン。



 ジェネラルコボルトの巨大な身体から放たれた拳を俺は腹筋で受け止めた。


 にぶい音はしたが、やはり痛みは大したことない。



 覚醒した職業のスキルはレベル1であっても破格な性能らしい。


 魔法が使えない、基本スキルのレベルが全然上がらないってデメリットもこれなら致し方ないって納得できる。



「さて、今度は俺の番だ」


「が!?」



 ジェネラルコボルトの頭蓋骨を割ってやろうと俺は腕を伸ばした。


 だが流石に最終階層のボス。


 ジェネラルコボルトは咄嗟に腕を顔の前に戻し、わざと俺にその腕を掴ませた。



 握力について知るはずもないのにこの判断ができたのは凄い。



「凄いけど……どっちみちだ」



 ごき。



 ジェネラルコボルトの腕が折れる音が響く。


 呻き声が漏れる。



 この腕はもう使い物にならない。それどころか、痛みで動くのだって難しいはず――



「が、ああああっ!!」


「こ、いつ……」



 プシャっ!



 勝ちを確信しているとジェネラルコボルトは背負っていた規格外にでかい斧を取り出して……使えなくなった自分の腕を切り落とした。



 しかもジェネラルコボルトは噴水のように血が噴き出して痛々しい強い姿になってしまったにもかかわらず、一旦その場から離れるために後ろに飛んだ。



「がぁはぁはぁ……」


「大した胆力、判断力だ。これが最終階層ボス。……ふ、これで目が全然死んでないのはかっこいいとすら思うよ。だけどもう出来ることはないだろ?」


「が、ああああ……」


「ん? まさか秘策、特別なスキルでもあるのか? いいや、そんなのは聞いたことがないけど……。まあなんにせよ早めに片をつけたほうが良さそうだ」



 ドラミングによって敏捷性も向上したのか、さっきよりもさらに自分の動きgあ早くなったことを感じながら今度は俺がジェネラルコボルトとの差を縮めようと脚を動かす。


 対してジェネラルコボルトは俯きひたすらに呻き声をあげている。



 嫌な予感が背筋を通るが、それでも俺は脚を止めずその懐に潜り込む。



「悪いがその首、引きちぎらせてもらうぞ」


「う、が……。ああっ!!」



 ぶち。



 確実に首を掴んだ。


 肉の断裂音があった。


 それなのに俺の手にはまだ硬いなにかの感覚がある。



「これは……スライム?」



 じゅるじゅると気持ち悪く動きながら首と頭を必死につなぐそれは光沢の強いブロンズスライムのように見えた。


 ただ俺が倒したブロンズスライムと違ってこいつは伸びようが曲がろうがずっと硬くて質量が多い。


 明らかにブロンズスライムより上位のモンスター、未だこのダンジョンでは発見されていないモンスター。



「ぐ、っふっふっふ……。がああああああああああああっ!!!」



 予想外のことに驚きを隠しきれずにいるとジェネラルコボルトはなんとか首と頭を繋げているからなのか大声鳴いた。


 するとそこら中からバーサークコボルトが現れ始め、俺たちを取り囲む。



「ぐ、ふふふ……」


「ジェネラルコボルトとはよく言ったもんだ。仲間を、しかも大量に呼ぶだなんてな。……だけど知ってるか? そうそうに大将を失った軍ってのが悲惨な結末を迎えたことを」



 めきめき、ばり。



「う、あ……」



『経験値を40000取得しましたレベルが36に上がりました。握力の値が【W】に上昇しました。新たなスキルを取得しました』



「……。どうした? 大将が死んだんだから怒って仇を取ってみろよ!! お前らにはバーサークなんて大した冠名がついてるんだろ?」



 スライムがいるからと余裕そうに笑ったジェネラルコボルト、それを裏切るように俺は両手を使ってスライムを断ち切ってやった。


 そしてそんなショックな光景を見させられたことによって立ちすくむバーサークコボルトたちに俺はジェネラルコボルト以上の不敵な笑みをくれてやったのだった。

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