乙女ゲー世界の主人公に転生しましたが、悪役令嬢がNTR済みで私の前でいちゃラブしてきます

釜屋留間幾二

第1話 運命は夜にささやく

作者注:忘れないためのネタ出しなので数話で終わる予定です。



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 夜11時過ぎ、フロアにカタカタとキーボードを叩く音が響く、PLから開発は大詰めだと聞いて数ヶ月は過ぎた。

 はたして大詰めというのはどれだけ詰め込めるかをチャレンジするための言葉だっただろうか。


 働き改革なんて、私達には関係ない。たとえプロパーが定時で帰ろうともだ。

 派遣で送り込まれた私達は所謂傭兵だ、傭兵というのは現場せんじょうでの成果が求められ、その成果を持って次の現場せんじょうに向かうのだから。


「畑山さんはそろそろ終電だったでしょ。帰りなよ。」


 先輩が声をかけてくれる、私は女だから、それだけの理由で帰らせてもらえる。先輩が、後輩が、帰っているところを私は何日も見ていない。申し訳なく思う。


「すいません、お先に失礼します。」


「お疲れ様っす、先輩ここが終わったら埋め合わせに合コンセッティングしてくださいよ。」


「うん、頑張って集めてみるから、期待してて。」


 後輩もいい子だ、軽いところはあるけど仕事に真面目で素直で、こちらに気を使ってくれる。私は明日も頑張るために家に帰らなきゃいけない。


 フロアを出てエレベーターへ向かう、エレベーターの「▼」ボタンを押し待っているとふいにカラダの力が抜けて膝から崩れ落ちた。照明が落とされた廊下にエレベーターが到着する。私の体は動かない、眼の前で扉が開いたエレベータの光が私の意識を誘う。


「…!先輩!畑山先輩!、だいじょ…


 最後になにか聞こえた気がした



 ************************


「いったああああああああああああああああい」


 突然の激痛に私は頭を抱えてベッドの上で絶叫する、それを聞きつけてお父ちゃんとお母ちゃんが部屋に飛び込んでくる。


「カレット!どうした大丈夫か!?」

「カレット、どこが痛いの!?」


「痛い!痛い!お父ちゃん助けて!」


 あまりの痛みに涙と鼻水でベショベショにしながらお父ちゃんに助けを求める。


「直ぐに神父様のところへ連れて行ってやるからな」

「カレット、すぐ良くなるからね。頑張って。」


 父ちゃんが私を抱えて町の教会へ走り出す、教会に着くとお母ちゃんが必死に扉を叩いて叫ぶ。

 私は痛みに耐えられず叫ぶことしか出来ない


「開けてください!娘が、娘が大変なんです!」


「…何事ですか…!すぐ中へ。」


 シスターが扉を開けると、私のただならぬ様子を見て中へ入れてくれる。

 教会の長椅子に寝かされていると、神父様が来てなにかつぶやき、手を頭にかざす


「ぎゃあああああああああああああ、痛い!痛あああ!助けてぇ!」


 今までと比較にならない頭が割れるほどの痛みが私を襲い、私は暴れ出す。お父ちゃんとお母ちゃんが痛みに暴れる私の体を抑えている。

 神父様は一旦手を離すと、もう一度なにかつぶやき、私に手をかざす。

 すると今度は痛みがなくなっていく、痛みは引いて行くことに安堵し私は意識を手放した。



 ************************


「神父様、この娘は…」

「わかりません、今は鎮痛の法術で痛みを抑えている状態です。この娘になにか思い当たることはありませんか?」


 カレットの父、ゴーンズは娘の状態を神父に聞くが、痛みを抑えているだけ聞いて、今は長椅子の上で寝ている娘を思いつらそうな顔をする。


「あの、最初はすごく痛がっていたんですが…」

「見たところ、怪我はなかったため病かと思い、活性の法術を使ったのですが、あまりの痛がりようでしたからすぐに止め、鎮痛の法術に切り替えた次第です」


 母ブリジッタの言葉に、神父は答える。神父とて無闇に痛みを与えたかったわけではない、通常であれば問題なかったのだ。異常な事態に対応したのだ、責められるべきではないだろう。


「思い当たるところと言っても、この娘はいつも通り変わったことがありませんでして…」

「急に夜に叫びだしたと思ったら、痛い痛いと言い出しまして…」


 神父から見ても、なにか特別なことがなく急な事態に夫婦が困惑してることがわかる。


「ふむ、原因を調べるために少し娘さんを触れてもよろしいでしょうか。」


 神父の提案に、二人は顔を見合わせたあと頷く。


「お願いします。」



 神父はブツブツとつぶやきながらカレットの体に手を当てていく。


「…娘さんの症状についてわかりました」


「本当ですか!」


 しばらくすると神父は顔を上げて言った、ブリジッタは思わず神父に詰め寄る。


「お二人は精霊の加護というものをご存知でしょうか。」


「はあ、話し程度にですが。」


 ブリジッタの様子を気にすることなく神父は話を進める、鍛冶屋であるゴーンズは学こそ無いが仕事の付き合いの中で様々な噂話を聞くことがある。それを憶えていた。


「結構です、精霊の加護は非常に強力なものです、それ故加護一つとっても人の身に余るモノで、それを生涯かけて制御していくものですが、この娘には水と土、二つの精霊の加護が与えられていることがわかりました。」


「それは…いいことなんでしょうか。」


「本来は喜ぶべきことなのでしょう、ですが過ぎたる力は身を滅ぼします。おそらく加護が与えられた時に加護の力にこの娘が耐えられず、痛みとなって現れたのでしょう。」


「神父様、ウチの娘はどうなってしまうんでしょうか?」


「正直なことを申しますとわかりません。本来加護自体が害を与えるものではないのですが、強すぎる加護に対してこの娘自身が適応するのか、生涯痛みに苛まれるのか、あるいは…」


「そんな…」


 神父の言葉に力なくうなだれる二人。眼の前には寝息を立てて横たわる娘の姿があった。



 ************************


 ん、背中が痛い…なんか板間の上で寝かされてる感じがする。


「んあ…まぶし」


 知らない天井っていうか、天井がすごく高い。何処だココ


「カレット、大丈夫か!」

「どこか痛くないかい!?」


 お父ちゃんとお母ちゃんが駆け寄ってくる。あれ、私のお父さんとお母さんってこの人達だっけ?うん、間違ってないはず。


「うん、どこも痛くないよ。」


 私の言葉にお父ちゃんとお母ちゃんが抱きついてきて泣き出した。


「よかった、本当に良かった」


 両親が泣き止むと、私は二人と手をつなぎ家へと帰っていく、見慣れていたはずのローディンの町並みを眺めながら…



 はい、私カレットちゃん7歳です。嘘です。いや嘘でもないのかな…?畑山亜梨紗、享年34歳です。

 何の因果か、あの日以来前世なるものの記憶を取り戻しまして日常を過ごしているわけですが、じゃあ、自分が何なのかと問われましたらカレットの記憶もちゃんとあり、前世はあくまで前世でしかなく、今の私はカレットちゃん7歳なのです!

 絶対通年を数えるんじゃねぇぞ。ぶち殺すぞ。


 あれから状況を把握するにつれ、前世の自分が死ぬ前に遊んでいた乙女ゲー「ホワイティア・ハーツ」の世界に転生したことがわかってきたんだけど、なにか微妙にずれているのが気になる。

 例えば主人公は鍛冶屋の娘の「カレット・ダウンゼン」だったのに、私には姓はない。だから私は「ローディン町の鍛冶師ゴーンズの娘カレット」になる。

 そんな細かいところちょこちょこが気になるが、もともとゲーム開始が15歳で、加護を得てからの8年間までがほぼ描写されていないのでどうでもいいのことかもしれない。


 私を見ていただいた神父様からは「加護の力を制御するためにも王立魔道学園を目指しましょう、私共も勉学のお手伝いはできる限りさせていただきます」とのお言葉をいただきまして、最近は勉学の毎日です。まあ、読み書きはもともとできたし、算術は前世の記憶でバッチリだ。

 後は地理、歴史や礼法を詰め込んでいけばなんとかなりそう、教えを授けてくれる教会の方々もあまりの順調さにホッとしているご様子。

 というか、ゲームの主人公ってこの生まれでどうやって特待生になったんだろ、超人かな?


 あとは、そう魔術!…うん、凄いよ。加護の影響もあって水と土の魔術を習ってるんだけど、一言で表すと「ドバー」。で魔力を使い切ってコテンってなるまでがワンセット。全く制御できない。神父様達はこっちの方に頭を抱えていた。


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 それでも月日をかければ何とかなるもので、今の私はカレットちゃん15歳。あの壊れた蛇口みたいな魔法しか使えなかった私も成長し、蛇口が締まりきらずポタポタこぼれ落ちる程度までには制御ができるようになっているのです。やったね!


 勉学は申し分なし、教えを授けていただいた教会の方々に太鼓判を押していただき、入学試験に向かい、無難に筆記試験をこなした後、魔術試験となったが制御は甘いもののとりあえずぶっ放すだけなら問題ないからと試験官共をビビらせてやったぜ。


 そうしてフィルグレン王立魔道学園の校門前に今特待生として私は立っている、晴れて「ホワイティア・ハーツ」の舞台に殴り込みだ!



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 おかしい、こんな娘になるはずじゃなかったのに…信じて来世に送り出したOLがやたらとバイオレンスになっている件



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