【2】殿方がたくさん集まりましたわ!

「ラングロア領第一聖騎士部隊所属、アルバン・インクラードと申します!」

「まあ、元気がよろしいこと」


 決闘初日。

 アリーヌの結婚相手に名乗りを上げた栄えある一番手の人物は、聖騎士のアルバンだった。


 先の自己紹介の通り、アルバンはラングロア領の聖騎士部隊に所属している。つまりはラングロア公爵の矛であり盾でもある存在だ。

 その聖騎士アルバンが、本来であれば絶対に手が届くことのない公爵令嬢との結婚を可能とする決闘の舞台に上がることになった。


 この決闘において一番手になるということはつまり、アリーヌとの結婚を現実のものにするということだ、と誰もが理解していた。

 故に、くじ引きで決められた挑む順番に対し、皆一様に一憂し、唯一笑みを見せたのがアルバンであった。


 もしかして、くじ引きというのは建前で、本当はアリーヌ様が私を選んでくれたのではないか? だとすれば、このお誘い、無礼な真似だけはできない。アリーヌ様を失望させることなく、御身を私に委ねていただくまで……!


 アルバンは妄想していた。

 決闘に勝つのは当然のことであり、問題はどのようにしてアリーヌを敗北へと導くのか。


 衆人環視の中、将来の妻であるアリーヌ公爵令嬢に恥を掻かせてはならない。

 勝つことは容易でも、その勝ち方を完璧に求めるとすれば、それは何よりも困難だ。


「公爵様! 一つよろしいでしょうか?」

「何だ、申してみよ」

「はっ! 此度の決闘に際し、決着の有無についてお訊ねしたいのですが、場外を設けて頂くことは可能でございますか」


 これはアリーヌとの一対一の決闘だ。

 当然、怪我も考慮していることだろう。


 たとえ大怪我を負ったとしても、回復魔法やポーションがある。それも公爵家ともなれば、瀕死の重傷を負った者でさえも一瞬で治してしまうほどの用意があるに違いない。


 だからこその、決闘なのだろう。

 誰もがそう思っていた。


 だが、たとえそうだとしても、公爵令嬢であるアリーヌを傷付けるのは以ての外だ。

 場外での決着が許されるのであれば、それに越したことはない。アルバンはそう考えた。


「場外……ふむ、理由を申してみよ」

「公爵様にとって何よりも大切な存在であるアリーヌ様を、私はこの決闘において傷付けたくはございません。ですので、もしお許しが頂けるのであれば、場外の許可をお願いしたく存じます!」

「……だそうだが?」


 ラングロア公爵が、横に佇む女性に意見を求める。

 その人物はもちろん、当事者たる存在、アリーヌ・ラングロアだ。


「ふふふ、わたくしに怪我を負わせたくない……と?」


 アルバンの姿を瞳に映し込み、じっくりと観察したかと思えば、アリーヌは不敵な笑みを浮かべる。


「アルバン様は、随分とお優しいのですね?」

「いえ、あのっ、私は当然のことを言ったまでです!」


 公爵令嬢と言葉を交わす機会など滅多にない。故に、緊張するのも無理はない。

 そもそもアリーヌは、ラングロア領内だけでなく、王国大陸全土においても高嶺の花とも言える存在なのだ。

 そのアリーヌから言葉を投げかけることで、アルバンは天にも昇る気持ちになっていた。

 だが、


「心配無用よ」


 あっさりと。

 実にあっさりと、アリーヌは問いに対する回答を口にする。


「で、ですが、場外無しですと……」

「場外は有りで構わないわ」

「え? あの、でしたらその、何が心配無用と……」

「わたくしに対する怪我の心配が無用と言っているの」


 それはもう自信満々と言った様子で、アリーヌが告げる。

 怪我などしない、するものか、とでも言いたいのだろうか。アルバンは一瞬だが、そう思ってしまった。


 しかしすぐに考えを改める。


 アリーヌ様は、己に怪我を負わすことなく場外へと運んでみせろと仰っているに違いない! つまりこれは、私という人間を試そうとしているのだ……!

 だとすれば、この決闘、何が何でもアリーヌを場外へと導いてみせよう。それこそが自分に課せられた使命なのだから。


 アルバンは勝手に解釈する。

 当然のことながら、事実は似て非なるが、アルバンは気付いていなかった。

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