フツメンofウィザード

[第一話、フツメンofウィザード]

4月9日

「お疲れしたー」

あー、今日も終わった終わった...

俺の名前は林 悠馬、25歳、趣味なし、彼女なし、『鋼の匠株式会社』に勤めて6年、本日は華の金曜日。

「おー、悠馬お疲れさん」

明るい声で話しかけてきたこの人は俺の先輩、子川先輩。

「今晩一緒にどうよ...今日こそはアイライブの沼に引きずりこんでやるからさ」

「ほんと好きっすね、アイライブの黒鉄（クロガネ）ミノルでしたっけ？」

「そこまでわかっとったら、あとは推しメンを見つけるだけやな！行くぞ！悠馬」

「今日はちょっと！すんません、お疲れっす！」

俺は逃げるように子川先輩から去っていく。別になにか用事があるわけじゃない。ただ金曜だし、一人で酒でも飲んでマッチングアプリでもして気になる子と話して、会いたかったら会って、イケそうならホテルにGO！

会社は日本橋にあって、俺は日本橋駅から片道30分の家賃6万ワンルームの江戸川区で暮らしている。

金曜日ってだけでいつもより早く帰りたい衝動が倍増するのか、ダッシュで階段を駆け上ればギリ1本早い電車に乗って帰ることができる。

階段をダッシュしたおかげで座ることはできなかったがギリギリ電車には乗れた

電車が動き出し、夕暮れというかほぼ夜の景色を眺めながら帰りの電車に揺られる。

「卒業式が終わったと思ったら、もう入学式だよ、早いよね」

「それなー、高校生活楽しみー！」

いつもは思い出すことなんかないのに今日に限ってしょうもない雑誌をしている高校生が目に入ると、学生時代を思い出した。

俺は生まれつき髪の色が人より明るく、小学生の頃にはこの銀髪を『おじいちゃん』なんてからかわれ、中学、高校でも同じようにからかわれてきた。それだけならいいんだけど、中学に上がってからは思い出したくないようなイジメも毎日受けてきた一番酷かったのは高校生のときだったな確かいや思い出すのはやめておこう

親はもちろん俺がイジメられてることなんて知りもしない、実の子が学校で壮大なイジメをうけてるなんて知ったらきっと失神しただろう、なにせ外面だけはいい親だったから。

卒業してからはこっちに上京して、クズたちや親がいない環境で一から生きていこうと決め今に至る。それでもやっぱり『ガキ』、とくに高校生を見ると虫唾が走る。悪いな、高校生、お前らが悪いんじゃないんだけど、お前らは子供のフリをした悪魔だと俺は思ってる。

ｰｰまもなく江戸川駅です。ｰｰ

まぁいいやさっさと家に帰って、酒でも飲もう。

帰宅する前に俺は近くのコンビニに寄り、酒とつまみを買って帰宅。

散らかった部屋の電気をつけ、とりあえずテレビをつけながら一人で晩酌をする。

「続いて登場するのはこちらの美女！身長170cmの今売れっ子のモデルMAiちゃんです！」

「どうもーMAiです♪」

「やっぱり綺麗だね。ところでMAiちゃん、最近マイブームがあるんだって？」

「そうなんですー、実はMIRAI（ミーライ）というグループにハマってまして〜...」

テレビに映る美人モデルを眺め、ため息がでる

「こんな人が俺の彼女だったらな、これでも2年前までは彼女ぐらい、いたんだけどな」

当時付き合ってた彼女とはラブラブとまではいかないがそれなりに好きだったし大事にもしてただけどある日突然フラれた、理由は「面白くない」って言われたから。

「なんか、今日は嫌なことばっか思い出す。外に出てタバコでも吸うか」

昼間は暖かいのに夜は少し寒い春先のエモい温度差に俺はタバコに火をつけ遠くを眺めながらぼーっとしていた。

「キラキラした人生送りたかったなー、恋愛もして友達もいて、ただの普通の高校生としてやり直せたら最高なんだけどな」

そんな冗談をつぶやき、スマホの通知音がなりジャージのポケットからスマホ取り出し、確認しようとしたとき運悪く手を滑らせスマホが宙を舞う、逃がすもんかとアワアワしていると、突然ベランダの柵が外れ、俺はスマホによって宙に投げ出された。

没年25歳、死因ベランダからの転落。

4月10日

なんか意識がぼーっとする

俺生きてる？それとも死んでる？

「ゔぅ..ゔぅ..」

誰かが泣いてる？母さんかな？凄い泣き方だな、うめき声みたいな泣き声やめろよ

しかもさ顔にいっぱい冷たい涙と鼻水なのかわからんけど冷たくて気持ち悪いのはわかる、つか死んでても感覚わかるんだな、なーんか話してるけど聞き取れない、うし、そろそろ母さんの泣き顔でも見てやるか

俺は両の目をゆっくりあけるずっと目を瞑っていたせいか眩しい光が降り注いで..

え？すんごい綺麗な青空、俺の葬式野外でやってんの？

一瞬焦ったが何故か冷静な俺はモゾモゾと動く母さんを一目みようと視線を向けた、てか母さんじゃない！？なんだコイツぅぅう！

「おぎだが、おーい男が目を覚ましたど」

お前誰だよ！人間じゃないだろ！しかも誰呼んでんだよ！

「ゔわぁぼんどにおぎでる、兄者ごいづ魔法使いかな？」

「『今日』のこの近くでその服を着てるってことは魔法使いってことだろ」

「あのーすみませんアナタ達誰ですか？それとこの縄ほどいてくれませんか？」

「おでだちは誇り高きオークだ！お前オークを見たことないのが？」

「あるわけないし！あったとしてもムニバのワリーホッターのアトラクションでしか見たことないです。」

「ムニバ？なんだぞれぇ？まぁいいやざっざとジヂューにしようじぇ」

おぃぃ！さっさとシチューじゃあないんだよ！なんだよその昔話にしか出てこないような包丁！でかすぎだろ！なんだよこの世界、あっ！わかったぞ、あれだVRだそういことだそういことにしよう流石令和だ時代は進化したもんだな

「まずは足首を切り落とすか！ぞれ！」

その言葉通り、足の骨は太いはず、なのにギコギコはせず、一度刃が入ってしまったら、スゥーーッと刃が降りていってくれるぐらいに綺麗に切り落とされる感覚がした。

切り落とされた瞬間は痛くなったけど、すぐに鋭い針が神経を貫くような激痛が走り、痛いを連呼することしかできないぐらいに痛いしドクドクなのかビクビクなのかもわからない感覚もする。

全身の毛穴から汗が吹き出し目の前はグルグルしてるし怖くて涙も鼻水も流れる

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない！

「誰かー！助けてください！」

声帯を潰す勢いで叫んでみたが返事1つ返ってきやしない周りから聞こえてくるのはコイツらの汚い鼻のなる音だけ

「うるー..じゃいやつだーー..、ーー..う首から落とーー..か！」

足を切り落された痛みからなのか耳鳴りが酷くまともに声が聞き取れない

「...ーー..風...」

どこからともなく女性のような声が聞こえたと同時に風の刃が一瞬通過し俺の首を切り落とそうとしたオークの首が一瞬にして吹っ飛び、映画でしか見たことないような血しぶきが舞い上がる

「誰ｰｰだ..出てーー..い！姿を現しやーー..れ！」

「彼を..離なーて..ーこ..から..立ー..ち去りなさい、次はー..あな..た達のーー..よ。」

女の人が森の奥からなにか話してる。

「..前もごいづのーー間..かぁ！こんなやつやっちいーー..ましょう！兄者！」

「おーー..！お前も食ってーー..る！」

「それが答えでー..すね、ヤマトマルは..ーー.これを..彼..ー..任せた、私はオー..ーー..殺る」

ぼんやりとだけど青緑色したツバメが俺に近寄ってきてなにかを口に放り込み噛むように指示してきた。

指示通りに噛むと不思議と痛みが和らぎ、意識がはっきりしてくる

「よぞみずるな！！」

一匹のオークが小さなツバメに平らな木のボードみたいな物で殴りかかるが

ツバメはヒョイっと避け

「あぶないっスね！くらえー」『疾風迅雷』

素早い動きで無数の小さな風の刃をオークに浴びせるとオークはあっという間に息絶えてしまった。

「魔法を刀に付与」

少女は腰に身に着けている短刀に自身の魔力を宿らせいっきにオークに飛びかかる。

相手は木の棍棒体格もデカい、少女は華奢で短刀、普通なら体格差で勝てるはずもないが

少女は柔らかい紙を切るように兄者オークを一瞬にして細かくバラバラに刻んでしまった。

スゥっと深呼吸し、少女は俺のほうを見ると駆け足で近づいてきた

「足を切り落とされたのね、これなら私でも治せそう綺麗に切り落とされてるから。」

『ヴィータル』

彼女は不思議な言葉を発すると手から温かい光が放たれ、切断された足と断面を包み込んでいく。まるで時間が逆戻りしたかのように、ドンドンくっついていく感じがした

黒のローブに黒のスカート茶髪のポニーテール少女が俺の切り落とされた足を治してくれてる..。

「よかったッスねリン様に治してもらえるなんてありがたいと思うッスよ！」

俺ツバメにめっちゃ上から目線で話しかけられてる。普通は動物が話してたら驚くところなのに割と冷静なのはいっきにいろんなことが起きすぎたからだろうな。

「これでよしと..」

彼女は独り言のように俺の足がくっついたのを確認してくれるといきなり俺にわけのわからないことを言ってきた

「1つ言わせてもらうけどエンチャントレルムの生徒なら縄ぐらい自分の魔法でほどいてオークぐらい1人で倒しなさい」

「エンチャントなんちゃら？ゴメンなに言ってんのか全くワカリマセン」

彼女は俺の言葉にはぁ？正気か？みたいな顔で

「その服着といてわからないって私をバカにしてるんですか！？もういいです助けてあげて無駄でしたサヨナラ！！」

「服って俺ジャージだけど....うわ！なんだよこの服いつの間にこんな服に着替えて..どこいくんだよ！待ってくれよ！」

あぁ、どんどんポニテ少女と変なツバメが遠のいていく...

「いいんスか？アイツのことほっといて。」

「良いも悪いもあの人が悪いんでしょ、それにヤマトマル、スじゃないでしょ！その言葉使いやめなさい」

「申し訳ございませんでした、リン様。」

サァー..ザザァー..と森の心地よい音が聴こえる...

じゃなくて！あの二人どこいったんだよ！とにかくこの森を抜けよう！

俺は森を抜けるために街っぽい建物を目印に走った

しばらく走ってると街が見えた、どこにいけばいいかわからないけどあの女の子が言ってたエンチャントなんちゃらの制服を着た人間に会えればなにかわかるかもしれない。

街の人にそのエンチャントなんちゃらの行き方を教えてもらうために俺は花屋のお姉さんに話しかけた

「あの！エンチャントなんちゃらってどうやって行けばいいですか？」

「エンチャントなんちゃら？あぁ！エンチャントレルムね！それならこの道をまっすぐいったら駅が見えるから、その列車に乗れば着くはずよ！1年生？可愛らしいわね〜入学式頑張って」

「ありがとうございます！」

優しいお姉さんに道を教えてもらった俺はその駅に向かうことに、ん？待てよ..入学式？なんのことだ？俺25だぞ、試験なんか受けた記憶もないしあのお姉さんがおかしいのか俺がおかしいのか..まさか！これっていわゆる異世界転生！？

おいおい！冗談じゃねえ！今すぐ元いた世界に帰りたい！

そんなことを考えながらも歩くのをやめず俺は駅につき駅員にエンチャントレルム行の列車があるホームに案内してもらった

「これがその列車かすげぇ..列車なんか初めてみた」

ホームに止まっている列車はいつも乗っている電車なんかよりも古く見えたけど、オーラというか言葉では言い表せない気持ちになった

「キミ1年生だね？列車に乗るなら生徒手帳を見せてもらえるかな？」

へ？生徒手帳なんだそれ？そんなもんどこにあるんだよ..

ローブの中を探し回したが生徒手帳なんか見つかりもしない、もしかして俺積んだ？

「そこじゃなくて、内ポケットじゃない？」

いきなり話しかけてきた声に視線を送ると天然パーマのオレンジ色の髪でメガネをかけてる男の子が内ポケットを指差していた。

「ホントだ！さんきゅうな！」

「どういたしまして！はい駅員さん生徒手帳です。」

「ジョン・ミラー君だね、入学おめでとう」

「俺のもお願いします。」

「ハヤシ・ユウマ君、入学おめでとう」

「ユウマって言うのかよろしく僕はジョン！」

「よろしくな！ジョン」

[おまけ]

「ユウマです、なんで俺こんな世界にいるんだろ..いつも通りの土日過ごしてまた月曜から仕事にいく予定だったのに...でもさっき助けてくれた女の子にまた会えるかな、いやいやそんなことより！元いた世界に戻って元の生活に戻る方法考えないと..」

次回！[第二話、入学おめでとう！]