#2
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「もう無理、動けねぇ……」
噴き出す汗もそのままに、控室のソファに倒れこむ。
「俺より年下なのに俺よりへばってどうするんだよ」
「3つは誤差だろ……」
俺を見下す最年長に息も絶え絶えに返す。
俺の死に様を見た陽が部屋の角の扇風機のスイッチを押してくれる。ひやりとした風が俺の首筋の汗に触れる。
「い、生き返る~……」
文明の機器、最高。扇風機を考えてくれた先祖の誰か、ありがとう。
そして陽、お前はなんて年上を敬えるやつなんだ。
「あっそだ、映画祭映画祭~」
まだスキップをする気力のある20に若さの恐ろしさを感じる。
陽はそんな俺のことを気にする様子もなく、暢気にテレビの電源をつけた。
授賞式はもう始まっていた。画面越しでさえ、荘厳な雰囲気が伝わる。
「続いて、新人女優賞の発表です」
3秒、沈黙が走る。陽や准も、俺と同じように画面を見入る。
「第38回世界映画祭、新人女優賞―」
すぅっと司会の女性が深く息を吸う。
「
一瞬の静寂の後、会場が湧き上がる。
「そんな女優いたっけ」
「新人だから知らないんじゃね?」
「たしかに」
陽と准の会話が聞こえる。
耳鳴りがする。頭が重い。
「……理人?」
「お、……俺」
声を絞りだそうとして、自分の息が荒くなっていることに気づく。
「俺……」
女性がレッドカーペットを歩く。コーラルオレンジの髪の毛が肩で揺れている。
画面に釘付けになっている俺の横で、俺を心配して寄ってきてくれた陽も硬直している。
「花ちゃん、じゃん……」
俺が言葉にできない事実を言葉にしてしまえる20に若さの恐ろしさを感じる。
「え、花ちゃんって、」
「いやだから、理人のオタク!オタクっていうか、降りちゃったのかな、急に来なくなったけど、デビュー当時からずっといてくれた人で」
「陽」
頭が追い付かず、俺より先行している年下に縋るように止める。
俺のファンが、世界的スターになっている。
言葉にしても余計意味が分からなかった。
数年前まで、埃臭いライブハウスでペンライト片手に推し活動をしていた彼女が。俺が見ない3年間で、世界的スターになるなんて。
息を吸うには息を吐くことから、という誰かから聞いた言葉を思い出して息を吐く。ライブ前と同様に陽が差し出してくれた麦茶を手に、ぐいっと一気飲みをした。
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