俺の盆はよくひっくり返る
おちみちお
第1話 中年サラリーマンの死
「ああ、俺は死ぬのか・・・」
健康診断では視力と聴力以外は悪いところだらけで、
中性脂肪や高血圧で要精密検査・・・
昔のスーツもぴちぴちで、頭も白髪で薄くもなっているさえない中年サラリーマンの俺は、考え事をしながら工事現場のそばを歩いていた。
「どうしてこうもうまくいかないんだろう?こんなに失敗するのは俺だけか?
今日も仕事でミスをした・・・『いい年して、あんた何してんだよ!』と一回りも
違う年下の上司に怒鳴られる。俺は生まれ変われるのなら、猛勉強して、いい大学
入って、一流企業に就職して!仕事帰りには、居酒屋は毎日ではなく週末だけ!
平日はジムに通って細マッチョをキープして!風呂上りもちゃんと髪を乾かして禿げないように努力して!・・・ああ・・・馬鹿馬鹿しい・・・」
「あ、あぶない!!」
工事現場のガードマンが叫ぶ。俺に向かって叫んでいるようだ。
「上!上!!!」
上がどうした?ふと上を見上げると鉄パイプの山がどんどん近づいてくる。
たぶん鉄パイプを持ち上げていたんだろうが、ロープが外れたみたいだ。
運悪くその下を丁度俺が歩いていたわけだ。
運が悪い?死んだって誰もなんとも思わんだろう?事故だから賠償金もしこたま妻と子供にはいるだろう。家のローンも終わるだろう。いくら生きる気力がなかったって、自殺する勇気もなければ知恵もない。こんな終わりを望んでいたんではないか?
「よけてよけて!!」
ガードマンの必死の呼びかけにも答えず、俺は上を見上げたまますべてを受け入れた。そのまま鉄パイプの雨を汗ばんだ体の汚れを落とすシャワーのように気持ちよく
浴びた・・・
即死なんだろう、痛さを感じることもなく目の前が真っ暗になった。
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