消えた君、残る写真

とっぴい@猫部@NIT所属@WGS所属

人が消えても写真は残る

 僕はリビングに置いてある君の写真を見て思った。


 そうだ、今日は君がいなくなってからちょうど一年か、と。


 あの写真は一年前のこの日、僕が撮った写真だ。


 別にデートというわけではなかったけれど、2人でどこか行こうと誘われたから遊びに行ったんだったっけ。


 その時、僕は一生忘れることが出来ないであろうあの日のことを思い出していた。


 あれはセミがミンミンと鳴いている夏の日、僕が中学2年生の頃のことだった。





 僕と君は思春期の男女にしては結構仲が良かった。その仲をカップルだと囃し立てられたこともあるけれど僕はあくまでも君がとして好きだったのだ。だから君を性的な目で見たことなんてほとんどなかった。


 まあ君はスタイルが結構良かったから他の男子たちは特に取り柄もない僕と君がいるのが気に食わなかったのだろう。


 そんな僕らはいつも通りたわいもない話をいつもしていた。


 そんな時だった。君が不意に言ったのだ。


「ねえ今度2人で遊ばない?」と。


 君とは学校ではよく話していたけれどそれ以外ではあんまり付き合いがなかった。


 だから急に2人で遊ぼうと言われて一瞬驚いたんだった。


 それでもと2人で遊ぶなんて事は僕はあまりなかったので、遊ぼうと言われたことが単純に嬉しかった。


 その遊びに行った日が最悪の日になるとも知らずに。







 君と遊びに行った日はどこに行ったんだっけ。そうだ、UFOキャッチャーをしたいと2人とも思っていたから初めにゲーセンに行ったんだった。


 君は手先が器用だから何個も景品を取ってた気がする。


 だけど一方の僕は情けないことに全然取れなくて君に手伝ってもらったんだ。


 まったく情けない話だね…としていいところを見せたかったのに。


 その次はどこに行ったっけ、どこかの店に寄ったような気がする。沢山の所に行ったから順番なんてしっかり覚えてないや。


 僕にとって印象的だったのは初めと最後だけだったのだから。


 いや、最後に全て持っていかれたというのだろうか。それほど最後の出来事は強烈で、どうしても忘れることが出来ないのだ。


 僕にとってあれはトラウマとも言っていいだろう。あれから僕は悪夢をよく見るようになったからだ。


 その夢には決まって君がいる。


 それくらい僕の心に刻み込まれた最後、それは君と別れる時のことだった。その時天気予報になかった雨が降り出していて君も僕もずぶ濡れだった。


 唐突に君が話を切り出したんだ。


「ねえ律、この世界って理不尽なことばかりじゃない?」


「まあ、そうだね。自分の思い通りにいかないことばっかだし。」


「だって私さ、自分の好きなように生きたくても親にずっと邪魔されるんだよ?」


 本当に唐突だった。君は自分のためていたことを吐き出すように言った。


「お前は女なんだから女らしく振る舞いなさい、って意味わからないこと言うし、男の子が見るような物にも一切触れさせてもらえなかったし。」


「その内絶対に何回は触れることになるはずなのにね。」そう言って諦めているような笑いを君は浮かべた。


「今までは我慢してきたけど今回だけはもう耐えられないんだ。」


「陸、ちょっと聞いてほしいんだ。私、いや俺の話を。」


 そう言って君は一人称を変えて話し出した。


「俺はね、元々なんていうかいわゆる女の子がやる遊びっていうより男の子がやるような遊びの方が好きだったんだ。」


「その時は何も思わなかったんだよ、別に好きな遊びくらい男子の誰にでも違いはあるだろうって。」


「でもね、成長するにつれなんとなくわかったんだよ。俺の心と体の性が違うってことが。」


「病院で診てもらったりしてないから確実かどうかはわからないけどね。少なくともそれでもなんか思っている体と実際が違うなとは感じているんだ。」


 この時僕はなんて返せばいいのか分からず、黙っていることしか出来なかった。


「それに気づいてからは毎日の生活が地獄だったよ。」


「何でもかんでも想像とは違う生活をしないといけない、おまけに親が親だ。相談したら何言ってるんだと一瞬で突き放されたよ。」


 そんな事をずっと言っていた君は僕に向けてこう言ったんだ。


「俺を男として写真に撮ってくれないか?陸は確か写真撮るのうまかったよな。」


 その時に僕は今日の君の服、そして髪型の理由が分かったのだ。


 そして僕はあの写真を撮った。写真の中の君はとってもカッコよかった。


 そして君、桜木紫苑はその後行方不明になった。僕と分かれたすぐ後に川に飛び込んだらしい。何人かが目撃している。


 そして紫苑が別れる時に僕に渡した日記、それにはいろいろなことが書いてあった。


 普通の日記のような内容、両親への不満の数々、そして、僕への感謝の言葉。


紫苑は僕を単なる友達ではなく親友としてみてくれていたらしい。これはとても嬉しかった。


 だけど同時にできることなら相談をして欲しかったとも思った。


 写真の中にいる君はまだ夏の頃の君だ。


 この写真は夏に置いてきた写真だ。

 


 

 


 


 


 


 


 

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