第50話 魔の総体
魔の総体
お嬢様が魔獣たちに立ち向かうけれど、その数はあまりに多く、一人でどこまで対応できるか……。
「チェイン・ライトニング‼」
ヘラお嬢紗の杖から雷光がとどろくと、それが直撃した先から、また別の魔獣へと連鎖して雷光がすすみ、次々と魔獣が倒れていく。電圧の高い状態で放つことによって、雷が通りやすいところ、抵抗の低いところを探してすすむように、複数体に次々と攻撃できるのだ。でも、それすら焼け石に水、といった状態だ。
アカミアがみんなを守るよう、前に立ちふさがった。現れた魔獣たちは雑魚、すなわち彼女の呪いにより、雑魚の魔獣なら、彼女を避けて通る。でも、魔獣たちは狂ったように走っており、アカミアの呪いがどこまで通用するか……。
村人たちも戦おうと武器を手にするが、ここにいる村人の魔力はそう高くないようで、武器も旧式だ。
むしろ人族の中でも、魔力の高くない者だったからこそ、ここに贄として据えられた。身分の低い者だったからこそ、使い捨てにされたのだ。ボクも気づく。彼らは街にもどったところで低い身分にとどまり、よい暮らしができないと悟っていた。だからここにとどまり、魔獣と戦ってでも生きる道をえらんだ……。
ファリスが魔力不足で学校に通えなかったように、この村の人々は全体的に、魔力が低いのだ。
ベスが村を出ることを赦されたのも、きっと彼女にはある程度の魔力がある、村の外にでても生きていける、という判断、親心があったのかもしれない。
両親が勇敢に戦って亡くなったのだから、村の外でも生きられそうな彼女を無理にしばりつけておく必要はない……。
そのとき、ファリスの母親が彼女の前に立った。
「あなたは……強く生きなさい。村の外で生きる術を得たのなら、もうこの村に縛られておく必要はない。魔獣と戦い、自ら犠牲になることはないのだから……」
「どういうこと? お母さん!」
母親は走り出していた。迫りくる魔獣の群れにめがけて。自分が勇敢に戦って死ねば、娘を自由にさせられる。そう信じて……。
ボクはそのとき、魔獣たちを恐れさせるその存在を探し求めて、魔獣の群れの奥まですすんでいた。
魔獣はほとんど意思を失った存在だ。そして欲望に忠実となり、主に生存欲としての食欲が強まり、人を襲う。
そんな魔獣を恐れさせる存在とは……?
…………いた。
夜陰にまぎれているので、目視することはほとんどできない。……否、存在そのものが希薄にも感じられた。
「煙のような魔獣か……」
むしろ霧、と呼ぶべきか? ボクはこの世界のことはまだあまり知らないけれど、そういう魔獣がいても不思議はない。
でもそれは、ある意味で危険を伴う発想でもあった。魔の総体……というヤツだ。
動物が魔の力により魔獣化するのとちがい、魔そのものなのだ。
物理攻撃は効きにくい。魔法攻撃とてほとんど意味を為さないだろう。魔法とは、魔の力を物理に転換するものなのだから。
「お嬢様では戦いにくい……か」
どうやら、ボクがやるしかなさそうだ。
あれが魔力の集合体なら、ボクとてどう戦っていいか? この世界では、魔の力が強いところがあり、ここもそうなのだろう。だから魔獣の森となる。
そして魔の力が強くなりすぎて、時おりあぁした怪物が生まれる。魔獣すら恐れるほどの強い魔力を集めた、ただの空間、塊だ。
だからこそ戦い方が難しい。
魔が溜まってしまっただけの、ただの存在である。魔を祓うやり方などあるのだろうか……?
そう思って近づくと、不意に声がした。
「キサマ……、転移者か?」
「へぇ、そんなことにも気づくのか?」
そう応じつつ、不自然さも感じていた。魔の総体なら、記憶やそれこそ思想をもつことに違和感がある。この世界の〝魔〟とは……?
「だが、なぜ魔力がない?」
そう訊ねられた。敵意があまり感じられない。
「それをボクに問われても知らないけれど、恐らく魔の力をもつ者だと、オマエの魔力に充てられ、近づくことさえできないんだろ?」
「その通りだ。魔力がないキサマには何も感じないだろうがな」
「魔獣の動きをみてもよく分かる。なぜおまえは誕生し、こうして魔獣を恐れさせるんだ?」
「私とて、こうしてこの世界にかかわるかどうか? それは私の意志で決められているわけではない。条件がととのったとき、現れるということだ」
「なるほど……。じゃあ、こうして表に出てこないときでもおまえの意識はあって、この世界をみている、ということだな?」
「魔とは、この世界における意思の総体だ。強い意志に充てられると、肉体すら変容してしまう。こうなりたい……と願う気持ちによって、肉体も変化するように、だ。だから、我々がこの世界に積極的にかかわろう……と考えることはないが、それによって人や動物などにも影響を与えてしまう。そして時おり、こちらの世界ともコンタクトできるようになる」
「なるほど……。じゃあ、ここから消えてくれないか、といったら?」
「それは我々の意志によらず。消せるのなら、勝手にそうせよ」
やるしかなさそうだ。ボクは拳を固めた。
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