学舎で 社会科見学編
サファイア
第1話 組めぬ者
「はい。以上となります。7人班を明後日までに決めといてください。」
社会科見学を1ヶ月後に控え、最初にして最大の難関が訪れた。
結論から言うと、あまり乗り気ではないのである。
コミニケーション能力はそこそこあるのだが、ちょっと友達にトラウマがあったりなかったり。
気が重くなりながらも、弁当の包みを持ってランチルームに向かう。
「きょーさー、山野牛乳よろしくねーぇ♡」
クラスのぶりっ子岩舘が、俺に声をかけてきた。幸先が悪い。
「今日の牛乳当番は岩舘さん。お願いします。」
「でもでもぉ、私重いもの運べないしぃ、せんせーも『お互いに手伝い合いましょう』って言ってるよー♡じゃ、おねがいねー♡」
と言い残すと、岩舘はそそくさとイケメン男子の方へと駆けて行った。
正直なことを言うと、そんなくだらないことで良かったと思った。
まあ、あいつが俺と組みたいなんて言うのは、俺をパシリにしたい時くらいだからありえねえな。
悪態を垂れながらも、牛乳瓶の入ったカゴに手を伸ばす。
う゛っ⁉︎
いつにも増して重い牛乳カゴに度肝を抜かれ、一度机に戻そうともがく。
ツルリ ガタガタッ
「あ゛ー、やってしもたぁ。」
自らの身を犠牲にして大惨事は防いだものの、牛乳瓶1本が犠牲に、そのほかの牛乳も白い雨を浴び、廊下いっぱいに転がっている。
これを1人で全部拭いてカゴに入れ直すのかぁ。それも15分以内に。
4時限終了後から昼飯まで時間があるのが唯一の救いだ。
もちろんこんな俺を手伝う奴はいない。1人を除いて。
「山野君、どうしたの?これ。」
澤野結衣。かわいい。
「先刻事故った。岩舘に押し付けられて。」
「じゃあ手伝ってあげるから雑巾もらってきて。」
白く染まった腰を上げ1年教員室(1教)へと向かう。
コンコンコン
「失礼しまーす。1年4組の山野です。給食室前で牛乳事故発生したので雑巾もらいにきました。」
「ちょっと待ってね。被害は?」
「牛乳1本のみっス。」
「次回から気をつけてね。はいこれ。」
「ありがとうございます。」
秦野先生から雑巾と箒、塵取りと、なぜかバケツを受け取ると、澤野の待つ給食室へと急ぐ。
「もらってきたぞ。」
「遅いじゃない。」
一応急いだのだが。頬を膨らませた澤野もかわいいのでよしとする。
片付けながら、折角なので世間話でも振ってみる。
「澤野って進路決めてるの?」
「今のところはなんとも言い難いけど、推薦か何かでいいとこ行ければとは思ってる。」
やっぱ澤野はちゃんとしてんなぁ。岩舘とかいう奴とは違って。
大方片付け終えて、ランチルームまで運び込み、全員(35人)に配る。俺の分はないが。
今ここで、自分の大失態に気がついた。
「なんであのタイミングで澤野誘わねーんだよう俺ぇ」
学舎で 社会科見学編 サファイア @sapphire_sena
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