喰らい屋 ヨル
くまきち
1話 怪異探偵事務所へようこそ
私はとある雑居ビルの前に来ていた。周りのビルに比べかなり古いように見える外観
だが建物の中は比較的に綺麗にされており蜘蛛の巣一つない、それどころか床は磨かれ壁には清潔感のある壁紙がされている。
一度、外に出て改めて外観を眺める。外から見る限りではここに人が出入りしているとは思えないと実感する。3階の窓には大きく探偵事務所と書かれている。
私の目的はここだ、2週間前に行方不明になった親友の捜索依頼をするためだ。
私は友達6人と一緒にここからそう遠くない心霊スポットに行ったところ私の親友の知己が忽然と姿を消したのだ。
みんなで探したが見つからず次の日には捜索届が出されていた。なんでもご家族の元に電話があり、その電話には必死に助けを求める知己の声だけが聞こえていたらしい。
このことから警察は当日一緒にいた私たちが何か関係があるのではという可能性を考えたがいたずらにしては度が過ぎているという点からすぐに捜索願いが受理される運びになったらしい。
私はそんな時にここの探偵事務所は神隠しや怪奇現象の調査を専門にしているとネットで見かけすぐにホームページから依頼メールを送ったところその日中には日時と場所の記されたメールが返信された。
そして今、私はこうして雑居ビルの前で右往左往しているのである。
「ここで間違いないはずなんだけど、どう見ても不気味よねぇ」
徐にスマホに視線を落としたところでリズムよくスマホがバイブする。
画面を見ると非通知と表記されている、またこれだ”これ”が私がここの探偵事務所にきたもう一つの理由だ。
あの日、心霊スポットに行った全員に不定期にかかってきているのだ。そしてこの電話に出た2人が5日後に心霊スポットで変死体で発見された。
それを境に当日一緒にいたメンバーとは連絡を取らなくなった。というより電話に一切でなくなった、声が聞こえたのだ遠くの方から知己の「どうして無視するの?」というとても暗い声が。
私はこの状況をどうにかするためにここに来たのだ。だがどうも入りにくいいどうしたものか……。
「………おい」
私が悩んでいると後ろから突然声を掛けられた。振り返るとそこには薄汚れたコートを羽織った不機嫌そうな男性が立っていた、年齢的には私とそこまで離れていないように見えるがそれにしては随分と深いクマを目の下に蓄えている。
「わ、私に何か…?」
恐る恐る確認してみると何かを感じたのか頭を掻きながら言葉をつなぐ。
「あぁ、すまん。驚かすつもりじゃなかったんだ。あんた、うちに用があるんじゃないか?」
そう言いながら男性は持っていた雑誌で雑居ビルの方を指した。
「あの、うちって…」
「うちの探偵事務所だけど?」
ということは、この人が探偵……?
このやる気のなさそうな男性が…?
どうやら私は来るところを間違えたようだ。何かの勧誘や高額な品を買わされるに違いない、今すぐにでもここから離れよう。
「すいません、人違いです」
「いやいや、絶対俺のことを見て逃げようとしてるよね?」
この状況で逃げない人がいるのだろか?
男性の声を無視して早足にその場を離れようとした時、背後から冷たい何かが触れた気がして思わず振り返ってしまった。
男性はきょとんとした顔でこちらを見ているが彼が何かしたわけではないようだ。
「い、今、何かしましたか?」
「俺は何もやっていないよ。それに何かできるように見えるかい?」
そう言いながら手をこちらに見せてきた。
確かに彼の手には雑誌はあれど何かできそうなものは持っていなかった。
じゃあ、今のはいつもの気のせい?
それにしては今回は冷たいものがはっきりと触れた感覚が肩にあった。
でもこの男性が触ったわけではない、じゃあ誰が…。
私が考え込んでいると男性が「あのさぁ」とこちらの様子を窺うように声を掛けてきた。正直、相手にしたくないがこちらの事などお構いなしに言葉を続ける。
「君、もしかして昔から他の人には見えないモノが見えたり声をかけられたりした事があるんじゃないか?」
私は気が付いたらバックを落としていた、全身の毛穴が逆立つのがわかるこの目の前にいる得体のしれない男に恐怖を感じているのだ。
私が今まで誰にも話してこなかった秘密を彼は初対面で言い当てたのだ。
「やっぱりそうか……。困ったなぁ」
と私の反応を見て少し困ったように頭を掻いた。
「……あんた最近心霊スポットに行ったんじゃないか?」
「どうしても何も見たらわかるからなぁ、まぁ取り合えず事務所に行こうか話はそれからだ」
そう言いながら彼は雑居ビルの入り口に歩いていく。
彼はもしかして見えているのだろうか私に起きているすべてのことがもしそうなのなら彼を頼るしか私が助かる道はないかもしれない。そう感じた私はゆっくりと入り口に向かって歩いていた。
すると彼が「あぁ、忘れてた」と言いながら言葉をつづけた。
「怪異探偵事務所にようこそ、嬢ちゃん」
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