勇者だけど勇者パーティーから追放されました
歩火 ユズリ
捨てられた勇者
およそ一週間ぶりに再会した仲間たちは、彼女を見るなり怪訝そうに眉をひそめた。
「へえ……あの強敵を相手にして生きて帰ってこれたんだな」
仲間の一人である戦士の男が、少し小馬鹿にしたように言う。他の仲間たちも、彼の言葉に同意したように鼻で笑った。怪我をしていたがそれでも無事に帰ってきた彼女に対して、ねぎらいの言葉も、心配の言葉もなかった。彼らから感じ取れるのはむしろ―――残念さ。彼女が生きて帰ってきたことに対しての残念。
彼女は仲間を見渡した。戦士のリオン(男性)。魔導士のカミラ(女性)に僧侶のアラーナ(女性)。弓使いのジョアンナ(女性)に……。
「そちらの方は誰?」
リオンの隣に立つ見覚えのない女。少なくとも、彼女はその女と面識がない。その女はさも当然のようにリオンの隣で腕を組んでじっと彼女を見つめている。その視線は鋭さを持っていて、何故か彼女の方が少しいたたまれない気持ちになった。
「ああ、新しいメンバーだ。紹介するよ。この子は……」
「武闘家のリンジーよ」
リンジーと名乗る女は、確かに武闘家らしく引き締まった体をしている。ただ痩せて細いわけではなく、鍛えた結果の身の引き締まり方。
「そう。では何故、新メンバーがいるの?パーティーメンバーに不足はなかったはずだけど?」
「いいや、不足はあった」
リオンはゆっくりと立ち上がり、彼女に近付く。
「悪いけど、俺になびかない女は俺のパーティーには要らないんだわ。だから抜けてくれるよな?」
この言葉が、彼女自身に向けられたものだと理解するまでに時間がかかった。やがて他のメンバーからの白けた視線が彼女に突き刺さる。
―――あ、私、嵌められたんだ。
彼女がそう気付いた時にはもう、彼女―――勇者イリヤの居場所などどこにもなかった。
◆◇◆
パーティーを追放された。この事実が非常に重たくイリヤにのしかかる。いったい私が何をしたというのだ……。おそらく戦士であるリオンが勝手に決めたのだろう。
思い返せば、最近のパーティーはどこか様子がおかしかった。イリヤ以外の女性メンバーは彼女から見てもリオンに惚れているようだった。それはもう、「惚れている」と簡単に言い表せないほど。いっそ「崇拝している」と言い換えても良いくらいに、彼女たちはリオンに心酔していた。パーティーで唯一の男性であり、戦士という職業柄、戦闘時には前衛で戦う。つまり、魔導士や僧侶、弓使いである後方支援の彼女たちからしたら、前で戦う男の背中は格好よく映るのだ。広い背中に護ってもらえる!キャー!みたいに。
一方イリヤは勇者であるため、誰よりも前衛で戦い、パーティーの道を切り開く剣となり、盾となる職業だ。どちらかと言うとリオンとは互いに背中を預ける関係だった。
―――悪いけど、俺になびかない女は俺のパーティーには要らないんだわ。
要するにリオンは、所属しているパーティーでハーレムを築きたかったのだ。だからリオンは自分に惚れないイリヤが邪魔で、代わりにどこで捕まえたか分からない新しい女(リオンに惚れている)を彼女の代わりにパーティー入りさせたかった。
そしてリオン以外のパーティーメンバーも、リオンを崇拝しないイリヤが目障りだった。
「どーしよっかなあ……。一度旅を中断するか、それとも一人で続けるか」
イリヤは悩んだ。勇者の指令を受けた時から、この旅の終点は決まっている。ただ、「勇者の指令」という重い旅の目的に着いてきてくれる勇敢な者が果たして現れるのか……。
ぼんやりと空を見上げた。空は嫌味なほどに晴れていて、雲ひとつない青が広がっている。正直、追放されたばかりのパーティーと同じ街に居続けるのは少し気まずい。
―――良い天気だし、隣街に出発しようかな。
そう、思い立った時。
どんっ。
前ろから歩いてきた男と肩がぶつかった。背はイリヤよりも高く、頭一つ分の差がある。男の顔はフードを深く被っていてよく見えなかった。
「あ、ごめんなさい」
イリヤが咄嗟にそう謝ると、男は何も言わずにただ頭を下げて去って行った。よほど急いでいるのだろうか。男の後ろ姿があっという間に小さくなっていく。その後ろ姿を見送っていると、彼女は自身のポケットが軽くなっていることに気付いた。
財布をスられた。そう理解するまでに時間はかからなかった。
イリヤは慌てて追いかける。今日は本当にツイていない。パーティーを追放されたり、スリに遭ったり。深いため息を吐いて走り出した。
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