カナとナナ
ご飯のにこごり
第1話
僕なんていなくなっても誰も悲しまない。だって僕がいなくなっても明日なんて勝手に来るんだから。
仕事をやめた、貯金もそろそろ底が見え始めてる。嫌な事ばかり考えてしまう、アパートの外に出る。何もしていないのに夏が終わる。何もしていなかったから。ああ、ダメだ。またブルーになってる。歩こう。川まで。夜出歩くのなんていつぶりだろう、いつも気が付いたら朝だからわからない。夢と現実もあやふやだし、起きる時間もバラバラで今日が何曜日かもよくわかっていない。日中はカーテンを全部閉めて吹き替え版の洋画ばかり見ているのもあるけど。最近見たのならフルメタルジャケットとかプライベートライアンなんか面白かったな。戦争映画とか普段見ないけどこの二つは、きっと名作中の名作なんだろな。別れが突然な所がいいのかも人の名前を覚えなくていいところが。
河原には花火をしながらバーベキューをする若者たちの集団。自分もまだ若者だけどあんなふうに集まるのは苦手だ。そもそもこんなに草があるのにどうやって降りたんだろう。真っ暗だし、川すらよく見えないのによくたどり着けたな。いいなあ、花火綺麗だなあ。
「あ、痛、ごめんなさい。前見てなくて。」
小学生だろうか。それにしたって顔がいい。正に美少年だ。ターミネーター2のジョンコナーを想像してもらえばいい。あ、僕も謝らないと、声を出そうとするけどうまく喋れない。人にあったのなんて2,3週間ぶりな気さえする。
だ、大丈夫??ごめんね。同じだねあの集団見てたんでしょ、楽しそうに笑っちゃってさムカつくよね。
キャラじゃない口調で少年に語り掛けた。真夜中で良かった。真夜中。真夜中、そういえば何時だ。ケータイを開く。11時43分、おかしい、子供がこんな時間にいるのはおかしい。
君ってさ、もしかして家出少年。
少年の肩がびくりと震える。
おいおい図星か、帰りたくない?
「はい」
もう泣きそうじゃん。息震えてるし。
「うっせ」
君いくつよ、おっさんは23。見えないでしょ。
「え、もっと上かと、あ、それと僕は15歳です。」
この髭のせいかな。もじゃもじゃでしょ。
「きったねーですもんねアンタ、ははは。剃ったほうがいいですよ。モテないですよ」
そういうお前は、、さぞかしモテるんだろうなあ。クソガキがよぉ
「いきなり口悪っ、まあモテますよ。」
お互い様だろ。口悪いのは。あ。家ついた。どうする、泊ってく?
「そりゃ是非是非。よろしくお願いします。お邪魔します。不束者ですがよろしくお願いします。」
なんだその知ってる丁寧な挨拶全部込めたみたいなコンボ。
「いいでしょ、中学生らしくて。」
したり顔で見つめてくる君は輪郭があやふやで今すぐにでも夜の水面に溶けて消えてしまいそうだった。
朝だ、昨日のあれは夢だったのだろうか。ムカつくけど面白いガキだったなあ。飲み過ぎてたからかな、白昼夢か何かだろう。夜だけど。養っていく金なんて無いし、夢であってくれお願い神様。
どうやら神様は意地悪らしい。
「おーいおっさん、歯ブラシが一本しかないんだけど」
なんでいるんだ、それにしたって顔良すぎるだろ。
歯ブラシは買ってきてやるから、今日は我慢しなさい。
今日は?ずっと飼う気か。人間一人養うのがどれだけ大変かわかってんのか。しかも未成年だぞ。
「はーい」
そういえば学校には行くのか?みんな心配するだろ。
「行かない、先生にバレたら面倒だし。」
いや、行け。行ってくれ後悔して欲しくない。お願いだ。
「え、えわかったよ、行くからさ。落ち着けって。」
そうして、俺はおっさんの家を出た。そういやお互いに名前知らないな。また、帰って来てから聞こ。それにしてもくたびれたおっさんだったな23,嘘だろ34はいってるように見えたぜ。
「松田君、おはよ~。今日はこっちからなんだね~。」
「おい、リョウなんだ。お前、いつもと違う匂いすんぞ朝帰りか。」
同じ顔をした二人は根っこから違う、似ているのなんて顔と名前くらいで、こっちのおっとりしている三つ編みのはカナ、今にも噛みついてきそうなポニテの方がナナ。って誰に説明してんだ。まあおっさんに後からこいつら紹介するかもだしいいか。
二人はいつも一緒に俺の後をついて回る。もうそりゃ鬱陶しいったら。恥ずかしいったら。
「うわ。口くっさ。おま、歯磨きしてないだろ。ちょっとこい」
「え~ナナどこ行くのそっち公園だよ。不審者情報も出てるんだからまっすぐ学校に行こうよ。口くさいのはそうだけど。さ」
ショックだった。幼馴染とは言え女の子二人に臭いといわれる。新たな何かに目覚めそうだった。口に歯ブラシを突っ込まれる。ピンク色の歯ブラシ。イチゴ味の歯磨き粉。ナナのか、カナのかどっちだろう。歯ブラシは袋に二本入っていて歯磨き粉ももう一つはミントの辛い奴だ。歯磨きを他人にされるなんていつぶりだろう。心地がいい。床は冷たいけど。
追いついてきたカナが顔を真っ赤にして突っ立っている。どうやら歯ブラシはカナの物だったようだ。よし、今日はなんてさわやかな朝なんだろう。このさわやかさに似つかわしくないものなんてしかめっ面でイチゴ味を押し付けてくるナナくらいだ。てかなんなんだこの状況。いつ終わるんだよ。ナナが満足したようでやっと立ち上がることができる。馬乗りで歯磨きしなくてもよくないか。そうしてやっと公衆便所から三人して出る。歯ブラシの色にバカナナが気が付いたのはそのあとだった。
それから三人は学校まで喋る事は無かった。
それぞれが別々のクラスに入りお互い別の世界に行ってしまったように離れ離れになった。
放課後にはこんなわだかまりも消えているだろと高をくくっていた。
カナは用事があるといって、ナナと二人で帰ることになった。2人で帰るのなんていつぶりだろう。思い出せない、それくらいぶりだ。
「あのさ、ウチのことどう思ってる。」
どういう意味。友達としてってこと?
「ん、へ、いやうん、そう」
大切な友達だと思ってる。見てて飽きないというか行動が読めない、大型犬みたいな感じ、かな。
「そっか。」
ナナの顔は逆光の影に隠れて表情が良く見えなかった。夏の日差しに今だけは感謝したい、と思った。
靴を脱いで家に入る、靴は二足だけ。家には他に誰もいない様だった。お邪魔しまーす。と声高々に選手宣誓をする野球選手みたいに言った。廊下に自分の声が跳ねまわるばかりで本当に世界に二人だけみたいなおかしな気分だった。なんだか寂しいような、泣きたくなるような。本当におかしい。ナナに呼ばれるがままお菓子も用意しないで二階に上がる。部屋には二段ベッド、二人分の飲み終えたマグカップ。同じ種類の色の違う服。リボンの色だけが違うテディベアこんなにも性格が違うのに結構仲良くてお揃いな物も持っててここに来るたびにほっこりする。ここに来るたび、僕は自分の気持ちに気づいてしまい。胸の奥の方が苦しくなる、僕はカナが好きだということに。
髪をほどくと本当見分けなんてつかないくらいにそっくりだ。僕はいつもと違うナナの様子にドキリとする。三つ編みにした彼女はナナはカナそのものだった。僕は悶々とする。お菓子を食べたくなる。
あのさ、お菓子でも食べない?
「うん、いいよ~待っててね」
不意をつかれドキドキする。やはりあまりにも似ている、声も似ていて入れ替わってしまっても僕以外は気づかないだろう。決定的に違うところがあるのだ。ナナの右目には泣きボクロが二つある。そこで見分けているわけではないけれど一番の相違点はそこだ。
「お待たせ~お菓子だよ~うなぎパイでーす」
やっとお待ちかねのお菓子。
お前なんか変だよ。なんでカナの真似してんだよ。そりゃめちゃくちゃ似てるけどさ。
「こっちの方がいいんでしょ。どうせ、お姉ちゃんのほうが。女の子っぽいし、落ち着いてるし。こんなにもアンタの事好きなのになんで気づいてくれないの。」
そうだったのか、でもごめん、俺カナが好きだから。でも今は目をつむることにする。
泣きだすナナを抱きしめ、その日は眠るまでそうしていた。
ただ、その日、カナは帰ってこなかった。
次の日学校に行くとカナは来ていた。ナナは安心した表情でカナを抱きしめる。どうやらカナは昨日、先輩に告白をされそのまま先輩の家に泊まったのだとか。カナの隣にいる180はありそうな先輩に軽く会釈をして僕はその場から走り去った。このままどこか遠くに行ってしまいたかった。そのまま僕は学校を飛び出して。あの河原を見つめていた。昼間の河原は夜とは全然違う、別の場所みたいで、知らない場所みたいで寂しくなった。あそこに浮かんで水を汚している鳥と同じになってしまいたくなった。
そのままとぼとぼ歩いているとおっさんの家についてしまう。いきなり開けたら迷惑だろうか、まず僕の存在が迷惑か。諦めながら扉を開けた。
机の上には倒れた錠剤の瓶と空になった睡眠薬の殻があった。死んでいた。おっさんは。きっと僕のせいで。僕がみんなを不幸にして回っているんだ。埋めてやらないと、俺のせいで死んだのだから。ただ一人では無理だ。そうだナナを呼ぼうあいつなら助けてくれる。いつだって、そうだ。電話をすると予想通りすぐ来てくれた。息も上がっている。
2人では人の死体を持ちあげるのは無理だった。運ぶ手段すらないし。
それから、警察をナナが呼び僕らは軽い取り調べを受けて、僕は無罪放免でそのまま返された。いっそのこと逮捕してくれたら気が楽だったのに。途中コンビニに寄りその晩、僕はナナと過ごした。
何日か過ぎ僕らは半ば共犯者みたいな気持ちで付き合うことになった。2人でいても結局この孤独の穴が埋まることはなかった。
カナとナナ ご飯のにこごり @konitiiha0
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