ニンカツその十一「チートスキルで作ろうくノ一、チート忍法!」
「おねがぁいっ! アレ、ちょうらいっ! 何でもしますかりゃあっ! アレが欲しくてたまりゃないのぉっ!」
「マズいな」「重症だ」
盗賊に変装した《オレたち》は、手がかりを求めて酒場に立ち寄った。
食い詰めた冒険者や犯罪者がたむろする、怪しい店だ。
変装が功を奏して疑われず、客が待つという地下室に通されたが、実際は地下牢で。
縛られもせず放置されていたのは、若い女性。
大きな兎の耳が垂れ下がる、まだ十代前半で学生らしい制服姿の獣人だ。
舌っ足らずに甘えた声音は、ろれつが回らぬほど悪化した麻薬の中毒症状。
「お願いぃ、何でもすりゅからぁっ! 欲しい欲しいほしくてぇぇぇぇっ!」
《オレたち》の足に縋り付き、虚ろな目で哀願しているウサ耳少女は、白地に青襟のセーラー服、赤と黄色のストライプで彩られた迷宮学園の制服を泥と吐瀉物で汚し、全身を自ら掻き毟った傷跡があった。
「学院の生徒かよ」「同級生だよ」
「マジで?」「ナリア・ガルランド」
「思い出した。クラスで二位、学年四位の優等生。竜巻魔法が得意な女の子」
「真面目で闊達で、麻薬に手を出す印象はなかったのにな。何があった?」
「おねがぁい、おねがぁい、おっお、おおおおっ、げぶぇっ! おぇっ、ぅげえええぇえええっ!」
鮮血混じりの黄色い胃液を吐いて悶絶する同級生の哀れな姿に、《オレたち》は眉をひそめる。
(吐血してるし)(何も食ってない)
(廃人寸前)(今にも衰弱死しそう)
(この子を助けたいが)(無理?)
ツムギが思案に集中したため、《オレたち》はずるりと分離した。
盗賊の姿で居ても仕方ないため、トーヤも元の姿に戻る。
「高レベルの解毒スキルに、複数の回復スキルも必要だ。体力回復、外傷治癒、内臓疾患、常習性治療、神職系の高位奇跡か、白系上級魔法ならまとめて治せるだろうけど」
「《オレたち》は神職でも魔法使いでもないもんな。医者や錬金術師で治すなら、それだけスキルの習得が必要かあ」
「しかも司教、魔術師、熟練医、大錬金術師。二次職に転職しないと無理だと思うし、それでも成功は覚束ない。彼女は廃人寸前、小屋の人たちよりマシなだけだ」
「痴女神のおねーさんから貰った経験値、すっからかんになりそうだなあ。でも見過ごせないだろ?」
「この後はかなり厳しくなるぞ。《オレたち》の忍務は途絶えた忍者の再興だ。病と闘う事じゃない」
「元の世界に生き返れないか。いや……選択を間違えた瞬間、消される可能性もあるよな?」
「おねーさんは忍者の神様だ。信用したいけど、疑った方がいい。好意的すぎる依頼主はな」
裏切りは、忍者の常だ。依頼主や上司、仲間に騙され、良いように利用されるなど日常茶飯事。
《オレたち》になる前のトーヤは、『誘蛾』という誘惑特性を利用され、人外問わず釣り餌として利用されてきた。
忘れたくても忘れられない過去が、身魂に刻まれている。
ツムギも座敷童の半妖として幽閉され、長寿繁栄の妖力を搾取され続け、孤独に心を砕かれていた。
甲賀忍軍が《オレたち》を合体怪忍に改造した後も、危険な忍務に駆り出される日々……。
「待てよ、それだ」
「え? 今ので閃くの?」
「忍者だよ! 『シン・萬川集海』!」
思わず叫んだツムギに応え、出現したチートスキルの巻物が出現した。
《オレたち》の周囲を旋回しつつ巻紙をさぁと幾重にも広げ、次々と忍術忍法を開示していく。
「検索しろ。オレが求める忍法を」
「麻薬中毒を治す忍法なんて、ニッチすぎるだろ? 《オレたち》が経験値を消費するのも、変わらねーじゃん?」
「それが違うんだな-。オレが思いついたのは、ナリアをくノ一にする忍法だ!」
「はぁっ!?」
「くノ一なら常人より薬物耐性も怪我、疾患への回復力も数段高くなる。だから回復スキルは必要ない。そしてこの忍法は《オレたち》にぴったりだ。くノ一を増やすんだからな。ずっと使えてお得ってわけ」
「そりゃあそうだが、そんな忍法一発で一般人を忍者にするなんて不可能だろ? ある訳ないって」
【――検索終了】
「えっ? なに今の声っ!?」
「『萬川集海』のシステムボイスだな。イイネ。好みの声優さんだ」
「はぁっ!?」
【秘術・下忍栽培の術】
【人遁・開眼の法】
【忍法・羽化登嬗】
【奥義! 忍び伝授!】
【ニンジャ・エキスパンダー】
【オレハニンジャマスターダ!!】
【――以上が検索条件に九十九割、合致しました。他を参照する場合はココをクリックしてください】
「あんのかよ!? ぜったいおかしいよ!?」
「忍者はロマンだからなー。どれどれ……『下忍栽培』と『マスターニンジャダ!!』は使い捨ての人海戦術用だな。『開眼の法』はその後、修行が必要なのか。『エキスパンダー』は着用者の『遁力』を増幅するカラクリ機械ねえ」
「ええんかいな。こんなに簡単に忍者作って」
「簡単じゃない。どれも上忍か同格の中忍が使う、奥義ランクの忍法だ。一長一短、必要条件も厳しい。『忍び伝授』は一月以上の精進潔斎に道場や道具の仕込みが必要で、対象者も厳選されるぞ」
「やってるヒマねーよ。死にかけてんだよ。『羽化登嬗』はどうなんだ?」
「ああ、コレがいい。習得ポイントがバカ高いが対象者を選ばないし、本人の同意も準備も必要ない」
「マジかよ。スゲーな忍者」
「ただし、術者は経験値を失うし、適性がなければ対象者は死ぬ」
「命がけの博打じゃねえか!」
「術者の忍法を一つ付与し、本人の潜在能力が覚醒する場合もある……さて何を授けるか」
「いや待て《オレたち》の忍法って……」
「トーヤの『含み針』と、オレの『繭糸繰り』か。『誘蛾』『長寿繁栄』《ホワイトシャドウ》の変形増殖能力は絶対に渡せないしなー」
エイブリアに来た異世界人は自分の能力や状態を、他人には不可視のステータスウィンドウで確認できる。
ラビデミアに入学したメリットの一つが、情報収集だった。
多様な地域から多種族が集まるため、タールザンの一般常識に疎くとも目立たず、巷に流布していない様々な知識や伝承を調べやすい。
ツムギは図書館に入り浸り、特に異世界転移者や転生者の記録を調べまくって、彼ら先人たちが遺した動向や能力をかなり把握していた。
その片手間に司書の先生や図書委員の先輩方も摘まみ食いして、かなり優遇されている。
「《オレたち》が持たない忍法でも、付与できないか? 『萬川集海』と併用して」
【可能です】
「できちゃった。スキルと相談してるよこの人」
【『シン・萬川集海』は術者が習得した忍法であり、したがって記された忍法も同様の扱いとなる、という脱法が推測されます】
「実際には習得してないのに? メチャクチャだあ、このスキル! 喋るし!」
「手段を選ばず目的を達する忍者には、おあつらえ向きだよ。良いスキルだ」
【――――――】
「あーもう好きにして。任せた」
「んじゃ適当に選ぶぞ。本人にも《オレたち》にも役立つ忍法がいいな。魔法より理不尽に便利で、かつ裏切られても平気な、攻撃系じゃない……おっ! 『倍加』が中々のチートだな……実に面白い」
「どんな効果でせうか」
「対象一つの技を倍加する。『何を』の指定が無いんで、好きに倍加できるな。効果範囲とか時間とか」
「マジでチートやん!? 大会使用禁止確定壊れカードだろジャッジ召喚だ公式ィ!!」
「忍法だからなー。彼女の場合は大量の魔力を消耗して法則を操作する事になってる。まさに魔法だ」
【『倍加』を伝授時、スキルクラス上限から『三倍化』まで向上可能です】
「速度に掛けたら通常の三倍のスピード、うんそうしよう」
「あーうー」
【では『シン・萬川集海』所持者に『忍法・羽化登嬗』を伝授します。次に所持者が対象者に忍法『羽化登嬗』を使用し、『萬川集海』に記載された『倍加』を『三倍化』に向上し付与します。以上で宜しいでしょうか?】
「あとはナリアに」「適性があるかないか」
「やらなきゃ」「どのみち先は長くない」
「君を救うためだ」「悪く思うなよ」
見下ろすトーヤとツムギの謝罪に気づいたのか、床に蹲って喘いでいたナリアは。
「あ、う」
顔を上げ笑った、恐らく何も理解せず、考えもせず。
「…………オレはOK」
「いいよ、やろう」
【――承認を確認――実行します】
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