0357:剣道部クラスタ

 剣道部のメンバーは六名。生き残ったメンバーの所属部活中で一番人数が多い。が。


「……竜尾とクラちゃんとトビー……まだ全然だね……トビーは? ちゃんと寝てる?」


 現在、この剣道部部長の出島でじまチルハと、副部長の羽倉尾雪はくらび ゆきの部屋には、祝部ほうりジュリアが訪れている。


 この他の剣道部メンバーは竜尾緑化りゅうび りょうか蔵西光美くらにし みつみ戸引何時とびき いつの三名。この三名は……過酷な命令に従っている最中に心が欠けてしまった。このオベニスとかいう安全で快適な場所に連れてこられてからも……正常な自分をいまいち取り戻せていない。


 特に元々精神的に弱く、エキセントリックな所のあった戸引何時は、一度自殺未遂に至っており、親友でもある祝部ジュリアがルームメイトとして面倒を見ながら、監視もしている。


「はい。以前よりは……うなされることも少なくなりました。自殺しようとして、皆に止められて、泣いて、変化があったのかもしれません。あまり喋ってくれないので判らないですけど。ヤツイが死んでしまったのも大きいです」


 戸引何時の親友であった谷津射伊南は重傷を負ってメールミアとの会戦前に後方に下げられていた。後方で療養中と言われた者は全員殺されている。


「……こういうのは個人で大きく違うからね……。それこそ……ジュリアの方がこういう状況に強いとは思わなかったし。試合前、いつも震えてたのに」


「はは。あたしのもうひとつの祖国……内戦で、子供も年寄りも殺されて、晒されましたからね。昨日まで良き隣人だった人達の手によって。こっちの耐性はあるんですよね。経験もあるし。ああ、人殺しの、じゃないですよ? 身近な誰かが理不尽に殺される、の。ですよ?」


 そう言うジュリアの目も……一切笑っていない。


「耐性か。そうだね。こういうのは資質なのかもね。トビー(戸引何時)がさ、言ってたじゃない? 生きていても……って。あれ、来たよね……あたしも同じ様なこと考えてたし。みんな考えてたんじゃない? 元の世界にも戻れそうにはないし。両親とか肉親とか、友達とか……それこそ彼氏とかにももう、会えないわけでさ。そんななのに、あんなコトさせられて。なんのために生きてるんだろうって思っちゃうよね」


 副部長の羽倉尾雪はストレートの黒髪をかき上げた。戦場中心の生活ではどうしても、ひっつめるしか無かったのだが(洗えなかったし)、ここでは好きなときにお風呂に入れる。日本人形の様な容姿を含めて、本来の自分を取り戻していた。


「ああ。あと……ここがいきなり……穏やかすぎる。何だろうか。この世界は魔物が蔓延っていて、人間は迫害されていたんじゃなかったのか? この療養所の周り……高原の様な穏やかな場所を散歩も出来るんだぞ? こんな雄大な……監禁、軟禁……幽閉? って有り得るんだろうか?」


 部長の出島チルハもジュリアと同じ様にハーフだ。ジュリアが見た目は日本人の様に黒髪黒目であるのに比べて、チルハは銀髪青眼、高めの鼻と完全に北欧系の見た目をしている。それでいて、躾が厳しい旧家の血筋、一家で育てられたため、非常に丁寧な日本語を操る。その違和感は各種大会の優勝インタビューなどで伝えられて、全国レベル。非公認のファンクラブも存在した様だ。


「幽閉とかじゃなくて、我々が生きていることを忘れさせるためって言ってましたからね。アレが本当ならそうなんでしょう」


「本当なんじゃないかなぁ」


「さすがに、ここまでされると嘘ではない気もしますけどね」


 違和感はみんな感じている。我々が「戦乙女」で勇者なんだとしても……ここまでする意味があるのだろうか? と。そこまでの価値は無い気がする。


「杜谷さんは日本人……のオジサンなんだよね?」


「ええ。ちょっと若作りのオジサンですね」


「あの人、若く見えますよね。ちょっと髪は薄めだけど」


ガチャ! 


 その時、いきなりドアが開いた。ビクッ! と構える三人。そういう癖は……そう簡単には抜けない。


「あ! ご、ごめ、ごめんなさい、チルハさん! 雪さん。ジュリアもいたんだ。ごめんね。驚かせてしまって。申し訳ない」


 入ってきたのは、薙刀部の千野千景ちの ちかげ。元剣道部で、チルハを慕う後輩でもあった。


「ああ、久々にノック無しだったんで、反応してしまっただけだ。ほら」


 チルハの手は震えていた。


「すいません……ちょっと考え無しでした」


 もともと、千野は猪突猛進系で勢いだけで突っ込んでいくタイプだ。良く、教室のドアを勢いよく開けすぎて、レールから外していた。


「で、なに? 千野が突っ込んでくるってことはそれなりの事があったんじゃないの?」


「そ、そうなんですよ、そう! た、大変です。チルハさん」


「落ち着いて」


「お、落ち着けませんよ。あの、あの、杜谷って人。童顔のオジサン。私達と同じ界渡りの」


「ああ」


「今、話していた所だ。日本人なのにこっちの世界に馴染んでると思って」


「そう、そうなんですよ。馴染んでるはずですよ」


「どういうこと?」


「あ、あの、杜谷さん、結婚してるんですよ」


 三人がキョトンとした顔をする。


「ああ、別におかしく無いだろう? 確か、32歳だとか言っていた気がしたし」


「そうだな。童顔だからって結婚してておかしく無いだろう?」


「そ、それが、こちらの世界で、しかも……ああ、核心行きますね?」


「ああ」


「そんな、そんな、生やさしいレベルじゃなくて! なくって! お、奥さん、ここの領主と、あの副領主、出来るキャリアウーマン妖艶魔女のファランさんと、最初にメイドをしていた、私たちが美人だねって言ってたノルドの女性たち……総勢十三名が、全員、全員、妻、奥さんなんですって!」


 一瞬。空気が止まった。


「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇえっぇ!!!!!!」







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