0325:紅武女子運動部バスごと異世界転移事件⑥
そこは……妙に落ち着く雰囲気の場所だった。空気が違った。
この世界にきて始めてといって良いくらい……ほっとする何かがあるように感じた。
(生きてる?)
未来が最初に思いついたのはそれだった。自分は戦場で……しかも敵と対峙していた。打ち破れた者はそのまま地を這い、死んで、朽ち落ちるのみ。いや、「戦乙女」、自分たちは……晒されるのかもしれない。それだけ憎まれてもいるのは判っていた。
周りを眺めれば……白い壁。大きい窓。
自分の身体から鎧が外され、服を着替えさせられているのが判る。手足には軽いチェーンのようなモノで繋がった、ある程度自由の効く手錠が付けられている。
(ここは……どこ……だ? 捕らえられたにしては……)
周りを見渡す。武器になりそうなものは一切無い。とにかく状況の把握をしなけれ……。
「あ、起きましたね? どうですか? 動けそうですか? 話している言葉はわかりますか?」
いつの間にか、すぐ側に……人がいた。
「は、はい……」
「良かった。何を話しかけても返事をされない方も多いので……」
「そうです……か……あの……ここは……どこですか?」
使用人の格好をした女性は、欧米人的な顔付きで、さらにファンタジー世界のエルフほどではないが耳が人間よりは若干長かった。これが多分ノルドと言われる種族なのは……なんとなく聞いて知っている。
ハッとした顔をした。そんな彼女が失念していたという調子で改めて話し始めた。
「ここはメールミア王国のオベニス領です。我々の主人……お館様からの指示で貴方方を保護し、お世話させていただきました。ここに到着した時に主人から話があったのですが~意識を失っておられましたので、我々でベッドに運ばせていただきました。今後また詳細の説明があるでしょう」
目を見られる。
「貴方も大丈夫そうですね。枷を外しましょう。さらに詳しくは、お友達にお聞きになるのが良いかと思います。言葉の重みが違いましょう」
自分に付けられていた、手足の枷が外された。そして。衣類? をサイドテーブルに置いた。
「お館様が言うにはあまりデザイン的に優れてはいないそうですが、ここには新しい着替えも用意してあります。体調が悪くなく、身体が動くようでしたら、まずはお風呂へご案内します」
未来は自分の着ている衣類は新しく綺麗になっているが、さすがに身体は砂汚れでベトベトのままなことに気がついた。よくよく見れば髪の毛もゴワゴワのままだ。
「あ、ありがとうございます……お風呂……入りたいです」
「ええ、お館様がそう言っていました。彼女たちは目が覚めたら、まず、お風呂かシャワーを求めるだろうから用意するようにと。気兼ねなく思い切り綺麗にして下さいとのことです」
(……なんだろう……お館様? 我々に価値を見出している……領主とかなのだろうか? 豪族? 士族の首領? 良く判らない。でも。殺すなら既に殺されているハズだ。戦場からここまで……生かして連れてきたということは……何らかの意図がある。それが判るまでは、言いなりの方が良いだろう……。どうせ逃げられないんだろうし)
(そもそも……戦場から……私たち? 強者と呼ばれる敵をモノともしてなかった「戦乙女」を拉致したってこと……だよね? さっきのメイドさんの言い方だと、戦場に配置されてた者……全員? あの時、何人残ってたんだっけ? 三十四名? そんな無茶な)
「では、こちらへどうぞ」
ベットから起き上がると、歩き出した。数歩歩いてから気がついた。ごく自然に足につっかけていたが……ベッドサイドにスリッパが置いてあった。
(!)
日本の……しかもホテルのような宿泊施設なら当り前、一般家庭でもそんな生活をしている子も多いだろうが。
でも。この世界では見かけたことも、聞いたこともなかった文化的な匂い。どういうことだ? という疑問符が浮かび上がる。
そもそも……窓? ちょっと待って。ビジュリア潘国で詰め込まれた部屋、建物に……こんな窓、そもそも、ガラス窓が存在した? いや、無い。木製の木の窓だった。小さい。さらに、部屋の壁……白壁? 塗られてる? 塗り壁? 煉瓦を積み上げただけじゃなくて? あ。違う……塗り壁のような……ボード……ってそんな技術が?
明らかに……自分の知っているこちらの世界のテクノロジーレベルを凌駕しているギミックが……目に入る。様々なモノから伝わってくるのだ。
ここは全てにおいて違っている……と。
(まあでも……危機感を……伝えてきているわけじゃないのが……幸いというか)
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