0312:モリヤ隊嫁会話②
開戦直前。
にも拘らず、既に……ビジュリア潘国の兵は……軍として機能していなかった。バラバラなのだ。場末の……それこそ、魔物がそれほど発生しない領の騎士団ですら、これよりは遙かにマシな動き、挙動で、行軍できる。
安全圏……と思って大きく迂回したのだが、思ったよりも大きすぎた様だ。敵軍の規模は本当に小さい。よって本陣の陣容も厚くない。徐々に集まりつつある……のだろう。
正直、幾つかある陣幕……は倉庫と併用しているようで、本命がなかなか捉えられない。
普通。偉い人のいる周辺というのは、その周囲が分厚く護衛されていて、どんなに良い瞳で眺めて見ても奥まで見通せない場合が多い。ここで姿を捕らえられてしまえば、弓による狙撃、魔法による集中攻撃と、やりたい放題になってしまうからだ。
それこそ、囮として一つの傭兵団を丸々使うなんて言う事もザラにある。
この世界、作戦立案行動はお粗末でも、防護行動は実際にそれを狙ってくる強者が存在したため、それなりに考えられているのだ。
単独で先行しているミアリアは軍とは呼べない粗末な陣容を眺めて、呆れるというか、哀れんでいた。何よりも、この有様を無様と思えない彼らに。
命令されているのは、指揮系統の殲滅。特に「戦乙女」に命令を下している現場指揮官は殲滅しなければならない。「しょうしつ」で姿を消したまま、魔術的な罠や結界が無いのを良いことに、一番人の多い天幕の側に近づいた。
丁度出てきた、そこそこ上位に見える騎士を強引に隣の天幕(倉庫に使っている様だ)に引き倒す。
「ここは本陣か」
「あ、え、ああ」
「お前が余計な事をする度に、お前の首が胴から離れる。いいな。まずは大声を出すな」
首にナイフが食い込み、血がツゥーーーっと流れ落ちる。
必死で頷く、騎士。
「必要なことだけ話せ」
ぶんぶんと頷く騎士。
「「戦乙女」の指揮は誰が執っている」
「クスドラ王太子殿下……だ」
「お前は?」
「メジオ・ラダン……は、潘王陛下の近衛であ、ある」
「潘王……の近衛……お目付役?」
「あ、ああ、そういう役目もある、が」
「そうか。最前線で「戦乙女」に命令を下しているのは誰?」
「く、クスドラ殿下だ」
「それ以外は?」
「おらぬ」
「嘘をつくとすぐ死ぬ」
「陛下は……「戦乙女」の力を他の者に与えるのが怖いのだ。なので、ご自分の一族にしか命令を許可しない」
ミアリアは嘘では無いと判断した。元々、ノルドには直感で嘘か誠かが判る者が多い。表情を読むというよりは、揺れ動く感情が放出されるとそれを感じるのだ。
(ということになります……)
(……なら、「戦乙女」への指揮権を持つ者はそれほど多くは無い?)
(いいえ……数はそこそこに。全王子が与えられているようです)
(全王子?)
(ビジュリア潘国の王、ニレジア・ゲノン・ビジュリアには十八人の子どもが。そのうち、男子は十名となります)
(戦場に出ているのは?)
(マクベル第一王太子が全軍指揮官です。シドラ第三王子が調達指揮官。クスドラ第八王子がこの最前線指揮官としてここに)
(……十人の内三人?)
(第二王子は元来病弱で王宮から出たことがなく、第四、第五、第六王子は……怪我や事故、病などで歩くことが出来ぬ躯だそうで。第七、第九も病弱。第十はまだ幼いそうです)
(……判った。十って数は判りやすい)
(では、そろそろ。でしょうか?)
(そうだね……緊張感溢れて来たし、既に武器は抜いた状態かな)
(了解しました。では引き続き探索し、目的を遂行します)
(すまん。なるべく早めでお願い)
(は)
倉庫には首の折れた死体が一つ。さっきの近衛を名乗った騎士だ。
「ミアリア。東は調べた」
目の前の自分にだけ聞こえる声で言いながら、目の前で「しょうしつ」が解けた。オルニアが姿を現す。
「思ったよりも兵が少ない。親玉を探すのもそんなに難しくないと思う」
「そうだね……ただ、この一番大きい天幕には居ない。さすがに囮を立てるくらいのことはするみたい」
「へーそうなんだ。とんでもなく頭悪いってお館様が言ってたから、そういうの何も無いかと思ってた」
「油断はしちゃ駄目」
「そだね……。お館様、いつも言うもんね」
「そう」
オルニアは元々家が隣同士だったこともあってミアリアと仲が良い。これにアリエリとシエリエも加わる。自分を含む四人の実家は元々優秀な狩人であり、口数の少ない家庭で育った。四人で一緒に行動することが多かった。
フリアラ、クリシア、リアリスの三人の実家は狩人でありながら、主に革細工で村に貢献する家系だった。家も近く、共同作業を行う場合は一緒に行っていたので仲が良い。三人はのんびりとした口調で話すことが多いが、どちらかといえば商家にも近いため、シビアで辛辣、冷淡な一面も垣間見える。
モルエア、パルメス……は。二人とも出戻り後、「家の恥」と大々的に喧伝され、軟禁状態となっていた。そのため、未だに他人と話すのが苦手で、モリヤ隊の面々にもほとんど喋らない。唯一モリヤとの会話が成立するくらいだ。それ以外は大抵、頷いたり首を振ったりで会話を成立させる。
そんな中、唯一、公式な会話法を覚えており、さらに礼儀作法にも詳しいのは……村長の娘として、厳しい教育を施されたミスハルだけだった。外交官になるためには、各種族の挨拶や会話を覚えねばならないし、ある程度の社交性、客観的友好的な視線が必要となる。
ミスハルがいつも単独で遠方へ向かっているのは、そういうことなのだ。他に代わりが居ないのだ。
遠くで開戦の雄叫びが響いた。そして……多分、大きな音が聞こえてくる。アレは土の魔術。
「急ごう。お館様が土の魔術を使ったという事は、もう、「戦乙女」と接敵してる」
「うん」
幾つかある天幕を一つづつ調べていく。指揮官が戦場へ移動した形跡が無い以上、この辺にいるのは確実なのだから。
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