0310:女子学生vs人妻エルフなボス戦①

 さて。


 イリス様には、敵の大本命というか、多分一番強いであろう中央に位置していた彼女……宇城さんの相手をお願いしていた。多分、能力は他のメンバーよりも格段に高い。作戦的にも彼女が周辺のメンバーを率いている可能性が高い。


「ああ、確かにあそこで並んでいる中では……確実に強いだろうな」


 と言っていたので、「鑑定」など無くても違いがわかるのだろう。さすが。統率強化を持っている彼女を倒せば、何かと抵抗や反抗が少なくその後が進んで行くはずだ。


 共感を切り替える。案の定、彼女は落とし穴を避けていた。


 イリス様の視線の先には槍を構えた、病み系の美女。さすが、日本中に認められた美人。この程度の疲れやダメージでは拭いきれない美しさだ。やつれているのも、それはそれってことなのだろう。


 突っ込んでいった仲間が落とし穴に落ちたのは見てるだろうし、もしかしたら、後ろにいた仲間が落とし穴に落ちたのも判っているかもしれないが、なにか反応したり、連絡を取ったりする様子はない。まあ、そういう細かい動きや行動は制限されているのだろう。


 彼女たちは……「戦う」ことしか出来ないようになっているのだ。多分。


 イリス様が立ち塞がる。宇城さんの足が止まった。躯を縦に構えて、走っていた足さばきも大きく変化する。持っている槍は既に薙刀に見える。


 八双……というんだったか。槍を肩に担いで持ち上げ、振り上げた構えで、足がゆっくりと動き始める。


 うわっ。この足捌き……交差する流れ、つま先立ちから足脇、かかと。体重移動と共に設置する部分を変えている。


 これ……すり足よりも、こっちの方が実戦での応用力高いんじゃ無いか? というか、すり足も組み込まれてるのか。元々習っていた流派が実戦想定……してたわけじゃないだろうから、この地に来てから工夫したのか? それはそれで凄いな。


 完全にイリス様に向かって躯は縦になって、一番薄い面で対峙していることになる。これは……やりにくい。


 槍を持つ手の位置も……いつの間にか八双から下段に変わっている。構えによって持つ場所が違う上に、うわ。躯で槍の半分以上を隠してるから、距離感も掴みにくいのか。


 えーと。いや、これやばいな。俺レベルだとどうにも対処できないかもしれない。いつの間にか斬り込まれていること間違い無し。


 まず、足さばきが縦横無尽、距離感が掴めない。刃の出所が見えにくい。断ち斬ることに特化していないから、突く、撫でるように斬るでも勝負出来る。


 何よりも、構えによって射程距離が変わるのがヤバいな……。剣道は見たこともあったし、高校時代に体育の授業で教わったから、まだ知識もあった。どう行動するかが読めたっていうのもある。だけど薙刀は……こんなに違うとは思わなかった。


 武家の女子の嗜みとして伝わっていた=非力で小柄だった昔の日本人女性でも「戦える」術だったということなのだろうか。明らかに実戦想定の動きだ。


 しかも、この人……さすがインターハイチャンピオン……隙が無い。様に見える。全体的に全てがまとまっていて、完成しているのだ。


 イリス様の感覚で言えば、槍は、もっと振り回すモノらしい。ああ、そういえば……どこぞの騎士団の副団長だかも……炎を纏わせて回転させてたね。うん。


 両手剣と一緒ではないが、持つ場所を微妙に変えながら、振り回しながらそれを変化させていく。突く場合も、振り回していきなりの突きの方が不意を突きやすい。


 だが、その辺の振り回しを行わなくても、彼女の槍は的確にイリス様に向かって攻め込み始めた。


 イリス様の今日の装備は俺の作ってもらった、ちょっと長めのT字の棍棒……まあ、所謂トンファーってヤツだ。金属製の重さのせいもあって、立派な鈍器だ。それを両手に持っている。


 射程距離が圧倒的に違うので、薙刀使いの振るう槍とは非常に相性が悪い。というか、そう言った。説明した。このトンファーという名の鉄棒は回転力とか、奇抜な動きが可能だが、正直、得物としての射程距離は非常に短い。


 素手で殴る……とよりは多少マシ程度というか。なので、違う武器の方が良いんじゃ無いですか? と。


「攻撃から防御に、一瞬で立ち戻れるのは使いやすいな」


 聞きゃぁしねぇ。


 まあ、多分……彼女たちを「殺さず捕獲したい」という俺の希望を叶えるために、選択してくれたのだと思う。多少骨は折れるかもしれないが……力加減さえすれば命を落とすことにはならないハズだ。




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