0298:隔離

「さすが専門家……詳しいですね」


「オーベ師は……こうなるとモリヤには言い辛いだろうから私から言うが。以前、界渡りの召喚に手を出したことがある」


 ファランさんが言いにくそうに教えてくれる。オーベさんも気まずい感じだ。まあね。うん。それは別でしょう?


「ああ、モリヤ、すまぬ。怒ると思って言い出せなんだ」


「いやいや、オーベさんほどの召喚術士、そして研究者が、興味を持たないわけがないですよ。それに無駄に召喚したとか、結果界渡りに対して酷いことをしたわけでもないのでしょう?」


「ああ、いや、残念ながら、当時手に入れた召喚用の魔術紋が不完全でな……今回の様に歪んでいたのだ。なので、危険と判断して研究後、データを取ってから消去した。だから誰かを……界渡りを召喚したわけでは無い。その際に隷属の術についても研究はしたが……今考えると……何かの勢いで召喚してしまう可能性はあったな……当時の私は。良かった。歪んでいてくれて。思い切りモリヤに嫌われる所じゃった」


「そんな……そこは気にしませんよ。逆にそうやって研究していてくれてよかった。信用出来ない者にその手の話を聴かされても納得がいかないことが多いですが、オーベさんであれば、丸々信用出来る。信用出来る以上は、それを元にイロイロと考えることができる。ありがたいです」


 多分、この世界の人たちは界渡りの召喚を……通常の召喚術と同じ様な感覚で考えている部分があるのだと思う。通常の召喚術、魔物などを呼び寄せて戦わせるのは、使役、隷属して当たり前というか、でないと使えないわけで。


 つまり、そうなると。こないだ出てきた悪魔だか魔族だか……公爵だかなんだかで、あと何人もいるみたいなアレ。彼らの召喚も……俺的にはかなり酷いことをしたのではないかと想像している。ああ、魔界の九大伯爵か。そんな名前のある強力な力を持った高位の魔族を召喚して使役隷属していたわけだから……うーん。ソロモン王、酷すぎ。ってソロモン王だっけか? 魔族を使い倒してこの世界を征服したヤツ。いろんなモノをや仕組みを作った偉大なる王かもしれんけど。


 恨まれても仕方ないし、ある意味、既にソロモン王が死んでいる以上、その系譜であるこの世界の人たちが復讐されるのも仕方ないというか。まあでも同情は、する。けれど。


 だからといってその復讐に同意するつもりも無いけどね。残念ながら。それをしたヤツがもう死んじゃっていないから、その子孫でもなんでもない同種族に対してとか、同世界に対して復讐だ! と言われても。


「ああ、でな。その命令者への撤退行動の際に拘束してしまえば、次の命令が下されるまで、その者は命令者の元へ帰還するのが第一になる。自分の全能力を使用して逃げようとする。襲いかかられれば反撃するし、命の危機になれば当然、抵抗はするがな。まあ、そういう状況だと判っていれば、拘束するのは簡単だ。動きを止めてしまえば、引き千切れない魔道具の縄を掛けて、魔術の使えぬ牢にでも幽閉して隔離してしまえば問題無い」


「ん? 何を言っていますか?」


「ん? モリヤは王とそれに連なる命令者の系譜……まあ、多分、王とその一族、縁戚、さらに、親衛隊、将軍などであろうが~を殲滅する気なのでは? と思ったのだが」


「そんなの、命令できる者が一人でも、偶然でも残っていたら不味いじゃ無いですか」


「そうだが……」


「過去にそうやって、界渡りが解放された……って記録があるんですか?」


「……無いな」


「多分、それ、何か裏がありますよ……少ないながらもそこそこ情報は残っているわけで。そんな重要な情報が残っていないはずが無い。なので、まずは。まず最初は彼女達の確保です。彼女達があまりにも強すぎた場合は……うーん。お手上げですが。進軍情報や戦い方、殲滅の仕方なんていう情報から考えれば、そこまで強くも無いような気もします。完全な状態でうちの人たちと同等。現状かなり酷使されていると考えると、弱体化していると考えていいのかなと」


「ではどうする?」


「とにかく助けないと。ですね。で。これ以上彼女達の状況が悪くならないように。確保して、一度……言われた通り、結界内とかに隔離した方がいいかもしれません。身動きできない状態にして……ココにでも拉致しますか。場所と時間があれば……試したいことはいくらもあるので」


 とりあえず、オーベさんの言う様に、指揮官を中心に狙って倒し、その瞬間に拘束作戦だな。まずは。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る