0290:派兵

「この世界……お触り禁止みたい」


「え? そうなの?」


「その様です……なんでも癒しの術の効きが悪くなるとか。愛していればいるほど、触ったりしないとか。向こうの世界の一般的な……性行為も行わない様です」


 若干不思議に思っていた肉体的な陵辱を受けない理由がそんなところにあった。詳細も聞いたが、注射器で……というのは、なんていうか、保健の授業で聞いた人工授精の話に近い様だ。


 さらに。過去に能力的に優秀な界渡りとの間に子どもを作った者もいたらしいのだが、その子どもが隷属状態から離れ、制御できなくなり、幾つもの国が滅んだことが何度もあった……という伝承が残っていたらしい。


 極端な話……畏怖というか、恐れられている、怖がられているのだ。そのため、彼女達に触っただけで死ぬ等という噂も流れていた様だ。


「美的感覚が違うのかと思ったりもしたけど」


「戦の結果を左右する「戦乙女」なんて言われているみたいだけど……くそう、腹立たしいわ」


 彼女達が真っ先に心配したのは自分たちの操をどう守るか……という部分だった。


 隷属状態ということは、生死を握られているということになる。実際に、王が命令を下せば、それに従ってしまうだろう。つまり、王が目の前で服を脱げと言えば、脱がざるを得ないということなのだ。


 だが、そんな独特の倫理観のおかげで第一の不安は解消された……のだろう。だが、不愉快な状態であることは間違いなかった。


 国王ニレジアは見た目と違い、非常に野心的な王であるようだった。あらかた「人を殺す」訓練をさせられた四十三名を分散させて侵攻を開始した。


 ビジュリア潘国は半島の西端に位置する。つまり、背後は海であり、海の魔物が強いこの世界ではそちらから攻められることは早々ない。


 逆に言えば、東にあるイガヌリオ連邦を介さなければ、海路以外での通商ルートが築けないということになる。建国以来の悲願が、打倒連邦ということになるのだ。


 正直、これまでのビジュリアの戦力では、海賊との小競り合い程度しか戦闘ができなかったのだ。それが様々な要素が重なったとはいえ、一騎当千の戦力を、しかも四十三もの暴力を手に入れた。調子に乗るのも当たり前といえるだろう。


 強者の力が際立って強いこの世界では、通り名を持つ、武力を有する者が集うことで傭兵団や盗賊団を構成される。国や領の騎士団や戦士団、護衛団等も副団長、団長、総長などの上の人間はほぼ通り名を持つ。逆に言えば、通り名を持つくらいでなければその手の暴力集団を率いることは出来ない。


 それは王にも当てはまる。有名な王はほぼ、通り名を持ち、自ら剣を取って敵国に攻め込み、領地を奪い取る。

 アルメニア征服国が典型的であり当たり前な例だと言える。逆にセズヤ王国の様に武力的に一切期待できない女王が国を治めるという方が珍しいのだ。


 それを言い始めれば現在のメールミア王国も同じ様なモノだが、かのクリアーディ女王は少し前のメールミア南戦役で大活躍を収め、失態続きだった王族の中で唯一勝ちを掴んでいる。


 とまあ、そんな感じで、強者有りきの団となるわけだが……ひとつの団に通り名付きの強者は多くても十名……いや、五名と言ってもいいかもしれない。


 強者は群れない。いや、元々冒険者でパーティを組んでいたなんていう絆があればともかく、大抵は我が強く、傲慢で、他人に対して思いやれない者の場合が多い。結成当初はなんとかやっていても、力を付けると大抵が脱退や仲間割れで分離する。


 なので、一カ所に集中できる強者の戦力が五名というのは相当リアルな数だと言えるだろう。そもそも、通常の国と国との紛争の場合でも大会戦で無い限り、強者はお互いに数名参加すれば良い方なのだ。


 今回の強者相当の勇者が……四十三名というのがどれほど破格の戦力なのかが分かろうというものだ。 

 

 ビジュリア潘国北東、イガヌリオ連邦にしてみれば北西での会戦は、いきなり突出してきた部隊との遭遇戦となった。


 そこより南での平原での大会戦を準備していた連邦は前哨戦と捉えた。そのため、主戦力はそのままに、イガヌリオ連邦南方騎士団の半数程度の戦力投入でどうにかなると判断したのだ。


 その数およそ三百。前衛に盾を構えた重装騎士、中衛に長槍の騎士。そして後衛には弓部隊、魔術士が控えている。偶発的に始まったにしてはなかなかどうして、かなり正統派で立派な陣構えだ。


 それに比べて、潘国の戦力はたったの百名。明らかにザコい、なんとかという傭兵団の者たちで攻勢されている。「戦乙女」と呼ばれている界渡りもたったの三名。つまりは、百三名で目の前の正規の騎士団の相手をしろということになる。


 そして。戦場で対峙するのだが。真っ正面だ。相手が前方に見えている。


 初の本格的な戦闘命令に、八頭未来はある程度の戦術が必要になるかと思い、立候補してまで付いてきたが、これでは頭を使う余地が全く無い。知性でどうにかなるレベルの距離ではないのだ。


 この場で戦力となるのは、共に派遣されてきている仲間のみ。剣道部部長の出島チルハとテニス部部長の吉原希生。普段なら口をきくこともない先輩後輩の間柄だったが、逆境に放り込まれたことで、彼女達の結束は非常に固くなっていた。





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