0224:本丸へ
塔周辺施設の制圧も終了した様だ。これで黒白ジジイ=王の両腕、さらに騎士団の精鋭は潰した。残りは……親衛隊くらいだろうか?
目の前には以前、イリス様が通った廊下。この先に待機の間があり、その奥が謁見の間になっている。
待機の間には既に先客がいた。女性と男性。男性は騎士だろう。鎧も着ているし、俺がドアを開けた瞬間に腰の剣に手が伸びている。
戦場で顔を合わせているアリエリが一歩前に出て、頭を下げる。
「クリアーディ王女陛下、バール卿。お久しぶりです。我が主人、オベニス領総務長、にしてアーウィック家家宰、ショウイチ・モリヤです。お見知りおきを」
俺がアリエリと共にここへ来たのはこのためだ。彼女はセルミアでの戦いで、王女と顔見知りとなっている。顔通し役として適切だったのだ。
実際、王女もそのお付きの騎士も、俺よりもアリエリの顔を見てハッとした表情を見せた。
「私は第三騎士団副団長のバール・ミゾン・レイダートだ。こちらはクリアーディ・リスリア・クレンバート閣下」
「本来であれば片膝を付いて礼儀正しくご挨拶しなければならないのでしょうが……今は急いでおります。お許しを」
バールもクリアーディも訝しむ様な顔が隠せていない。まあ、それはそうだ。アリエリが居るとはいえ、いきなり俺の様な得体のしれない男が現れて、急いでいる……と礼も欠かすのだから。
だが、まあ、これからさらに無礼な行動を取るのだから、別に今、どうにか取り繕うのも無駄だろう。
「いきなり……オベニス伯の配下……いやモリヤ隊と言っ……モリヤ……とはお前か!」
「はい、第一王女閣下」
笑顔で微笑んでみる。二人の表情が固まっている。なんだろう。俺のいないところで何か言われたのだろうか。怖い。
「では行きましょう。今回の戦争の責任者の元へ。御同行いただけますでしょうか?」
「ああ」
ドバンッ!
凄まじい音と共に、分厚い……鉄枠の付いた扉が吹き飛んだ。返事をもらった瞬間に正面の扉に思い切り、風の塊をぶつけたのだ。
「ああ、丁度、扉も開いた様です」
驚愕の表情でこちらを見つめる第一王女と副団長。
謁見の間の奥、玉座には当然の様に王が腰掛け……その前に数人の男が見えた。両脇には数人の貴族っぽい者たちの姿も見える。いきなりの轟音とその吹き飛んだ物体の圧力と風圧に、かなり離れているにも関わらず、全ての顔、目がこちらに向いている。
数秒。スタスタとふかふかの絨毯の上を歩く。数歩で謁見の間に置いてあるテーブルには辿りつく。急遽用意したのかそれほど大きなモノではない。
テーブルの上には地図。あ~オベニス周辺図か。うんうん、アレかな? これからどう殴り込みを駆けようとかそういうことかな?
「な、何か、御前であるぞ!」
「クリアーディ閣下! いったい何を! この男は貴方の!」
「大問題で」
驚愕の顔が浮かんだ後に王の周辺に居たヤツラの口から出てきたのは当たり前の、まあ、王の前で会議をするに相応しいだけの力を持っている貴族なのだろう。うん、そうだね。当然だね。でも。
「黙れ」
セリフに「威圧」を載せる。実は。イリス様の威圧があまりにも便利なので。使えないかなぁ、どうにかできないかなぁ……と思って、何度か試していたら。「威圧」だけ使えるようになっていた。武芸理解のスキル「のみ」が生えて、さらに、5まで上がっている。イリス様からのアドバイス「くわっとしてぎーーーー」とするという、超感覚派の教えが役に立ったという事だろう(だといいな)。
「き、きさ」
「ああ、自己紹介ですか。この後、この国を守り、未来に託して死んでゆく皆さんに名乗った所でどれだけの意味があるか判りませんが。オベニス領総務部長、モリヤと申します」
「お、オベニス」
貴族が王の顔を窺う。
「貴族でもない、下級陪臣の分際」
ゴト。
その身体に斜めの線が生え、上半身が落ちた。瞬間はまだ、何か言いたそうだったが、その努力はあえなく潰える。血の匂いが一気に膨れる。
「黙れと言った」
「あ、あ」
「あ、き、」
「気が立ってるのが判らないのか? そこまで愚かなのか? ならば今すぐに粉微塵に削るが」
イリス様を見習って、これくらいの演技はできるようになった。偉いな。俺。
「……」
「王よ、貴方はオベニスを放置しておくべきだったのです。あれ以上、騒ぐべきではなかった。多少強引とはいえ、収める話を提案したのですから」
「何を」
ああ、俺の威圧じゃイリス様の様にはいかないな。身動き出来ず、言葉を放つ事も出来ないような、制圧感が足りない。ってそりゃどうしょうもないだろう。俺、素人だし。こういうの。
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