0215:ダメ元

 モリヤ隊のメンバーは、現在。強化前(非常にオブラートに包んだ、俺なりの優しさに溢れる言い方。まあ、やる前)とはいえ、方々に散って情報収集に勤しんでくれている。


 オベニスでの留守番は、ミアリアとオーベさんとなった。あ、あと、俺ね。俺はここでやることが山ほどあって身動き出来ない。主に、迷宮関係で。


 純粋に、ミアリアはオーバースペックなのと、オーベさんは万が一……魔術が使えない状況になったら、そこまで役に立たないというのと、できれば、この魔力消失の魔道具に対抗する術を開発したいという要望からだった。


 この二人、そして寝込んでいる二人を除く、ほとんどが王都周辺の情報収集に向かっている。


 さらに留守番としては指揮官としてロザリアとミリアもいるし、領兵も揃っている。特に今回の件で領兵の志願者が大きく増加したのだ。


 これまでは、女領主、いや、女の指揮官の下では……という潜在的な嫌悪感が付きまとい、募兵を行っても思う様に兵が集まらなかった。特に男子の……女性蔑視意識は、潜在的に強い。危機感が無かったのも関係しているとは思う。領主様がなんとかしてくれる……感もあったし。


 が。今回、イリス様がいない状態での、傭兵団の襲撃。ここでファランさんやミリアの指揮する姿が住人たちに認められたのは大きかった。


 さらに、地下の避難所でのレベルの高い生活に触れ「こんなに民に良くしてくれる領主様はいない」と、「この領を守るため」に志願してきたらしい。


 素晴らしい。全員、鬼軍曹ロザリアに鍛えていただこう。


 地下の避難所については、地上の建造物がもう少し復興、完成するまで、猶予を持たせることになった。いきなり追い出されるのはさすがに……ということだ。


 もう、なんていうか、オベニスの地下は夢の都市遺跡ってことにしてもいいのかもしれない……とまで思い始めている。


 いや、自分が妙な勢いでハーレム化してしまって、投げやりになっているわけではないです。ええ。ただ、簡易住宅でずっと暮らしたい……という気持ちも判る。


 だって厳しいんだもん、この世界。


 親のいない小さい子供が生きていくために物乞いをする、物を盗む→判る。親のいる小さい子供が親と一緒に物乞いする、物を盗む→判らない。まあ、盗むのは当然犯罪、というか、運が悪ければ一気に死罪なのだが、後を絶たない。


 これは単に根本的な景気の悪さ、凄まじいまでの格差、さらに、生存圏の小ささにも関係している。


 まず。この世界は貴族などの身分制度以前に、大きく二つに分かれる。魔物と「戦える者」と「戦えない者」だ。「戦える者」=強者は自由だ。生きていくのにほぼ困らない。ひとつの都市でやらかしてしまったとしても、そのままの足で別の都市へ向かえば良い。


 強者はそのまま、同胞に対しても強い者として振る舞える。当然、その力で傍若無人に振る舞う者も多い。イリス様レベルはそうそういないにしても、通り名持ちの強者を止めるには、主に「戦えない者」で構成された守備隊の隊員(訓練はしている)五十名が命がけだそうだ。


 つまり。強者に守られた小さい安全圏で生きて行くのが「戦えない者」の現実なのだ。当然だがその枠は非常に狭く、出来ることは限られているし、不運にも遭いやすい。


 今回の簡易住宅、避難所生活から抜け出したくない……というのは、当然、貧民窟の低所得者からの意見が多い。「安全に生活出来る場所の確保」が異様に難しいからだ。


 ただ。幾らイリス様が慈愛に満ちた領主だとしても。怠惰な者を養っていくことは出来ない。そこまでの余裕はない。さらに言えば、無償というのもあり得ない。意見を聞いてみると、恥の文化があまり存在しないのだ。イリス様は勇者だから、それに守られるのが当然……というのはあまりにもふざけている。


 勇者に命を守られるのが当然なら、その命は勇者のモノになってしまう。勇者がどんな理不尽な命令をしても諾々と頷く……覚悟在りそうだなぁ。だから、貴族とか領主が必要以上に権力を持ってしまうんだろうなぁ。

 

 ということで、地下で生活したいのなら家賃を必要とする。家賃は収入に合わせたモノとする。


 収入に対応した方法だ。いや、家賃は税金と直結させた方が楽か……。


 この世界の労働者は基本的に日払い、ノルマ達成払いになっている。まあ、冒険者も言ってしまえばノルマ達成払いだ。日払いのシステムは悪いことばかりではないのだが、病気や体調などで大きく左右される。都市の外に出るだけで魔物に襲われる可能性がある以上、もの凄い確率でマイナスに陥りやすい。このシステムをどうにかしないと貧困層の底上げは難しいだろう。


 あーもう。いっそのこと、全部税金で賄うか。なんだっけな……社会保障とかない代わりに、毎月一定のお金が支給されるヤツ。ベーシックインカムか。……それはアレか、甘えが生じるか。そりゃそうか。社会保障なんて基本的な知識だけじゃなく、その言葉すら知らないのだから。勇者がいなければ存続できない種など……正直弱すぎる。


 残るは屯田兵、開拓民……かなぁ。オベニスという城砦都市を広げていく、その人員として、現状仕事のない者に仕事を与える。


 何か目立つ者には「鑑定」を上手く使えば、適材適所で仕事を振り分けられるハズだ。戦うことが出来ない者でも、戦う者に頼らないで生きていけるようにしたい。


 やっば。沼じゃねーか、これ。難しすぎるというか、現代日本でも解決してなかった問題じゃん……そんなん、東大京大卒の超インテリが何十年も考え続けても答えが出なかったのに。俺に正解が出せるはずがねーよな。


 街育成型リアルタイムSLGの超絶高難易度って感じだろうか。それにしてはコマンドの要素が多過ぎるんだよなぁ。俺にしか出来ない事が多過ぎるのも問題だよな。


 よし。適当に……はダメだけど、楽に行こう。ダメ元だな。マジで。






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