0190:耳を疑う

「お館様……あの……できれば、モリヤ隊のメンバー全員とお願いしたいのですが……ダメでしょうか?」


「はぁ?」


 なんか、ミアリアから、おかしい発言きた。


「私たちは全員、お館様をお慕い致しております」


「そ、それは……その、いつから?」


「マッサージをしていただいたあの時から。あの……私たちにとって、マッサージは凄まじい衝撃でした。あれをされた以上はもう、お館様だけを、お館様だけに、お館様のために、生きようと誓っております」


 ……よくもまあ、大変な任務を嫌がりもせず、淡々とこなしてくれるなぁ……とは思ってたし、上司としてスゴく仕事がしやすいなぁと思ってはいたけれども。


「既に森の神に血を捧げ、誓約を結びました」


「……ファランさん、これはどういう意味で?」


「ノルド族の森の神への誓約は、それを捧げた時点で……もしもそれを自ら破ればその命を失う覚悟ということだな。というか、実際に死ぬ者も多い」


「うわ……」


 10人全員か……って今はもう9にんか。……くそう。


「一生……俺の様なだらしないオヤジと共に過ごすと」


「いいえ、お館様は素晴らしい御方です」


「別に普通だと思うよ……元の世界ではうだつのあがらない一般市民だった」


「ここはお館様の世界ではありません。我々が生まれ、我々が生きているこの世界では、我々の考え方の方が普通かと思われます」


 そうなのかな? なんか騙されてる気もするけど。言い含められている気もするけど。


「そもそも……あの、男性の前に裸体をさらしたり、失禁してしまったり、はしたない格好で失神してしまったような女は、もう二度と結婚はできません」


「え? そうなの?」


「ああ、嘘をついて結婚することは可能だが、結婚後、お互いに誓約を行い、その上で過去のコトを質問されたら、正直に話をする必要があるな。それで、そのようなことをされたことがある、したことがあると告白したら……ヘタすればその場で首を刎ねられてもおかしく無い」


「そんな」


「つまりは、だ。私もイリスも、同位ということだな」


「ぇぇー」


 えーと。この人たちは、既に傷物にされたのだから、ちゃんと最後まで面倒を見ろと言っているのですかね。そういうことですよね……。悪気が無いのは判っておりますが。おりますが。ええ。


「……セタシュアは……どうなんでしょう?」


「彼女はまだ幼いが、お前を慕っているな。多分アレも命を共にするつもりだと思うぞ」


「命を共に?」


「お前以外の誰にも仕えないだろう。つまり、お前が死ねば自分も死ぬつもりだ。主人冥利に尽きるな」


「……」


 まあ、なぁ……。嫌いな男の下着を匂いながら舐めながら……ああいうことをしないだろうし。それが主人、使用人の関係でどういうことかと考えれば……そういうことになるんだろうけどね。


「それに……モリヤ。ヤツの最後のセリフだ。繋がったと、言ったのであろう?」


 ああ……まあ、そうです……よね。


「だが、もう遅い、門は、次元は繋がったのだ。あちらより……ということは、あちらから、誰かがやって来るという断末魔ですよね」


「そうだ……多分、ヤツと同格または上位者だろうな」


「九大悪魔でしたっけ?」


「魔界の悪魔。九人の伯爵と呼ばれる強力な力を持つ者たち。まあ、アルバカイトが倒れたのであと八名となったわけだが」


「つまりはそいつらが。やってくると」


「ああ、ソロモン王に使役されていたモノたち。本来であれば使役されるような存在ではないのだからな。この世界や我々に対する怨みは……未だ消えてないと思うべきだし……あれくらいの強者じゃなければ、門を超えてこちらの世界に顕現できないハズだ」


 つまり、やってくるのは確実にそいつらと。


「というか、その「門」っていうのは何処に?」


「それは判らん。この世界のどこか……に既に門が出来ているということだろう。だから、アルバカイトが召喚されたということだろうな」


「門というか道が出来たってことなのかな?」


「ああ、その方が判りやすいかもしれんな。悪魔の世界からこちらに移動するのは凄まじい困難を伴うと書かれてい。ある程度上位の者でなければ、こちらに辿り着けない」


「そういうレベルの強さでしたしね……」


「ああ。なのでこちらの強化も必要だ」


 ……というか、ファランさんはなんていうか、それが第一の目的にしか思えないというか、そう思ってるでしょというか。うーん。


「いつ頃……なんでしょうね」


「すぐにでもかもしれんし、明日かもしれんし、数年後かもしれん。というか、既にかもしれん」


 既に……か。確かに。繋がった時、同時に別の場所に……ということは有り得る話だ。


「とりあえず、ミアリア……さっきのヤツが、最低八匹いるみたいなんだけど」


「はい」


「どう思う?」


「八匹同時は……無理ですね。同時は二匹が限界かと」


「二匹いけるんだ」


「まあ、それは残りが、アルバカイト並だったらの話だがな」


「あいつ……弱いんですか?」


「わからん。だが、九大悪魔の中で格差があったのは間違いない。伝承や物語では……アルバカイトは……イロイロ終わった後の後片付けで毎回呼び出されていたな」


「ああ、便利ですもんね。全部消せるの。俺も……斥候の死体が、収納に入ってるな……急ぎで消したかったから」


 というか、それは戦闘で大活躍とかじゃなかったってことなんだろうなぁ。他に戦闘向きのヤツがいたから、後片付けだけ任されてた……んだよね。きっと。なんかヤナ予感がしてきちゃったなぁ。


「イリス様……帰還まで待った方がいいですね。今後の大方針にも関わる可能性が高いですから。というか、向こうは大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だろう。オーベ師が付いているのだし。多少の苦戦はあったとしても。切り抜けられるハズだ」


「と、とりあえず……あの、オベニスの復興もあるので、数日は待ちましょう。で、もしもそれでもイリス様たちと何らかの連絡が付かなかったり、事態に変化がなかったら……ミアリアに行ってもらいましょうか。ミアリアは二、三日休暇で体調の確認をお願い」


 まあ、それ以外は別動のモリヤ隊のみんなもいるし……。もし、四面楚歌で、味方が自分たちのみだったとしても、大丈夫なハズだ。


「はい、判りました。ですが、調子は完璧ですよ?」


「そうなんだ」


「はい、かつて無いレベルです」


「そうなのか」


「ええ、世界が輝いて見えます」




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