0184:中間報告
ファランさんが術解析のためにイロイロと準備をするというので、ちょっとした仮眠を取った。
そして、またも代表者たちに地下領主館の広間に集まってもらう。経過説明は重要だろう。本来ならイリス様の座る椅子にファランさんが腰掛ける。
「朝早くから済まない。まあ、眠れなかった者も多いかとは思うが。全員顔を上げ、席に着いてくれ」
全員が頭を上げて、テーブルに着く。なんとなく笑顔の代表者たち。疲れては居るが……話は領兵から伝え聞いているのだろう。
「オベニスは……我々領軍は、傭兵団「漆黒の刃」の殲滅に成功した。ヤツラによる不安は一掃されたと思ってよい」
オオオーと安堵の声、息が漏れる。心底、安心したという空気で広間が溢れた。
「ファラン様、お身体の方は……」
「射られたと聞いたのですが」
「ああ、それはもう大丈夫だ。襲われたのは事実だが、癒しの術で治癒され今では大事ない」
「それは良かった……」
安堵の声が聞こえる。
「「漆黒の刃」の団長である〝倒れず〟のカミラもこの手で跡形もなく始末した。領兵に若干の被害は出てしまったが、ほとんどが生き残っている。完勝と言ってもいいかもしれない」
顔が次第に明るくなる。特に団長であるカミラを討伐したというのは大きい。強者の中でもかなりの有力者を仕留めたのだから。
「現状、地上には敵はいない。ほぼ全て殲滅し、逃げ延びた者もいないだろう。敵の放った火の術で、南門周辺が未だ延焼中ということくらいか」
「そ、それではすぐに消化活動を」
「ああ……それなんだが。喜ばせておいて済まないが、実はまだ終わっていない。敵の魔術士が……最後の最後で召喚の魔道具を使用し、使用中に死亡した。つまり、未完成の召喚陣が領主館の手前で起動中だ」
「そ、それは……」
「ファラン様……それは」
「ヤツラが使おうとしていた召喚陣は禁呪と言われているレベルの強力なモノでな。それが詠唱中断失敗している。正直……私はこの手の術の専門家であるのだが……どうなるか予測がつかない」
……一気にお葬式モードに突入する。皆さんの反応があまりにわかりやすすぎて、ちょっとホノボノしてしまう。不謹慎か。
「とんでもなく失敗というのなら、ゴブリン数匹……ということもある。だが。歪んだ召喚は大抵、餓えた強力な魔物を呼び寄せる場合が多い。ヘタすると……イリス閣下がいないここに、三つ首竜レベルの魔物が出現する可能性もある」
三つ首竜と聞いてビクンと、明確に怯えだした者もいる。ヤツに街ごと消し去られた、その場にいた者も多いのだろう。
「とりあえず、当初の脅威は去った。が。未だ警戒せねばならない状況は変わっていない。とりあえず、この地下遺跡は外に魔力が漏れない様だ。魔物が魔力を追う事を考えれば安全と言ってもいいだろう。もうしばらく……多分数日だと思うが……は地下での生活を強いる事になる。申し訳ないが現状維持をお願いしたい」
この後、不満が無いかとか、施設などで不備が無いかとか、色々聞いたのだが、全て、「ありがとうございます、何一つ問題ございません」という答えだった。ぶっちゃけ、地下生活に不満のある避難民などいるはずが無い! くらいの勢いだった。
ま、まあ、それならいいのだが、後で配給などを行っている領兵から本当の現場の声を聞いておいてもらおう。
迷宮は基本地上と隔絶されている。ここは魔力が一切外に漏れないタイプなんだそうだ。そのため、傭兵団はともかく、魔力でモノを見る傾向の高い魔物からは常に隠蔽されている状態の様だ。
現状、まだ鎮火出来ていなくて、火が燻っている状況ではあるのだが、地上には誰一人置いてこなかった。完全待避である。正直、見張り役すらっていうのはあり得ないが、無駄に死ぬよりは良いと思うのだ。
副領主室。イリス様の領主室の向かいに用意したこの部屋は、きちんと意見を聞いたりしなかったこともあって、地上の建物よりも無駄に広い。
執務を行う机にファランさんが腰掛け、その前に配置したちょっと小さい机に俺が座って、執務を行っている。というか、処理しなければいけない件が、変に複合的すぎて、同じ部屋にいないと効率が悪すぎるのだ。
「そろそろ……何か出てくるぞ」
「え? ファランさんは見えてるんですか?」
「ああ、確認方法が何も無いのに、完全撤退などさせるか。さすがにそれは怖すぎるだろう? 今現在、エーディリアに監視をさせている。私は距離があまり離れてなければ、あの子の見ているモノを見て、音を聞くことができる……モリヤの「繋がる」と同じように」
「え? それなら……俺も「繋がって」みれば……」
と言って、感覚共有でファランさんに繋がった瞬間、若干歪んだ映像が伝わって来た。見えるようになったわけじゃないな、これ。ファランさんが見ているモノが彼女に変換されて? 共有されているのか。
領主館前……の手前の道端……既に外は明るくなっている。
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