0182:風術「竜巻」

 いた。これも、お互いにタイプは違うが、さっきのフリアラと同じ様に、攻めるファランさん、守るカミラ……という態勢のようだ。

 

 そもそも。魔術士がソロで武闘派の強者と相対して、正面から戦うのは非常に難しい。倒せないわけではないが、強者を倒せるような強力な術を行使するには、準備詠唱の時間が必要となるためだ。その部分は当然隙になるし、身体能力強化が可能な者であれば一瞬を利用して致命傷を与えられてしまう。


 さらに、弓による攻撃も非常に怖い。武闘派であれば、矢が飛んでくる音や気配を察知して撃ち落とすなんてことが容易らしいが、術系強者はその手の瞬発力に対応出来ない。特に放たれる矢にスキルや術などで強化が行われていたら、それを避けるのは非常に難しい。


ファラン・ネス

ヒーム 女 腕力87 躯体123 器用187 敏捷154 知恵274 精神254


スキル

魔力制御5

→火5

 風4

 雷5

 闇3

 召3

騎乗理解3


麻痺の呪い、戒めの呪い


 ああ、ちなみにこのデータやフリアラのデータは数日前に鑑定しておいたモノだ。戦闘が開始されてからじゃ、30分以上拘束しないとなのと、MP温存の意味でも使ってられないなと判断したからだ。


 相変わらず後衛系完璧超人だ。回復以外はほとんど出来る。さらに、負傷した部分が躯体に影響を与えていないかと思っていたのだが、この鑑定数値上は一切問題が無いようだ。


 ファランさんが肩を打ち抜かれたのは、ちょうど、領主館からギルド本部に行く途中。建物に施されている結界の重なりが微妙に弱くなっている場所で、針の穴を通すように放たれたのだ。


 事前にその穴を調べ尽くして、角度を調整していたんだと思うが、準備期間を与えたスナイパー系の強者の恐ろしさが良く判る。


シュパッ!


 そして、さらに弓使いの矢が襲いかかる! 弓使いの側にいるのが「風穴」オウエか。というか、オウエは……治癒術士に徹しているのか。


 ファランさんは強力な結界を前面に展開しているようだ。アレを維持しながらカミラに絶え間ない攻撃を加えるのは……厳しいだろ、マジデ。やってるから出来るんだろうけどさ。凄いなぁ。


 この距離だとファランさんの視界からも状況が見えるようになる。二箇所から照準を合わせることで、狙いの精度が上がる。


 もういい。この位置から奇襲だ。「繋がる」のお陰で、俺の術の射程はおかしいことになっている。それを利用しない手は無い。

 まずは後ろにいるウザい二人。ヤツラを一緒に始末するために「風裂」を準備する。何が障害になっても構わない。多角的に捕らえた彼らの位置は、どう避けられても、こちらの刃が繰り返し襲いかかる、詰みだ。


(斬り裂け!)


 10の「風裂」が翻る。こちらも念のため、低い軌道を飛ばしている。さらに。こないだの斥候の二人を始末した時の様に、込めた魔力が消えるまで、何度も執拗に刃が貫く様に指定してある。


 まず最初の二つがヤツラの結界を破壊する。三つ目が弓使いの腕を。四つ目がオウエの肩口を。切り落とし、貫き、再度反転して円形の刃が二人に襲いかかる。


「ほら、いいのかね? お仲間が沈黙するぞ」


「なにっ!」


 ファランさんに言われてカミラが動揺したようだ。そう。俺のこの状態での中継攻撃? は画期的で。存在はどんなに優秀な気配察知能力持ちでも感じられないらしい。だって、まだ、仕掛けられた当事者はこちらに気付けてすらいない。俺との戦闘に入っていない。


 まあ、俺が離れすぎなんだよな。とりあえず、有利に勧められるのであればそれに越したことはない。


ガシャ……


 盾が地に落ちた。腕毎。後衛を仕留めた残り香をそっちに誘導してみた。


「強欲だった過去の契約、それに締結した自分を悔いるのだな。お前のせいで、お前の傭兵団は潰滅した。このオベニスを墜とすにはお前達では力不足だ。細切れになって地に帰ってもらう……いささか或る響き渡る 言葉を捧げん、日々を捧げん、豊穣と約束と我が魔力を捧げん。風を。乱れ飛び絡みつく竜巻を。我が意志に沿って我が指に従い。我が道を妨げん彼奴らを砕き裂き、その道を示せ。風よ!」


 長めの詠唱だが……その発動は異様に速い。


 と共にカミラの周囲があっという間で風の渦に囚われてしまう。身動きすることも既に不可能な様だ。その空気の渦が強制的に細くされていく。白い風の波がいつの間にか……赤い風の波に変わっている。竜巻が細くなればなるほど、赤みは増していく。そして上へ。上空へ高く細く登って行く。


 オウエと弓使いも既に息絶えている。そして、彼らの首領である……「倒れず」のカミラは……肉片一つ残す事も無く、細切れにされ、上空で散華した。


「文字通り、跡形も無く……ですね」


「ああ……だが……確かもう二人いたと思ったのだが」


「あ、準強者ですね。それならフリアラが」


 そんな結果が出たあたりで、やっとファランさんの近くまで辿り付いた。周りを警戒しながらだったので、少し時間がかかってしまった。



(お館様……少々不味いことになったやもしれません)


 あれ。


(なに? 逃げられた?)


(いえ……追いかけた魔術系の準強者……二人とも無事仕留めました……。領主館前です)


 うん? ヤツラは領主館前で何を?


(何か……仕掛けられた可能性があります。ファラン様には至急ご確認お願いしたく)


(判ったすぐに行く)


(様子見で。あまり踏み込まずにそこで待機して)


(了解しま……く。これは……召喚魔術の陣では?)


「まずい、急ぐぞ、モリヤ」


「ええ」


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