0177:充足

 多分、二時間くらいしか寝ていないと思うのだが……異常にスッキリと、しかも、調子よく目が覚めた。腕の中に……裸体。俺の勝手な全力疾走に付き合ってくれたのか、最後は失神するかのように果てて、そのまま眠ってしまったミアリアがいた。


 女性を抱いたまま眠る……なんていつぶりだろうか。向こうの世界で彼女がいた頃ぶりだから、相当久しぶりということだ。


 久しぶりのハズなのに。その温もりに異常に餓えていたことを実感した。そうか。俺は寂しかったのか。誰にも触ることが出来ないというこの世界に……馴れてきているようで、馴れていなかったのだ。どこかで絶望というか……もう無理というか、完全に諦めていたのだと思う。その隙間がこんなに大きかった事に、今、初めて気付いた。


 抱きしめながら、いつの間にか涙がこぼれていたようだ。しかも、何度も。


 しかし泣くとストレス解消になるっていうのは、本当なんだな……。こんな状況でまた確認するとは思わなかった。


 完全に寝落ちている……ミアリアが起きないように、気をつけながらベッドから抜け出す。


 こんな行為も久々だし、この世界でもやる事になるとは思わなかった。……正直、ミアリアは未だに「魔剣士」アーバックとの戦いで負ったダメージが抜け切れていなかった。


 一流の強者、しかも剣士と正面から戦い、圧倒的に勝った。それは、確実に何かを犠牲にしなければ出来ない無茶な話だったのだ。とはいえ、圧倒的に勝つレベルで本気以上で挑まなければ、ミアリアも大怪我なり、どこかを斬り落とされるなり、何らかの代償を支払わなければいけなかっただろう。


 実際に、「魔剣士」の技は、ミアリアの身体を蝕んでいた。オーベさんによれば、強力な魔術による歪みの様なもので、軽い呪いを喰らった状態に近いらしい。


 とはいえ、「何ら大きな傷痕を残すような一撃は喰らっておらん。見事なモノだ。しばらく……数週間もすれば全て消え失せるだろうて」だそうだ。


 まあ、それだけ……マッサージによる強化が無ければ。本来なら実力差がある相手だったのかもしれない。そう考えれば、今、ここまで引きずるダメージを受けていようと、後悔してはいけない所だ。


(フリアラ、敵本隊の位置は?)


 切ってあった意識を、繋ぐ。


(情報待ちなのか、遅れています……このままですと、あと半日、斥候に半日、オベニスに仕掛けるとしたら、明日朝以降でしょうか)


(昨日、フリアラが離れていた時に、敵の斥候で潜入していた強者を二人始末した。そいつらと連絡が取れなくなって慌ててるのかな?)


 フリアラは遠回りだが、安全な場所から敵本体の行動を監視してくれている。どうしても「繋がる」ことが出来ない位置に移動することが結構あるのだ。なにこの……携帯とか無線電波の様な仕様。「繋がる」の謎も多い。


(そうかもしれません。お館様、あの、それはミアリアが?)


(ミアリアに手を借りて、俺が仕留めた)


(それは……お疲れ様でございました)


(後は……ヤツラが到着する前に、ファランさんが回復してくれれば……)


(ええ……セタシュアから聞きました。大怪我でしたと……今は……?)


(セタシュアは多分寝てる。ファランさんはまだ意識が戻ってないと思う)


(その辺、お館様にしか判らない所ですので)


(そうなのか)


 あ、まあ、そうか。「繋がってる」からといって、感覚共有っていうスキルを持ってるわけじゃ無いしな。基本、マッサージをした人に「俺が繋がりたい」と思うと、一方通行なハブに接続される様な感じなのだろう。伝わってくるのは会話だけだそうだ。


 今回の一件にけりが付いたら、詳細を検証しないとだな。いつの間にか、日々成長しているせいで、なかなか上手くいかないんだけど。


(ミアリアも今は寝てる。未だに体調が悪いのに偵察監視の任務に出した。少々無理をさせた)


(了解しました……どうしますか? 先行して、オベニスに向かいますか? それとも奇襲を?)


(そういえば、強者の数は?)


(多分……今は四名だと思うのですが……)


(あれ? 「漆黒の刃」の通り名付きの強者は全部で六名で、ネレチックは仕留めた。残りは五名……そうか、全員で来ていない可能性もあるんだな?)


(申し訳ありません、私ではハッキリと判らない部分もあるかと思います。元々シラビスといたときに襲ってきたのは八名。囲まれたと判った瞬間に、二手に分かれました。私の方が「はやかけ」が得意なので……シラビスは自分を囮にしたのではないかと)


 フリアラ越しに敵の姿が見えないか、視界共有が可能か試してみたが、距離的にまだ難しいらしい。まあ、敵と一緒にだが着実に近づいて来ているから、しばらくすれば視界も共有出来るようになるし、簡易鑑定で詳細もわかるだろう。


「漆黒の刃」は通り名を持つ強者は少なめで~なんて情報もあった通り、団長以外は、入れ替わりが激しいんじゃないだろうか? なのでミリアがまとめてくれた情報も、概要以外は既に古く、正確性がいまいちなのかもしれない。その辺はこの世界の情報伝達スピードの緩さのせいだ。……仕方ないだろう。


 それこそ、王侯貴族ですら遠距離との通信手段を持っていないそうだ。隠しているだけで、実はその手の魔道具があるんじゃないの? と聞いたが、ファランさんですら、そもそも遠隔地との通信? みたいな状況だった。俺との「繋がる」体験があってやっと、意味が通じた感じだ。


 一番信頼出来る通信は……書簡でのやり取り。羊皮紙を用いた手紙だ。サインと紋章印等で正当性を確保する。それを馬に乗った伝令が早駆けして、届けることになっている。

 庶民なんて手紙もそうそう書かないし、さらに言えば読めない者も多い。自分の暮らしている街や村以外の情報は必要無いのだ。


 吟遊詩人が放浪して各地であった事、見てきた事を歌にして歌う。それも当たり前の情報伝達手段の一つだ。まどろっこしいがそれしか無いのだから仕方ない。


 魔物によって、この世界は隔絶されている。


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 あの。今回の件、訂正版ですから、正直、結構詳細を書いたのですが。

 

 最初の頃の挿絵と同じく、近況ノートでサポーター限定で公開とも思ったんですが。


 本当にAVの小説化にしかならなかったので(ただの18禁エロ小説でした)。


 もしも単行本化した場合の書きおろしってことにします。

 

 

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