0173:強者
「ご、御主人様! ここからなら、私でもどうにかなると……思います、いえ、どうにかします。それ以上魔力をお使いになると、また、寝込むどころか、最悪、命も失いかねません。今、御主人様を失うワケには」
ああ、そうだ。そうだな……俺が倒れたら……思うと、ヤバイ汗が流れ落ちた。
セタシュアに頷き、身体が震え、ふらつくのを抑える。
腰に括り付けてあるポーチから、とっておきの魔力回復薬を取り出し、飲み干す。イリス様が昔迷宮で手に入れたモノだ。もの凄くマズい。口はマズいが、ふらふらしていためまい感や何かを失った喪失感が満たされていく。
ファランさんの傷口はなんとか埋まっていた……肉が盛りあがって、赤くなっている。
セタシュアは先ほどよりもかなり楽な感じで、癒しの術をかけ続けている。確かに、このまま続けていけばどうにかなりそうだ。
ふう。良かった。しかし……誰が……何のためにかは判ってる。
うちの領で強者といえばイリス様。そしてファランさんなのだ。多分「召喚妃」オーベさんがいることも、強いノルドが数名いるというのもバレ始めているとは思うが、きちんと名前が知られているのは二人だけだ。
あ。しまった。そうか。くそっ。何よりも、イリス様が細かい作戦や策略を弄せるとは……思わないよな。アレだけの強さを見せつければ、彼女が完全に前衛系だというのはイヤでも理解しただろう。
では。黒ジジイならどう考える? 裏に、自分と同じ様な存在が居ると思うのが当たり前だ。
自分が白ジジイや影に指示を出してやらせていたことをしている者……そう。この領で知能派といえば……ファランさんしかいない。そう言った策謀に向いていない事は知っていたろうが、人は成長する。自分が知らないうちに今回の様な脅威となった……と考えても不思議じゃない。
真っ先に狙われたのがファランさんなのは当然なのだ。怪しんでもっと慎重に行動しなければいけなかった。
(……ミアリア、どう?)
(大丈夫です。捕捉しました。現在、オベニス西です。追跡されているのは……多分気付いていません。己の隠蔽能力を過信している様です。このまま逃走するつもりは無いようですね。移動速度もそれほど早くありません。隠蔽のスキルか術も、一度気付いてしまえば、再度誤魔化されることは無さそうです)
(ミアリア、体調が万全ではないのだから、場所だけで良い。頼む。他の……それこそ、今、守備隊を指揮してるミリア、いや、目端の利くヤツなら……パトリシア、シエンティア辺りを狙われると厄介だ)
(ええ、でも、今この地には……)
判ってる。ファランさんとミアリア以外に強者と呼べる様な者が存在しない。明らかに油断。明白に俺のミスだ。敵が「漆黒の刃」だけだと、誰が言った? 勝手に決めつけたのは俺なのだ。
(とりあえず、対象は二名です。一人は弓を背負って……あ。彼女見覚えがあります。ランク7冒険者のシーリスですね。数カ月前からここオベニスで活動していたはずです。……ファラン殿の防御結界を貫けるような腕を隠していたのでしょうか。もう一人は……ヒゲ面の男です。冒険者だとは思うのですが……こちらは見覚えがありません)
(隙を……狙われていたか。判った。気づかれない様に……ってそうか。ミアリア、ヤツラを視界に収められる?)
(動いているので……難しいかと思いますが……あ、いえ、休息するようです。野営に使っている場所なのでしょうか、火を焚いた後が見えます)
「繋がり」を強化する。視界も連結され、下の方に男女の冒険者の姿が見える。結構遠い……が。ミアリアのスキルか、能力か、望遠機能でそれなりには見える。
クラウデア・××× ヒーム 女
器用、敏捷が高め。
弓術、風の魔術
ネレチック ヒーム 男
平均的な能力。
隠密、その他
(女がクラウデア、男がネレチック……こいつらの名前、どこかで見たな)
(ええ。クラウデアが「暁の海」の「貫く矢」。ネレチックが「漆黒の刃」の「見えぬ剣」ですね。シーリスは偽名で先行潜入していたのですね……ネレチックはこの作戦に参加していないだけだと思われていましたが、既にここにいたとは)
「暁の海」……も有名傭兵団だ。確か、イリス様が向かった戦場に主戦力が投入されているとの情報があったはずだ。
これで二つの傭兵団が動いている、繋がっていることが判明した。そんなことは……盗賊まがいのことを行っている弱小傭兵団単体では無理がある。
つまり、全ては……黒ジジイ、いや、この国の策謀だ。このオベニスを潰すための策。イリス様を潰すための策。悪くない。悪くないけどな。
他国の侵攻っていうのも……もしかしたら半分嘘かもしれないな。
ワザと隙を見せて攻め込ませたのかもしれない。傭兵団にも多額の謝礼を支払って……。有り得るが……腐ってる。国は民によって生かされている……という統治の基礎が抜け落ちている。土地も人も、完全に私物、自分たちの財産でしかないのだろう。
こちらが領として普通にやろうと派兵に対応してやったのに。まあ派兵に関して、人数的にはギリギリの数しか派遣してないし、死なないメンバーにしたのが徒になったけど。
……そうか。伝令として既にシエリエがイリス様の後を追いかけているが……何らかの妨害策が施されていると思って間違い無いだろう。
(ヤツラ、野営の様です。……ここの場所で本隊と合流……なのかもしれません。オベニスからは崖下、ひさしのように岩山が張り出していて、火を使っても煙が立ちません。沢も近いですし。宛ても無く探索したとしたら、ここを見つけるのは困難でしょう)
(判った。見張れる? 監視しておかないと怖いな)
(はい、問題ありません)
(ごめん、魔力が回復し次第、そちらに向かう)
(え? お館様が……ですか?)
うん。強者が二名。それを仕留めるのにミアリア(手負い)の直接攻撃はリスクが大きすぎる。搦め手というか、一気に潰すしかないだろう。
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