0171:漆黒の刃

 とりあえず。


 襲撃と聞いて……すぐに地下迷宮避難所計画、大きい箱、大きい体育館は作れそう、出来そうだなっていうのは思いついたんだけどね。そこに、荷物と毛布を持ち込んで避難所として……って。


 でも、茂木先輩の凝り性というか、無駄に向こうの世界を再現する思いに助けられて、思ったよりも素晴らしい生活環境が用意できたのでちょっと安心した。


 特にトイレというか、下水問題が問題にならなそうなのはよかった。使い方はちゃんとレクチャーしないと、詰まる……な。というか、トイレが詰まった場合の対処とかどうすんだ、これ。


 ラバーカップ……ねぇよな。ゴムなんて見たこと無いし。うーんシリンダー型のがあれば……。いいや。備え付けの紙以外使わない様にと注意だけして、問題が起こったら、それはそれで対処しよう。いまから考えても仕方ない。まずは避難。生きるか死ぬかだ。


 そもそもトイレットペーパーは無くなったらどうすれば良いんだ? 無くなったまま? いや、そんなバカな。茂木先輩がそんな手抜かりをするはずが無い。だって、自分の部屋のトイレでも使用している消耗品なのだから。


 と、思ってタブレットをイロイロ弄っていたら。その辺のアイテム一覧を発見した。


 トイレットペーパーや歯磨き粉、洗剤に石鹸、洗髪剤。タオルに毛布に掃除道具。あ。ラバーカップもあるな。なんていうかホテルの備品か? っていうラインナップ。何の問題もなく、ダンジョンポイントで交換出来るようだ。

 浄化施設もポイントで難なく設置できた。地下迷宮の地面下に下水道をひく。そしてそれを施設に繋いで、浄化。最終的には迷宮外のオベニス地下水道、水路へ排出する。簡単。正直、地上の都市改革なんて比べものにならないくらい簡単……すげぇ。。


 しかし。簡易住宅のおかげで最終的にオベニスから逃げ出す人もそこまで多く無いかもしれない。


 傭兵団に街が狙われるっていうのは、大規模盗賊団に襲われるのと同じ様な感じで、比較的良くある話のようだ。


 普通は領主が騎士団を率いて討伐を行う。そう、現状、オベニスには領主もいないし、騎士団も無い。街を守る、文字通りの守備隊はあるが、基本、騎士団よりも格下という扱いになる。


 騎士になるには、まず従者になり競争に勝ち抜かなければならない。そもそも従者になるにしても入団審査が行われるのだ。


 その点、守備隊は街の治安を守るのが役割で、運動がソコソコできるのなら誰でも入隊可能だ。地位やコネが無い場合、まずは守備隊に入隊する。そこで訓練を重ね、頭角を表すと、守備隊長に紹介状を書いてもらえて騎士団の入団審査に参加できる。


 いきなり騎士団審査を受けられるのは、貴族とか、二つ名付きの冒険者、強力なコネがある人くらいなのかな。きっと。


 さて。避難は、俺の予想よりもかなり速いスピードで進んでいる。というか、うちの領の文官はほとんどが女性なんだけど、凄まじく有能だ。


 通常業務だとルーティンワークが多く、その才を再認識できることが少ないのだが、こんな感じの非常時には能力の高さが浮き出してくる。

 

 ミリアが急遽作成してくれた「漆黒の刃」調査レポートは非常に詳細なモノだった。ありがたい。モリヤ隊という常時情報収集を行う部隊が現在人手不足により活動出来ないため、この手の情報があるのと無いのとでは、大違いだからだ。何よりもイリス様からの返答がまだ……届いていない。伝令のシエリエは既に合流していても良いはずだ。


 ……少々不安なのは、伝令などの連絡ルートすらも読まれて、強者を派遣されていたら……くそう……いらつく。あまりに敵の策がうまく填まりすぎている。行きすぎている。俺も少々甘く見ていたのだろう。


「漆黒の刃」に関する情報を元にした予想、推測としては。


 団長は「倒れず」のカミラ。優男で、剣技はそれほどでもない、らしい。が。とにかく倒れない。受けた攻撃を避けるのが非常に上手いのと、スキルの詳細は不明だが、とにかく死なない。2人の強者に挟まれたときも、血塗れにも関わらず、生き残ったのはカミラだったそうだ。


 カリスマ性もかなりのモノのようだ。戦闘が出来るレベルの人間を揃えることが難しいこの世界で、五百人という破格の人数を率いていることがスゴイ。この五百人はただ戦えるだけの、盗賊や野党、守備隊員が五百では無い。馬に乗っていないだけで、騎士と戦える戦士が五百人である。


 騎士五百といったら、中堅国の全騎士団に相当する。腐ってはいるが、大国と呼ばれているこのメールミア王国ですら、王家直属の騎士団は第一~第五で騎士は二百×5。つまり千人。


「漆黒の刃」がどれだけ異常か、良く判るだろう。


 さらに言えば、通常の傭兵団は強者が5~10名。強者候補が数十名で構成されている。一般兵なんていう強者候補の下の人材を加えたりしない。純粋に割が合わないからだ。


 強者:「双頭槍」ホムリア、「風穴」オウエ、「巨大斧」ハートランズ、「見えぬ剣」ネレチック、「火の原」アーチャールの六名。


 傭兵:約五百人。通常の騎士団であればほとんどが部隊長クラス。戦争に参加して目立った働きをすればすぐに二つ名が付いてもおかしく無い実力者揃い。


「こんなヤツラがあと2~3日で」


「同じ魔術士だから使う術を知っているが、「火の原」は……ヘタすればオベニス全域が数刻で火の海だな」


「やっかいな……」


「ああ、やっかいな傭兵団に目を付けられたものだ。有名傭兵団の中でも大陸で五本の指に入る。特にその人数を生かした戦闘は「国潰し」と呼ばれているな。ただ、雇う方も覚悟が必要になる。それこそ……少しでも契約破りがあれば、その刃は雇い主に向く」


「……プライドズタズタですからね。彼ら。必死ですか」


「苦渋の選択だろうな。ああ。その顔が目に浮かぶ」



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