0104:水路の向こう

 さて。水路班。という班がある。というか、俺が名付けた。正式には水路がどこにつながっているか調査班だ。セタシュアショック冷めやらぬ次の日の朝、一番で受けた報告が、その水路班が戻ったというモノだった。


 この領の主役であるイリス様が迷宮に夢中になってしまったこともあって、若干放置されていたのだが、迷宮発見の前に、本格的な地下水路が発見されていたのを忘れちゃいけない。というか、俺的にはこちらの方が非常に重要だと思っているくらいだ。


 水路はオベニスを北から南へ流れている。南へ行けば多分、王都方面。北はどこまで続いているか全く判らなかった。なので、まずは上流である、北へ向かってもらうことにした。


 乗り込む船は、水路船着き場の脇のドックに係留されていたものだ。魔術によって状態保存? されていたようで(ファランさん談)、修復の必要のないレベルで残されていた筏のような運搬船だ。魔道具が付いていて、ジェット水流推進の様な仕組みで機動する。仕組みは良く判らないけど。とにかく便利な推進器かな。


 ジョイスティックのような舵の簡単な操作で、思うがままに進むようになっている。細かい操作も難しくなく、往路復路ですれ違うことも簡単にできるのは自分もちょびっと試してみたから間違い無い。


 内燃機関、原動機、エンジン付きの船はないが、この魔道具も実用的で良い感じだ。上流へ向かうのもそれほど無茶じゃない。と思う。


 日本にも昔から曳舟というシステムが存在する。曳舟。地名じゃないです。船を川や水路の横の道路から、人や馬などを使って引っ張って、牽引するやり方。

 雨などの水量によって、流れが変化する川と違って、水路のような比較的穏やかな流れの場合、さほど労力を割かなくても、上流へ進むことが出来る。


 当然、風がちゃんと掴めるような地形なら、帆船で水路を遡るなんて当たり前の様に行われていたし、数を用意すれば人力で櫂で漕ぐのも無しではない。


 まあ、とはいえ。地下水路の脇に道路があるわけじゃないし、船はそれほど大きく無いので乗員も少なく櫂で漕ぐのも厳しい。そもそも置いてあったのは筏みたいなヤツだしね。

 一見物流に使うには耐久度が足りなそうで、不安要素大有りなんだけど。ここで登場するのが、この魔道具という不思議パワー。つまりは。魔石の産出が豊富な我が領。その物量で流れを乗り切るのだ。


 この魔道具は稀少で、現在稼働しているのは発掘品のみ。この時代の普通は、筏の帆に風の術で風を送る→すると……船は見事に上流に向かって進み始める→というわかりやすい魔術の使用が主流だそうだ。運搬船の帆は、魔術による風をうまく受け止めることが出来るようになっているとのこと。かなり非効率的なやり方な気がするよね。


 実際、風の魔術が得意なモリヤ隊メンバーにやらせてみたら、操作自体ならワンオペでも問題無い感じだった。魔道具故障等の予備動力としては充分だろう。


 と、いうことで。モリヤ隊の中から、その時動けそうだった者優先で人を選び、四名で班を構成した。元々、ノルド族の魔術は風と決まっているらしい。風を起こす……というだけであれば、魔術を学んでいない子供ですら問題無く発動できるそうだ。


 更に、極秘任務なのでできる限り身内で、という事にもなる。


 とんだブラック以上に酷使しているわけだが、信頼し、モリヤ隊のみんなにしか頼めないという仕事は、とても嬉しいそうだ。


 彼女たちは承認欲求を渇望してたわけだしな〜。一番恐れてるのは自分が居ても居なくても変わらない生活なのかもしれない。


 寿命が長い事もあって、深夜の自問自答タイムは永遠に感じられる気もする。


 ああ、で。水路班の目的は他の地下水路船着き場の発見と、地上への移動手段があるのかどうかの確認。


 最初は「繋がる」で見ていたのだが、しばらくすると効果範囲を超えたのか、見えなくなってしまったので、若干心配はしていたのだ。まあ、うちの人たち(モリヤ隊)に変な落ち度は無いと思いますけどね。強かだし。全員。


 あ、因みに「繋がる」は一度切れると、俺が認識し直すまで、再接続は出来ない。なので帰り途中でピックアップして、事前に対応は出来なかった。


 ということで、着替えをして食事を取って執務室に入ると、既に班を代表してミアリアが報告に来ていた。


「お疲れ様でした」


「今朝方戻りました。お館様」


 顔色は悪くない。というか、あまり無理とかムチャはしなかったようだ。


「どうでしたか?」


「オベニスと同じ様な船着き場を発見しました。運搬船を係留し、周囲を探索すると、ここと同じ様に上に向かう階段を発見したので、地上を目指しました。出たところは深い山中の遺跡……といった感じでした」


「場所は判りましたか?」


「その遺跡を中心にさらに探索を開始して、数時間後。開拓村を発見しました」


「開拓村? というか、どこの?」


「地下水路はクビネア山脈を突き抜けて、アルメニア征服国側に到達していたようです。開拓村の名前は無く……セズヤ……二年前に征服国に滅ぼされたセズヤ王国の落人の里の様です」


「隠れ住んでる……のか。落人……ってことはもしかして偉い人も? いるの?」


「は。セズヤ王国第二王女が匿われている様です」


「うわ……面倒くさそう。というか、まあ、他国なのは想定内ではあるんだけど……征服国か。ほとんど曲がらずに北へ抜けたってことかぁ」


「そのようです」


「接触は?」


「一度報告してからと思いまして。探ったのみです。一切気取られていないかと」


「わかった、ありがとう。完璧だ」



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