0059:王都
馬車は丁度、王都全体を見渡せる丘隆地帯を進んでいた。眼下には王都の姿が徐々に明らかになってきてる。
王都メールミアは……俺の予想通り、多分、10万人以上の人が集う場所の様だ。って日本でも10万人が一気に動員された様子なんて実際には見たことはないけど。
まあでも領都オベニスとは何もかも、根本的な規模が違う。一万人、数万人規模の約十倍。そんな目算だが、建造物の数、大きさ……こっちの世界へ来て、開けた場所でこんなに大きな人工物を見たことが無かったせいかもしれない。
とはいえ、まあ、うん、前の世界である東京、新宿の高層ビル群なんかに比べればそこまででもない。が。遠くからでも確認出来る巨大な建造物の威圧感は、基本的に自然しか目に入らないこの世界では異様な凄みを感じる。
ファランさんの説明だと巨大な王城……ということだったが、高く巨大な城壁の方が目立っている。城壁は大体……高さ20mくらいはあるだろうか? 俺の中の認識は……早い話がダムだ。ダムを下から見上げた感じで城壁が城を囲んでいる。城の天守閣というか、上階部分は見えているのだが、正直景観的には印象に残らないのだ。ってそうか、わざとか。アレを見れば誰もが城壁しか記憶しない。あの中に何があるか? なんてあまり考えもしないだろう。まあ観光スポットじゃあるまいし、城としての美しさを自慢したいわけではないのだ。実用一辺倒。むしろ、ここまでの防御力が必要な敵が存在することに改めて感心する。
あの城壁を含めて、あそこは戦場なのだ。戦い生き残るため、機能優先で無駄は排除したということなのだろう。
「でもな~人はそれだけじゃ生きていけないと思うんだけどな」
巨大な王城=城壁の周りに貴族たちの館、その周りに騎士や兵士の家。その周りに商人や職人の集合住宅、市民の家。さらにその周囲にスラムが形成されている。同心円状に……というほど円では無いのだが、王都の外周に近づくほど建造物の背が低く、みすぼらしくなっていく。
こうして一瞥出来るスペースに数万もの人が集中していると思うと、どれだけ密集してるんだろうという気がしないでもない。当然だが、もしも戦争になった場合、あの城壁の中に王都の人間全てを収容することはできないだろう。権力者だけが生き延びるんだろうな……。
城壁内に畑や井戸、森には泉もあるそうだから、立て籠もれば数年は保つ作りになっているのだろう。城壁外を全て犠牲にして。
「そもそも……王都が攻められている場合、どこから援軍がくるんだろう? 大抵周辺都市を潰して近づいて行って、最終的に王都ってことになるんじゃないか?」
「何をブツブツ言ってるんだ? モリヤ」
4頭立ての馬車の窓から王都を眺めつつ、独り言。ハゲの中年オヤジの。まあ、周囲からすれば気持ちが悪いことこの上ないな。空気を読んでくれないイリス様はその辺を確実に突っ込んでくれる。ありがたい。
あ。そういえば。冬の間にイリス様を中心としたモリヤ隊のヤツラに無駄に訓練に付き合わされ(隊長なんだから出来ないとおかしいとか言って)、稽古という名で虐められた。そのせいでコンプレックスの一つだった小デブは完全に解消されてしまった。というかこの世界のあまり贅沢と言えない食事のせいもあって、正直痩せた。そして若干筋肉も付いた。既に腹筋も付いている。ビックリだ。
まあ、だからといって何か良いことがあるわけではない。性に関する常識が日本とは全く違うこの世界では、シックスパックで男の魅力アップ! というわけでもないし、イリス様たちのような異常な能力を発揮できるように! なったわけでもなかった。
俺のマッサージは周囲に凄まじい効果をもたらしているのだが、自分自身の筋肉を揉みほぐしてみても何も起こらなかったのだ。残念! というか、異世界転生チート伝説「オレツエエエエエエエ!」なんて、都合良くはいかないのが現実なのだろう。ファンタジー世界にも関わらず、夢が無いこと半端ない。
まあなぁ……転生じゃ無いから神様にも会ってないしな……俺。どうせなら、ある程度裕福で両親がちゃんといるなら、赤ちゃんからやり直しとかでもよかったのに。……って贅沢か。なんなんだこの現状。くそう。
ま、まあ愚痴は置いといて。とりあえず身体を動かすことが多いと、身体が軽く、素早く動けるので痩せて良かった。とは思うのだが……未だにこちらの世界に来て、セルフ以上の性行為を経験していない、異性と熱い関係が発生していないのはなー。何と言っても現代日本ではないのだ。引きこもりなど存在できない。死に直結していると言ってもいいくらいだ。
この世界は社会生活、コミュニケーションという意味では……中世ヨーロッパ系だから……多分、江戸時代レベルじゃないだろうか? 多くの人に干渉し、され、接触、会話をしなければ生きていけない。しかも俺の周りはほぼ女性、異性しかいない。職場も私生活でさえも、だ。なのに……。
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