0048:ランク7

「で、どうでした? 彼女たちは」


「凄まじいの一言……だな。それぞれがランク7……いや、ランク8なりたて程度の実力と言っていいのではないか? 弓士として考えたら……この国随一だろう。森の中で囲まれたら私も危ういかもしれん」


 それはスゴイ……ランク8ってこの国で3人くらいしかいなかったハズだ。


「元々の彼女たちの実力はランク4~5……程度だったはずだ。それでもかなりの戦力なのだが」


 報告を兼ねて昨日、イリス様自身に彼女たちの実力をチェックしてもらっていたのだ。


「魔術も凄まじいな……元々ノルド族独特の術を器用に使いこなすのはもちろん、癒やしの術をほとんどの者が使えるのは驚きだ。しかも練度が高い」


 ファランさんには術関係を見てもらった。その評価はお墨付きと言って良いだろう。


「正直、大変というか、面倒なのは落ち込んだミスハルだな」


「それは……上司が面倒みてください」


 森にいた時、ミスハルはあの村で最強の狩人だったようだ。当然その実力にかなりの自信も持っていたのだろう。

 村の落ちこぼれの役立たず達(やはりそんな扱いだったらしい)10名に対してはかなり上からだったし、俺にもちょっとそれが漏れていた。


 まあ、俺、狩人……いや、戦士目線で見たら明らかに足手まとい? 役立たず? にしか見えないしね。


 それが昨日、イリス様の前に自分が……と自ら名乗り出て、圧倒的な差で倒されてしまった。


 もう、まさにフルボッコ。


 1人目に一撃で気絶させられて、それを癒やしの術で治して2人目。そこでもボコボコに殴られて意識を奪われ、3人目もあっという間に失神。4人目で大きく飛ばされて訓練場の壁にめり込み、そのまま救護室? へ運ばれて行った。


 ミスハル自身が彼女達に対して虐めなどはしていなかったそうだが、村の穀潰したち(とことんアレな扱い)を見下し、無視していた……のは確からしい。


「もしもあの娘が私たちに何かしていたら……手足の骨を折るくらいはしてましたよ」


 だそうだ……。術で、外傷、怪我は治っている様だが、精神的に落ち込んで寝込んでいるらしい。


「というか、マッサージしてやれ」


 ファランさんは簡単なことの様に言うが……ノルド族10名は死んでもらっては困るので施した。それよりも優先事項は存在しないからだ。


「ぇー嫌われている相手に触るのは俺だってイヤですよ……」


 命がかかってるとかであれば別だけど……。


 ミスハル、彼女には初っぱなから嫌われている。というか。多分、彼女はイリス様が好きなのだ。憧れというか、そういう意味で。同性愛的にかどうかはともかく。なので、根本的に優遇されている側付きの異性! の俺に対して、本能的生理的な敵意が常にチラチラと見え隠れする。


 俺しかいないからなぁ。イリス様の周辺には。男が。領役場には当然居るんだけどね。守備兵とか、騎士団とかにも。まあでも、この屋敷には……俺だけか。未だ。


 正直、俺はコミュニケーションが得意でないし、嫌われている人にわざわざ触りたくない……というか。


 俺の事を嫌う人がいたとしても、それはそれで仕方ないと思うし。


「正直、能力強化で感謝されないのはどうでもいいんですけど。「マッサージしてくれてありがとう」という、人としての最低限の感謝が感じられないのは、やる気にならないんですけど」


「まあ……な。ミスハルは何故か、モリヤを嫌ってるからな……」


「嫌われてるのもいいんですよ。別に。彼女に好かれたいと思ってませんので」


「本人に……選択をさせるか」


「モリヤに対して敬意を持って接することができるかどうか、それが出来ないなら強化は出来ないと」


「強化というか、マッサージです。マッサージしたからって、強化されると決定したわけじゃないですし。気持ちが無い、精神的な干渉のない施術は……彼女にだけ、効果が現れないなんてことも在りえますから。なんとなくですが、信頼関係……人間的な好意が有る無しで差が出そうな気がします」


「そうだな。確かに。お前のスキルは不明な点が多いからな……まだ」


「ミスハルは……自分で選ばせよう」


 まあ、うん、別に俺は睨まれたくらいで、実害にはあってない。そういう意味では嫌いじゃないしな。本人がちゃんと妥協してくれるのならやらざるを得ないか。非力な我が領の貴重な戦力なんだし。


 それにしても。


 イリス様とファランさん、この2人にはスキルを使う際の、俺的な超絶的な葛藤について簡単には説明してある。


 にも拘らず、この軽さだ。イマイチ理解してもらえてないとは思う。


 波動拳! とか衝撃波! とか叫びながら使う必殺技の様な感覚だよね? 


「仕方ないだろう。モリヤ。これだけ劇的な強化スキルにも関わらず、お前はほとんど消耗せずに使えるのだから」


 心というか、男子たる精神のどこかを大きく消耗、魂を消失させていってるけどね。


「はあ……まあ、とりあえず、彼女たちには全員10回以上のマッサージを行いました。能力向上、術獲得などの強化をハッキリ確認出来たのは、大体5回まで、でしょうかね? さすがに無限に強くなるということはないみたいです。その後の能力衰退は全員未だ感じていないため、もうしばらく様子見と言ったところでしょうか?」


「5回……か。ということは、私もあと3回は強化してもらえるということか」


 あ、そういうことか。ってイリス様はワクワクが止まらないって顔だ。そこまでか。脳筋は。強くなるのがうれしくてしょうがないって感じか。


「そうなり……いや、もしかしたら、地力の強い人、それこそ、元のランクの高い人はさらに奥があるかもしれません。あの10人の中で一番強かったミアリアは他の者よりも1回多く強化された……ような気がすると言っていたので」


 ハッキリとはわからないが、全員を均等に強化されたと思っていたのだが、ミアリアだけが妙に実力的に突出している。少なくとも、強化前よりも強化後の方が他の9名との力の差は大きい。


 アレだ。成長限界値が高いというか、レベル上限がちょい高かったというか。しかもそのレベル上限は日々の鍛錬で上昇するタイプ。


「そうか……」


 すごい嬉しそうだ。どう考えても、今後喧嘩を仕掛けられる可能性が高いわけだから、イリス様の強化もしておいた方がいいとは思うが……なんとなく恐怖を覚えるのは何故だろうか? まあ、今のままでも十分強いんだけどな……。


「イリス様こそ、能力衰退、低下は感じませんか?」


「ああ。未だ呪いも小さくなったままだ」


 ファランさんによれば、俺のスキルが強化系の魔術と同じようなモノであれば、確実に、その力は時間経過と共に弱まっていくものらしい。


 正直、その制限時間を把握できないのは非常に怖い。それこそ……その強化に頼っている最中、戦闘中に効果が切れたりしたら大変なのだ。


「イリス様に最後に施術してから今日で大体30日くらいですか?」


「ああ、そうなる。とりあえず、しばらくそのままだな。モリヤのスキルの限界というか、期間限定なのかっていうのを確認しないとだしな」


 ファランの無情な判断にイリス様がしょんぼりした感じに。それにしても判りやすい。


「今日が秋の20日。我々に残された時間は冬終了まで。残り180日程度ですか」


「相変わらず計算速いな」


「うむ」


 いやいや、カレンダーレベルの計算を褒められても……特にファランさんは賢者なんですから。


 で。


 その後の話になるが、俺のマッサージの効果は大体120日程度で劣化することが判明した。


 ミアリアたちノルド族もほぼそれくらいで能力の低下を感じたそうなので、最低でも100日毎、季節に一度、再度マッサージすれば良いということになった。


 とはいえ、能力低下もガクッと下がるのでは無く、徐々に、少しずつ減衰するといった感じだという。


 イリス様が気付いたことで120日という目安が判り、それを気にしていたので判ったそうだが、最初は普通なら気にならないレベルだそうだ。


 低下したからといって、それまで使えていた術が急に使えない……なんてことも無かったという。それは良かった。


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