31歳から始める能力付与者 ~マッサージで天下は取れるのか? 取れそうだ~ ※全面改稿版
久城征博
0001:無職、迷う
自分の理想の女性が目の前で横たわり、その身体をマッサージ、揉んで良いと言われたら……どうすればいいのだろうか?
分からない。思考が停止する。
本気で教えて欲しい! ツイッターとかSNSとかBBSとか、もうなんでもいいから! ネットの神様がいれば。いれば……。
せめて順序を経て……出会いがあって、食事に行って、映画に行って、とデートを繰り返して、告白して付き合っている、恋人になっているという流れがあれば……。
何よりも、その美貌にある程度馴れている、そのスタイルが普通に思えるようになっている……だけでも大きいハズだ。
この場合、俺の様な女性慣れしていない普通のオタク男性の答えは「とにかく戸惑う」だ。
きょどる。マッサージすればいいだけなんだろうけど。なのに。なんだこれ。どうすればいいんだ。
そもそも俺は昔から外国の女性に憧れが強かった。
日本人の女優やアイドルも良い。当然悪くは無い。が。幼少の頃に見たあの情景……家庭教師、エロイおばさん、従兄弟のお姉さん……父親のDVDコレクション、フランス浪漫映画集の中から、エロそうなタイトルを見つけては内諸で見ていたインパクトは、大人になった今でも脳味噌に焼き付いている。
ちょっと離れて眺めて見る。
うつ伏せに横たわる肢体……綺麗だ……思わず動きを止めて見とれてしまう。室内着、身体の線がそれほど見える服ではないが~プロポーションの良さが良く判る。
小さい頭。長い手足。高い腰の位置、きゅっと引き締まったお尻。冒険者、身体を鍛えているだけあって、筋肉はバッチリ付いている。なのに、足首はこんなに細いっていうのはどういうことだ!
あえて欠点を上げるとすれば、出会った時にも感じた、首の太さと肩幅の広さくらいだろうか? それでも常識の範囲内だ。光輝くプロポーションなのは間違いない。
もし向こうの世界へ逆転移したら、即モデル、即デビュー、演技ができれば即世界女優? まあ、まあ、外見的な仕事で即大成功する。確実に。
そんな女性と二人っきり、密室。しかも酒も入ってる……なんて考え始めたら、鼓動がトンデモナイビートで鳴り始めた。
落ち着け、落ち着け自分。CMで見たな、このセリフ。自分に使う日が来るとは思わなかった。
とりあえず、薄手の室内着のズボンの上からふくらはぎに手を当て、力を入れる。とんでもなく柔らかい……。
が、布越しだからイマイチハッキリしないが、弾力がスゴイ。筋肉はしっかりと付いている。その肉が異様に軟らかいのだ。
膝下から、ふくらはぎ、そして足裏と力を入れていく。髪が若干濡れているので、多分、俺と同じで風呂に入った後なんだろう。まあ筋肉は緩んでいる方がほぐしやすい。
ふくらはぎから足先以外は……うーん。腕と掌くらいか。肩も大丈夫かな。失礼が無いように、エロくならないように注意しながらもんでいけばいいか。
とりあえず、そういう理由から、腰、太ももに触れないので、リンパの流れを良くするマッサージも中途半端になってしまう。まあ、全体的にあまり強くしなければ、揉み返しも起こらないだろう。
足の裏だけでも多くのツボが存在する。丁寧に、ゆっくりともみほぐしていけば、確実に足が軽くなる。特にイリス様は日常的に冒険者用の革のブーツを履いているため、常に負担は掛かっているハズだ。
ふくらはぎの上から下へ。さらにそのまま前の骨と肉の間。足首、足裏。丁寧に、凝っているっぽいところを中心に刺激する。
しかし……長い足だ……筋肉質ではあるが、太ももはそこまで太くはない。ふくらはぎの筋肉はしっかりしているのは当然だが、柔軟性に富んでいる。
足首から下、足の裏が唯一素肌を晒している部分ではあるのだが、その部分だけですら美しい。だからではないが、力も入る。入念に。ツボの場所周辺から揉み初めて、ちょっとずつ、ちょっとずつ、核心に迫っていく。
足裏を丁寧に揉んでいくと、じんわりと汗を感じた。うん、代謝が良くなって熱を発し始めているのだろう。イリス様はうつ伏せになって、顔をソファの奥側に向けているので表情は見えないが、まあ、文句は無いはずだ。でなければ拒絶の言葉かとっくにやめさせられているだろう。
さらに、足の指の間を揉んでいく。あまり強く無く、かといって弱くも無く、根元から指と指の間を広げたり閉じたりしながらほぐしていく。
ちなみに、手の指と同じ様に、足の指周辺にも性的に感じる部分、性感帯は多い。以前(スゴく前)、最中に口に含んでしゃぶった所、それまで反応が鈍かった彼女が異様に反応したこともあった。
……ってそんなことを思い出してしまうと、主に下半身が邪な方向へ思考が向いてしまうので意識をずらすことにする。
静まれ! 静まれ自分。これは仕事だ。仕事なのだ。
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……正直、あまり自慢できるような人生ではなかった。
31歳、独身。身長は170センチ、体重76キロ。中肉中背。最近年齢のせいかちょい腹が出てきた。小デブってヤツだ。薄毛。ルックスは並以下。
学生時代の最高偏差値は58程度。東京郊外のそこそこの大学から中堅企業に就職。営業から企画宣伝、派遣先でファミレス店長までやらされ便利に使われたにも関わらず、不景気から6年でリストラ。
いま一番潰しの効かないのが俺の様な中年に入りかけで、平凡な人生を送ってきた者なのだろう。以前の給料×0.8倍くらいの仕事を探してはいるのだが、一向に見つかる気配が無い。
そりゃ踏ん切りが付かない。そうこうしているうちに失業保険も切れ、貯金も使い果たし、仕方なく引越屋などの派遣系バイトで毎日をしのいでいた。
パチンコや競馬などのギャンブルに賭ける勇気は元々無いが、キャバクラや風俗に行く金も無く、徐々に心に余裕が無くなって行くのが判る。
休日は学生の頃から積んであったゲームをプレイし、たま~にサブスク系配信のエロ動画を見る……くらいが唯一の楽しみと言ってもいい。
当たり前だがそんな状態で彼女が出来るハズもない。人付き合いも悪い。
田舎の友だちのほとんどは結婚し子供が出来、年賀ハガキで近況報告をしてくる。よく考えなくても東京の風は俺には常に冷たかった。
そんな毎日に疲れボーッとしてた。いつものコンビニへのルートだ。何も考えなくてもたどり着けるくらいにはこの街での1人暮らしは長い。学生時代からだしな。夜11時とはいえ、都会なだけあって街灯も多く、うっかり居場所を見失うことなどない。
梅雨も終わり、これから本格的に暑くなりそうだ。Tシャツに短パン、サンダル。ポケットには千円札に小銭、鍵。カードどころか、スマホすら持ってきていない。いつも通り、適当な弁当でも買って帰ろう。
ふっと気がついた時には辺りが真っ暗闇になっていた。
(あれ? 街灯が切れてるのかな? 停電か? 地震でもないのに)
見渡す限りの闇。よく考えなくてもこんな状況は東京に出てきて初めてのことだった。次第に闇に目が慣れてくる……と、自分がアスファルトで無く土の道に立っていることに気がついた。
すんすん……。
何よりも空気が……違う。さっきまでのじっとり感は無く、乾燥している。あと緑の匂いが強い。気温もTシャツ一枚では若干肌寒い気がする。
「どこだ、ここ?」
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