第26話 御伽の国の外、娯楽至上主義
『バリバリの髪に、ボロボロなドレス。
アレもコレも、そろそろ新調する時が来たのかな?』
黄金に輝く城は、やがてくすみ。
部屋中に溢れかえっていた財宝は、次第に消え。
暖かな日差しは陰りとなって、玉色の泉に水はなく。
鳥も、人も、季節までもなくなる、夢の跡。
これが
それで
舞台裏に忘れ去られた誰かの絵日記が、物語の『真実』をもたらしてくれるでしょう。
だからと言って、泣かないで。
勝つか喰われるか、それが
可愛いく、無邪気な私たちのアリス。
お茶会の合間に、カードゲームでもいかが?
□
———『祝福』を受けるためには、それ相応の『対価』が必要だ。
運動すると体力や気力が減り、魔法を使う度、体内のマナが消費されていく様に。対価と言っても、さしずめ、『通行料』の様なものである。
人間が、
だから、
だから、歳若くして死んだ残り寿命で、私はこの劇の『切符』を買った。
それだけ、あの頃の私は夢を見たかったみたい。
美しい世界の、最も美しい夢を。
自分にだけ訪れる幸福、そんなモノを信じたかったみたい。
……都合よく、そんなモノが
『恩恵』を受けるためには、それ相応の『代償』が必要なのだ。
この世界で魔法や魔術の対価となるのが【マナ】だとすれば、血で血を洗う努力の末に武芸を極めた者だけが会得できるのが【オーラ】である。
そして、それらとは全く異なる別の『ナニカ』を、神話時代の終焉と共に、何時からなのかは不明ではあるものの。人間達は、それを総じて神の恩寵———【権能】と呼んだ。
<この度における異世界系ギフト情報>
総名称:権能 けんのう
主な成分:神の寵愛
(発症期:先天的・後天的なモノに分れ、人よりけり)
功能・効能:役に立つときもあれば、役に立たない場合もある、人それぞれ。
用法・容量:状況に応じていい感じに投与することを推奨。
※注意※
体力・力量不足の段階で
追記:因みにコレを
あなた
~~~終~~~
ここまで来れば『祝』の字どころか、ただの『呪』じゃねえーの?
見た目は子供でも、
正直に言ってふざけんな、他人事だと思いやがって(怒)リターンズpart2? part3? である。
こちとら苦労して苦労してやっとこさの思いで、前世の人生と生活を人並みに築き上げたんだぞ。
それをまた全部捨ててまで、子供からやり直せってか?
神様もいっぺん、死んでみる?
この世界にも藁って生えてたっけ??
原作途中乱入、特殊能力皆無、味方無しの様なテンプレ状態でのReスタートよりかは恩恵にあやかっているが、コレはない。
引き継がれし陰キャと引き籠り症候群を患っている段階で詰みなのに、これ以上どうしろと?
え?
神様からして、前世の私ってそんな大罪人だった??
私は悲しい。
トラ転ショックで消え去った在りし日の預金通帳と胸部に、今日も鏡の前で絶望に浸る。
上を見ても下を見てもピチピチなお子ちゃま体型、対戦ありがとうございました。
前世基準からしてとんでもねぇ美少女なのは当たり前だが、未成年で酒に逃げれないじゃん。
見るからに、まだまだ親の庇護下にいないと駄目よいかんよで。前の世界観ならば、平日の渋谷辺りで一人歩きしてるとお巡りさんがでしゃばって来る年頃じゃん……。
いくら能力と潜在経験値があっても見た目でクソ舐められるやーつ。
最悪。
やっぱり、どう前向きに考えようにも詰んでいるし。我、如何せん。
家の外は、危険がいっぱい。
言葉が通じるだけマシではあるが、海外旅行とは訳が違う。
あれよあれよと連れて来られたブティックの一室、外から店長の鼻歌と店員さんたちのきゃらきゃらとした黄色い悲鳴が聞こえて来る、今現在。
地味に今生初となる外での買い物に眼を回し、胃の辺りがもぞもぞ、おぞおぞして来るまでがワンセット。
圧倒的賢者タイムにして、怒涛の現実逃避がアトランティアを襲う。
一体どこの誰だ、ファッションモンスターの前で服が欲しいとか言い出したヤツは。
失言したと気づいた時にはもう馬車の中に押し込まれ、ドナドナ。
そのまま目的地と思しき建物前につけば、文字通りの着せ替え人形となってしまった己の運のなさをこれ程恨んだことはない。
贅沢な話だが、自発的に服を買うのと、強制的に買わされるのとでは、やはり心持ちも胃持ちも違うのだ。
「私共の人生において最高の仕上がりですわッ! アトランティアお嬢様ッ!!」
「本当にお綺麗です、お嬢様」
我、我を恨む。
これぞ究極の無駄遣い。
ただでさえ体力弱だのに、こんなに心身ともに疲れ千切れんばかりの買い物は、前世含め生まれて初めてだった。
今ならプレイヤーの思い一つ、気紛れ一つで更衣室に強制連行される各ゲームのキャラ達の気持ちが、この世の誰より理解できる気がする……。
「ちょっと気恥ずかしのですが……これって面接どころか、普段の外出用のドレスですらないですよね?」
「おほほ、折角ですので舞踏会用ですよ、お嬢様」
「舞踏会…道理で……」
舞踏会どころか、既にこの場が武闘会という名の事後だがな。
どのF系小説にも絶対出て来る、みんな大好きブティック。
異世界、ヤバ。
もし私がヒロイン枠だったら絶対何かしらのイベントが勃発していただろうな、と思いながら。こんなフラグ塗れな場所、一刻も早く退散したいざます。とも、アトランティアは思った。
カランコロンの音と共に「今から貸し切りで、金なら出す」とキメれる人類なんて、ロマンス小説か御曹司系韓ドラの中だけの話だと認知していたのに、まさかの展開である。
「……もういっそのこと店ごと買ってしまおうかしら、可愛い愛弟子ができた記念に」
「絶対にやめてください、死んでしまいます」
「顔がイイって得よね。即席でも、何着ても似合うのだから」
「さてはレイチェルさん、私の話聞いてませんね?」
後その台詞だけは、そのままブーメランでお返しいたします。
世の中女は金で、男は顔よ。
レイチェルちゃん、分かってんじゃーん。
……仕方ない、もう少し付き合ってやるか。疲れたし、これ以上フラグの墓場でタップダンスしたくないけれど。
ん?
いや、でも、逆に考えたら今まで事ある毎ブティックと化してた家の方が可笑しいのでは?
度を越したお金持ちって、ホントヤバ。
「仕方ないわね…じゃあ取り敢えず、今日は試着したのと。ここからここまで全部、後で屋敷まで送って頂戴」
「もちろんハイ! 喜んでェッ!!」
高級ブティックから居酒屋に転落した世界は、今日も安泰。
途端、ベルばら作画のミスコン女優顔になったお姉さん達に対し、アトランティアお嬢たまがチベスナになったのは言うまでもない。
始まりの春だけに、風向きが変わろうとしている。
これまでの人生を崩すのは容易い、何より積み上げるより手間がないから。
行きは好い良い、帰りは無い。
消え去った
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