第17話 葬送の如く旅立ちに、


『幼少期に出来た傷は、大人になった自分で治すしかない。

 それが自然治癒できないモノなら尚更で』


子供時代で手に入らなかった愛の代わりに、

大人となって自分だけに属する名誉が、金が、未来が欲しくなった。

自分だけの人生、自分だけの『価値』。

そして良くも悪くも芽生えた、そんな時分で。最後の期待ひかりを引き裂かれ、ようやく目を覚ます。


だから、努力した。

だから、心を殺した。

だから、×××を×し。

だから、嘗ての私は『性』と共に『かぞく』までも捨てた。


それこそ穴だらけの心を抱きしめ、法的に成人すらしてない身の上で。

知り合いの名義まで借り、自分ひとりだけのいえを作って。

すべて諦めた頭に、とうに『正気』なんてモノはなく。

せかいを捨て、本当のひとりになって、努力して、努力して、狂ったこわれたように努力を重ね。

あの世界いえの何もかもを払拭し、見返せるほどの……努力を。




……けれど、それでもやはり、世の中とは皮肉なモノだった。

「ああ、変われたかな」と自分を褒めようとした時、後ろをふと振り返って、ようやく気づく。

前も後ろも誰もいなくなった世界で、自分の傍に誰かがいるはずもないことに。


そして、理解する。

二択しかない優しさの見分けすらつかなくなった世界で、『本当に理解した』。

寝ても覚めても足の引っ張り合いで、

起きても眠っても戦場と成り果てた世界くらやみにあるのは、何処を見渡さがしても汚れた大人たちの期待だけなのだ、と。


死ねないから、がむしゃらに迷い生き。

涙が朽ちるまで頑張って、生きただけなのに。

名誉も、金も、未来も手に入れた『大人』になろうと、結局は、迷子の子供のまま。


記憶に残るかつての私はいつも、独りぼっちで……。





———本当の戦場でなくも『敗北する』とは、『死ぬ』のと同義だ。

そればかりはどの業界、どんな世界に行けど変わらずで。

勝てば官軍、負ければ賊軍。

大義名分はクソ、騎士道うんぬんすらも全無視。


あれからというモノの……この三日? 四日間。

勝者はただただ上機嫌に鼻歌を歌い、スケジュールを調整し、夜になれば勝者同士で乾杯しては、時折負け犬共を突くことを繰り返す。

その一方キャイン達は……まぁ、詰まるところでのつまり、そう言うことだ。


ハハッ!(甲高い声)


すすり泣く声に混じってホント、先ほどから誰だろう。

こちらから見れば逆に異世界となる場所での、二重異世界ランド、某ネズミ代表みたいな声出しているヤツ。

どうせ世は地獄、勝っても負けても人生というモノなのだから……。オメェら全員、せめてもうちょっと、先っちょだけでももう少し心穏やかに、気を確かに持って。

お願いだから。


国・大陸以前、時空・時間・次元すらも違えど、本当の葬式死人役を実体験したことのある人間!! からの、マジ後生のお願いだから。

後生での今生だけに……、ハハッ!



「アトランティア、虫が来るまでまだ数日あるし。出発は、明日に延期して……」

「ですが、もう準備してしまいましたよ? 私も、みんなも、」

「くっ……!」


流石ファンタスティック人間もビーストも、DよりかのP世界如く生息している世界。

アポをとった上で襲来する虫さんとか、寧ろ今生の父以上に常識があるのではなかろうか?

そしてその上での駆除にご指名された、お兄様。

この度の留守番組筆頭として、とても悔しいのか。それともシスコン代表として、死ぬほど悲しいのか。

一体どっち立場での、どういう感情なの?

そのご尊顔……、


と、そんなこんなを思いつつ……。

前世の別れより今生の別れしている兄に引き留められている所で、アトランティアが一度周囲を見渡せば、周囲は周囲の至る場所で絶賛問題勃発中だったでござる……。

年は1625、季節は春。

此方が見るからなピクニックなら、彼方は見ずとも分かるほど葬送真っ盛りな空気を醸し出している、この瞬間。


「ぐすっ、お嬢様、本当に行ってしまわれるのですね……」

「ああ、これからの日々。もしお嬢様に会いたくなったら、私は、私たちはどうすれば、」

「今年の花見もお嬢様と是非、ご一緒したかったのにッ」

「ふぇ~~~ん」

「グッバイ…俺たちの春。もはや、ここまでか……」


「ハハッ、負け犬たちがなんか言ってるぅ~~~」

「ありがとう世界、ありがとう母さん、貴女の産んだ息子は今日も幸せです……」

「これだから世界は美しい」


「ムキ―ッ」

「猿かよ、お嬢様たちが去るだけに」

「ブッッッッッ、殺すぞ」


と、等と。

そんな本日の現場からは以上です。


例のお父様もひどければ、実の兄を含めここ数日、特に本日の夜明けにかけての今が一番ひどい。

留守番組VS勝ち鬨組で互いをDisり合いながらも、まぁ、器用な事に、この度は対戦ありがとうございました!!

……と若干称え合う雰囲気も混じっているという、なんとも表現しずらい空気だ。

そしてそんな中でも特に、先ほどからのお兄様の表情筋が一番絶妙で、


オラは全身全霊で引き止めたいのにッ! 出来ないッ!!

おどれ、クソ虫のバッキャ野郎……


みたいな温度差アップダウン運動をしばしば繰り返して、見ている分には大変面白い。

が、


「お兄様、そろそろ……」

「分かってる、分かっては、いるのだが……くっ」

「もう、そんなくっころ助みたいなお顔をされても、ダメなものはメ! ですよ?」

「グゥッ」


それでも、その唸り声を皮切りにとうとう殺して留めんばかりの勢いで、ぎゅうううううと抱き締められる。……というか胸ダイブでリアル窒息死体になりそうなのが、今日この頃だ。

「ここまで来れば旅立ちの日来たれりというより、又もや年若くして、早くも人生二度目の葬送をする羽目になりそう、お兄様ギブ」とアトランティアは死んだ。

主に目と息の音が。


これ以上考えるのはヤメよう……。

同じ空の下とは言え、暫く会えない妹成分補填中です。

しばらくお持ちください……、


んで、数分後。


「……メレス」

「ハッ、ここに」

「僕の目の届かぬ所で、妹の髪一本傷つくことのないように」

「…ハッ! この身に変えても!!」

「お爺様たちもいることだし、万が一にもないとは思うが……もし向こうで身の程を弁えないゴミがいれば、その剣に血を吸うことを許そう」


と、お兄様は言うが。オメェの妹は既に死んでいるし、犯人はオメェ。

葬送の如く旅立ちの先に、魂が既に実家の上空までさよならバイバイしている件について、海より深く反省して、兄よ。

ただでさえ異世界レベル1で飛び立っている妹の不安を、その台詞で殊更煽っていることに何故気づかぬ?


「これだから生まれながらの選ばれし陽キャは嫌いなんだ」とアトランティアは思った。

前世持ち十歳児、魂からの叫びだ、ドン!!



この度における【引き籠り症候群/陰キャ病】のカルテ。

・神が人に与えし不条理で、他人からすれば滑稽極まりない不治の病。

・社会不適合な陰キャが初めての世界そとに出たとき、(主に本人の)何もかもが狂い、(主に本人からした)何もかもが奇怪でマジ怪奇に見える、時空の壁を越えても治らない病気。

・世の全てに怯え、始めて会う生命にビビり散かし、中の人ですらどもり出す、そんな奇病。

・そして生まれながらコレを患いし患者たちは、自らの病に気づいても、どうにもできない。



……というか、どうにかする前から基本的に諦め、自己防衛に走ってしまう。のが、世の陰キャという生命体だ。

なので、


「コートが重くて歩きにくいだろう。このままお兄様が、お母様の所まで運んでやろうな」


これからの事を私のお墓という名の空から思い馳せる、異世界版千の風になって。

実の兄という超弩級イケメンにナチュナルスマート姫抱きされようと、最早どうでもいい。


「……ありがとうございます、ん」


その遺言を最後に。

お前はもう死んでいる状のアトランティアは更に死んだ。


最弱のメンタルなのに、今日も異世界イケメン達が二度討ちしてきます。

ハハッ、


(ハァ、しんど……)

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