ep.2 ポジという免罪符、根負けしたが運の尽き


『つまり譲れない自論、お互いココで果てるおわるつもりはないということだ。

 それはもう、初めから』


白と水色のワンピース、避けて通れぬミチならば、何れ青い花キセキに集まるであろう蜜蜂たちを牽制したい一心。

それだけ、生まれつき赫々たる光を放つオヤの元で生を授かった彼女は浮世離れをしていて、俗世間を気にも留めず。

情熱的な想いも、大量の贈り物も、妖精の前では無に等しい。



「ん、すき、大好き……愛してる、この世の誰より何よりも」

「……ッ」


美しくあれ。

気高くあれ。

賢く、時には狡猾であれ。

生れながらの女優、「好い女」とはそういうものだ。

そうでなければ一流のブランド品ではないし、「商品」とすら呼べないだろう。


「婚約者になれて、ほんと嬉しい」


自己暗示のような「大丈夫」を自分に言い聞かせ、ここまで来た。

だから、わかっている。

わかっているわ、私にはできる。

だって今生の私は、アストライヤの名を持っているのだから…。


「好奇心に負けて、森から出てきちゃった僕の妖精フィアンセ。こんなにも可愛く綺麗な君を男は勿論、女にも、誰にも見せたくない。だから、ね? 式前、今夜…いや、今から……」


と。

そんな赤ちゃん時代からこれまでが一時の走馬灯として脳裏を走り去り、こんな状態の私を抱きかかえた全ての元凶。

今の現実世界では熱い吐息で耳たぶをねぶられ、強請りを孕んだ言葉が、要するに「許可さえこぎつけば、後はこの勢いビッグウェーブのまま、ヤルことをヤルだけ」と脳まで犯そうとして来るのを。オフィーリアが、内心ビビり散かしていると。

……ちゅっ、というリップ音に伴って、彼女の白い首筋に紅い血華ジュエリーが咲いた。


「俺以外考えないで、少なくとも明後日の式、馬車が止まるその時まで全身で俺だけを感じて———」


お互い、これでもだいぶ長い付き合いになるけれど、特にここ最近、分かったことが一つ。

この男の可愛い子ぶった一人称ぼくが変わる瞬間が、自分にとっての未知のハジマリ。某ギルマスとは違った意味で、コイツはコイツでということを念頭に。


「ふふ、二人っきり嬉しいねぇ……どうせなら、着くまで———気持ちイイ事、しようよ」

「ひ……っ」


領域展開、失敗。


ただでさえ一度乗り込めば、目的地まで基本逃げ場のない密閉空間。男にしては白い肌に反し逞しい腕と、背中に感じる分厚い胸板や今は隠されている割れた腹筋。

素人目からでも分かるほど無駄のない躯体、見惚れる筋肉、セクシーな腰回り。


「…あ…」


……何処も彼処も、上から下まで海外仕様。

それらを思わず想像してしまって……ゲフン。とにかく、そんな中、まさに今、下半身当てられた熱を前に、とくとく。オフィーリアの胸は二重三重の意味で強制的に早くされ、何時しかのつり橋みたく高鳴った。

男なら腰から臀部で、女は脚。


筋肉。


そして、お胸と言った部位おところ

それは人類きってのエロスであり、浪漫で。前世から、このこだわりだけは。


(絶ッ対!)


それこそ、例えもう一度死んで異世界転生をキメようと、絶対死守。誰にも譲れないし、譲歩も妥協もできない、シたくもない……。


「んふふ、お肌すべすべ、一生触っていたい。……けど、折角の今日は全部俺に任せて。ちっとも怖くないから、いつものお礼、させて? 死ぬとけるほど優しく…、気持ちよくシてあげる」


が、冗談を言ってられるのもそこまで。

どこか危うく、恍惚でありながら、拒絶されるのが怖いのか……少し心配そうに囁く、ちょっと眉を寄せたかのような男の声が耳から入り、腹まで響く。


こうして、胸が反射的にきゅぅぅんと締め付けられた瞬間、首筋の次。後ろ髪に ちゅ♡ と小さな、触れるだけの口づけを施されつけられ……ている、と。


「それじゃあ…」


———スカート、めくるね?


又もや耳元で囁かれる、狙ったような・・・・・・イイ声に、心臓が ぎゅん!! と掴まれたかのような錯覚に陥った。


……然し、同時に、そんな言葉通り捲れる布擦れ音に、男の膝上で逃避行から戻ってきたオフィーリアが飛びあがる———寸前。

喜びを滲ませ、熱に浮かされた相手レオの手の方が数秒早く、俗に言う女の子の「イイ所」を柔らかなめでる仕草で撫で上げた。


それは、もう、優しく。すり…すりっ!

労わり、くすぐるように、


「えっ…エッ!?」


かりっ! 

かりかり、くちゅ……と。


「ひゃあ……っ、んッ!!?!」

「~~~~~~~ッ、あーなぁにその声」


すごく、そそる。


言わば、いつもの逆となる様な事態。

攻める側が何故か、攻められる側よりダメージを負ってしまう例の現象が狭い馬車の中で勃発。流石異世界、略してさすイセ。


片腕で腹回りを固定され、レオに後ろから体を抱きおさえ込まれていたオフィーリアが、首だけ辛うじて振り向けば。


(ひえっ)


である。

自分の瞳とかち合った視界、こちらを覗き込みながら目を緩ませる美形が、周囲の空気が桃色に見えるくらい濃密で、壮絶な男、若しくはSubの甘ったるい色気フェロモンを放っていて。

おっぱじめる( )前から、既に「事後」かのようでした。


———とだけ、まずは言っておこう。


「その声もっと、聞かせて…可愛い…好き……」

「ん、なぁっな、」


後はそして、いくら普段が「攻めるDomる」側であろうと、なかろうと。例え次元時空の垣根を凌駕しようと。

結局のところ…オタクと言う人種は総じて顔、ビジュアル、作画がイイ人間にめっぽう弱いのは世の摂理なのも、後を押して仕舞い……。


「可愛すぎて…心臓抉り取られそう……」

「っ! っ、な、な…っ、!?」


しかも、更なる追い打ちかのように重なる諸々、この度新たに加えられた相手側のステータス。


『友人(?)→婚約者』


のもあって。

……つまり、思うに。今の、これからこの男と「何処で・ナニを・お互いどうシようと」致せど親公認。

合法、公式という事で……??


「可愛い……。可愛い可愛い可愛い、あーかあいい、可愛い俺のDom、俺の、んむっ」

「んっ!」


私は無罪って、コト!?


待って。

心の準備タイムは??

というか、今日のパンツ!! 下着の上下!!


「…っと、危ない。ほうら、危ないから暴れないで、大人しくして…? 汚れたら気持ち悪いから、今履いてる下の肌着、脱がす……ね」

「みみみみ、未知のゾーン! やだっ、や、やぁ……っ、」


やはり彼ピ、または旦那との初めては、上下揃って、いい感じのレース仕様であれ。


前世よりパンツ事情に一寸煩いオフィーリアは、今履いてるパンツの柄が思い出せなくて、逃げようとした。

———が。

然し、いくら王侯貴族御用達の箱であれど狭いし、揺れるし、世は常に無情なもんで、秒で引き戻され。猛々しい淫欲の色が宿った瞳を見ちまい、最早プロの所業……。


嘗てないほど浅い息で嫌がるも、優しく無視。件の当事者不在で決まった婚約ごとく、今回も気付けば最後の守りおぱんつが心と共に一瞬にして失われた件について———。


「 逃 が さ な い ……ふーん? 逃げるんだ…未だナニもシてないのに、どうして俺から逃げようとするの? ねぇ、何で……??」

「!! !」


ついさっきまで健在(?)だった声のハイライトどうした、オイ。

作中の病みとリアルの病みでは、訳も危険度も違う、元大人でも普通に怖ぇよ、オイ…。


おいおいおいおいおい。


「え、あ、う……ううぅ、わたし、初めて・・・なのにぃ……」

「…………………………………え? ここ触られるの、初めて??」


失礼だな、おい!

ハジメテだから何だって言うんだ、ビビり舐めんな。


処女オトメで悪いか、と怒り出しそうになるのをグッと堪える。

何度も言うが、こちとら前世より知識ばかり豊潤な彼氏いない=年齢、生粋の生娘なんだぞ!


……でも、そんなことを態々口にするほど、オフィーリアの羞恥心は未だ枯れ果ててないので、せめてものリアルヤンデレへの微々たる抗議にきゅっと口を窄め。

目を吊り上げ、斜め後ろを。


「嬉しい」


ジロッと睨み付ける。

———る、と。なぜか物凄く嬉しそうな顔をされた挙句、ヤンデレのヤンが消えており、デレだけがそこに残っていた様子。

そして実際、言葉にもされたから、萎れる(怒)。


(これだから声も、顔も、体も無駄な程イイ変態は……)


自分という存在を棚に上げ、彼女は思った。

……このドスケベお兄さん、何時も恥じらいなく、あんなあんあん鳴いてるくせに。


それでも、どうして選ばれし遺伝子。こういう時に限って、ふっと柔らかく目を細めて微笑う超絶イケメンを背に腹に、胸がいっぱい。


巷で「鉄壁のガードを誇る公女様」と呼ばれる者であろうと。

これでも私、次元を超えた面食いなので……。


「は、ん……」


ただ、いくらそんな私たちであろうと、現実「今の私たちが向かっているのはあくまで学園であり、式は式でも入学式であって、結婚式、ハネムーンの類じゃないはずだよな……??」と、首を傾げざる負えない、先ほどから。


そんで「なんかこの馬車に乗るや否や、後ろの美形がナニかしでかす度、可笑しな……というか、イヤラシイ方向へ流れて行ってないか……??」とも。


それだけ、まぁ、ほんとこの人ったら、二人きりになるとその都度隙あらばくっ付いてくるし、エロいことシようとするし、で。

———カリッ♡


「んっ! まっ、」


くにゅ、くにゅ♡

じわぁ……♡♡


「…濡れてる」


そう思ってる傍から、ほら、もうこの様なもんだから。


「…濡れてる。じゃない……もう! 待って、って言ったのに変態! 生理現象!! 私だって……いや、だとすると、今までの私を何だと…」


お思いで?

返事によってはただじゃアおかない……。


そうオフィーリアが震えていると、


「待って、ってことは俺にされて嫌じゃないんだよね? 初めてってだけで、嬉し過ぎて、今にも……なのに。ナニそれ、可愛すぎ…———じゃぁ、もっと『お世話』していい……??」


「ダメだ、会話が嘗てないほど噛み合わない……。何時もと言えば、何時もだけど、素面シラフの時でもこの変態ポジティブが過ぎ、あ、んんっ」


後に鎮座する、向こうの発言尻あたりで、何だか処女オトメには早い、とんでもない"駄目にされるSub"ワードが聞こえた気がする……。



「愛しいでしかない、生まれたての子猫みたいな威嚇ありがとう」


———凡そ、その数分後。


「ほら、怖くないよ~。いくら君でもそんな前のめりの体勢だと疲れるしんどいでしょ? 俺たちはもう婚約してる仲、近い将来には夫婦になるんだから、遠慮しないで」

「いや、遠慮とか、そういう話じゃ、」

「俺にもたれて、マッサージとでも思って体の力抜いて、」


その方が"良くなる"から。

……と。


「………………」


もうコロシテ…コロ……一思いに、いっそのこと。

なんでこんなジワジワ嬲るような真似をするの?

何で私が。


「くっ、」


喉を鳴らし、オフィーリアは奥歯を噛み締めた。

誠に遺憾、よもやここまで……。と言わんばかりの気持ちだった。


「そう、いい子いい子。ははっ、太ももまでガッチガチ……本当に初めてなんだ」


そして、何より。

元来ならば貞操を守るのはいい事なはずなのになんだろう、この圧倒的敗北感、屈辱を感じる。


いくら親公認、相手が満更でもなさそう、これから私のSubになるからと言って、既にこの態度のデカさは如何なものか。

この先が思いやられる、危機感。


……然し、相手が相手なため。

ここまで来られると逆に、今日この頃。


傍から見れば、密室完全犯罪。

こんな美少女( )を連れ込んだ上、捕まえて、膝に乗せて、でも余裕綽々。「女なんて5億回以上抱いてますが? なにか問題でも??」みたいな顔しやがって…。


(屈辱である)


それも、


「何時もオフィーリアが俺のイイとこ、おちんちんを『よしよし』してくれるように、初めてだし……だから、君の大事なここ、一生忘れられなくなるくらい丁寧に解して。気持ちくさせる権利を、どうか俺に」


という、えっちちな『おねだり』まで、一体どこで覚えてきたのやら。


雄として主導権を握ろうとする、聞いているだけで思わず耳が孕みそうになる男の声に、腹が疼く。

改めて見ずも、拝見せずも、先ほどからの声からして後ろで嗤っているであろう

その目が潰れそうなほどのご尊顔を思い浮かべ……正直。


(……怖いけれど。知っているも、さられたことないので、実際どんな感じなのか物凄く興味ある)


欲望半分、好奇心半分。

物心ついた頃から取り繕い、普段いくら至って(※あくまでこの世界貞操概念基準で)鉄壁を誇る元大和撫子でも、婚約者ポジという免罪符を手にしてしまえば。


あくまで攻め側であれど、既にイクとこまでイってるイケメンお兄さん相手に、流石のオフィーリアであろうと無力の、魔が差し。……これぞ正しく、目前まできた据え膳。


「ん?」


なもん。

だから……と。


…………………

……………

………


「…先っちょ、」


数秒熟慮したのち、せめぎ合う天使と悪魔の葛藤を越え、夏の自ら飛んで火に入る蚊以上に、か細い声だった。

———とだけ、言っておく。


然し本当に、それだけ。


「君の初めて…本当に俺にくれるの……??」

「優しく…歳が歳、デリケートな部分だから、優しく」


シて、くれるなら……まぁ。

の先っちょくらい……の覚悟、相も変わらず嚙み合っていないと感じるやり取りではあれど、妹は愛嬌、女は度胸だけにお胸。


———つまり。


とうとう、こうして若干のすれ違いを起こしながらも。

オフィーリアは一時的な好奇心に負け、相手のビジュ声の良さシチュボにも負け、長きに渡るPlayの対価とも呼べる流れの中、執念かのような求愛の圧BIG LOVEにこの日を以て根負けしました!

次第……、


「……ですが。軽率なことは致せませんし、出来ないけれど……貴方は、私が『受け入れたら』、これからの学園生活婚活イベ、少しは安心・・できる……?」


常日頃より質実や剛健を好み、文武両道。

選り好みが激しく、ほとんどのモノに対し無関心だが、一度懐に入れたものにはとことん甘い、それ以外には非情。


彼女オフィーリアも、そう。

こればかりどうしようもない、アストライヤの一族生まれでは、割りとよく現れるであった。

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