生贄の聖女は生まれ変わっても魔王様に愛を捧ぐ【全年齢版】
架月はるか
第1話 前世の記憶
「俺の幸せは、ティアが傍で笑ってくれる事、それだけだったのに……」
愛する人を奪った人間を、絶対に許さない────。
意識が覚醒して一番最初に脳裏を過ぎったのは、愛しい人が悲しみと憎しみに囚われて堕ちていく姿。
その後、次々と頭の中に、一人の少女の記憶が嵐のように甦ってくる。
平凡な村の平凡な村娘として生まれた事。
ある日突然、聖女として覚醒した事。
聖女として王都に連れて行かれた数日後には、魔王の元へ生贄として捧げられた事。
魔王に許されない恋をしてしまった事。
魔王が聖女である少女に、愛を返してくれた事。
そして、幸せを掴んだ瞬間。
少女は同じ人間によって、理不尽に命を奪われた。
十八年間の短くて濃い人生が、頭の中を吹き荒れる。
命が終わる最期のあの瞬間、愛しい人にきちんと言葉を伝えられなかった。
そのせいで、本当はとても優しかったあの人を、人間が勝手に想像する悪の権化の如き魔王に変えてしまった。
それは、少女の罪。
幸せだった時間の方が長かったはずなのに、嘆きが強すぎて、暗く堕ちた瞳が悲しすぎて、思い出すのはあの悲劇が始まった瞬間ばかり。
「ティア」
愛しい人が、泣きそうな声で少女の名前を呼ぶ声が聞こえる。
(泣かないで……)
愛する人の名前を呼んで言葉を返したいのに、それは言葉という形を成さず、それどころか大きな泣き声によって、邪魔をされるのがもどかしい。
響き渡る聞き覚えのない赤子の泣き声が、自分自身のものだと理解するのに、相当な時間を要した。
戸惑いながら目を開いた先に居たのは、つい先程まで傍に居たはずの、嘆き悲しむ愛しい人ではなく、ただただ娘に無償の愛を与えてくれる優しい母親の笑顔。
それが、かつて聖女として魔王に捧げられた少女が、自分の死を悟ると共に、闇に覆い尽くされた世界の中で再び新たなる生を受けた瞬間であり、鮮明に記憶に残る優しかった本当の魔王様を、再び取り戻さなければと決意した瞬間でもあった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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