第128話 雨濡れの女
ぬり兵衛は空腹とむさ苦しい男どもが詰め込まれた座敷牢の暑苦しさに耐えながら、なんとか雨濡れの書を読んだ。次は感想文を書かなくてはならない。朦朧とする意識の中で筆を手にとったとき、スロ蔵がいないことに気づいた。
辺りをたしかめると、土が掘られた跡が見つかった。それが外に出られる穴であり、スロ蔵がすでにそこから逃げた後だとぬり兵衛は気づいた。今騒げば混乱が生じて、雨濡れ女にもばれてしまう。ぬり兵衛は夜が更けるのを待った。
みんなが寝静まった頃を見計らって、土をよけていく。壁は案外脆く、なんとか外に出ることができた。裏の森に面していたのでひとまず森に身を隠し、一夜をやりすごそうと考えた。
ふらつく足元に不安はあったが、行くしかない。いくらか歩いたくらいに、わんわん、と犬が吠える声が聞こえた。ぬり兵衞は焦った。いつも雨濡れの女が可愛がっている、コギという名の犬にちがいない! しかも鳴き声はどんどん近づいてくる。
ぬり兵衛は走った。
どれくらい閉じ込められていたかわからないくらい長い間座敷牢にいたので、体が思うように動かない。すぐに息も上がる。
「逃さねぇじゃあ!!」
ついに雨濡れの女が追ってきた。
女は着物の裾を捲りあげ、片手に包丁を持っている。髪を振り乱し、口は歪み、目は般若のように吊り上がっている。
「くっ! ばさま! 助けでけろ!」
ぬり兵衛はばさまからもらっていたお守りの紐をほどき、中から紙を取り出して女に投げつけた。
-- 忖度星三 --
「ぐああああ! どんなに星が集まっても、どうせお気遣いぃぃぃ!!!」
女は悶えたが、それでもまだ追ってくる。
ぬり兵衛は二枚目を投げつけた。
-- 天川賞受賞作品閲覧数伸少 --
「ぐあああああああああ! PVの半分はあたしかもぉ!!!」
女の走る速度は落ちたが、油断はできない。
「これで最後だ!!」
ぬり兵衛は三枚目を投げつけた。
-- F70 --
女は音もなく蒸発した。
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