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「こんちは~」
誰もいない部室に挨拶して入室し、一人椅子に座ってぼんやりと窓の外を見る。
もう、夕闇がそこまで迫っていた。窓の外の景色にはちらほらと外灯の明かりが点り始めている。
守衛さんに差し入れをして、巡回のお目こぼしをしてもらってまで部室に忍び込んだものの、別になにか特別な目的があるわけじゃなかった。ただ、最後にこの景色を見ておきたい、そう思っただけだった。
出席簿をめくってみると、珍しく顧問が立ち寄った跡があった。T先生と、最近部室に顔を出すようになったマメハさんの名前もある。その下にあたしは控えめに名前を書きいれた。
あたしが創作を始めて、もうすぐ一年。
思えばあっという間だった。
右も左も分からないカクヨム学園の中で、思い付きで始めた企画がラッキーヒットを出したお陰で、あたしはこうして今も在籍していられる。
本当に、幸運だったのだ。
その後、こんな愉快な部活動にも誘ってもらえた。お情けとはいえ、掲載した作品がずっと誰にも読まれないという状況からは脱することができた。
でも、実力が付いたわけじゃない。
むしろ、変な見栄が出たせいではじめの頃にあった「捨て身の勢い」みたいなものは無くなってしまったような気がする。
もともと、アイデアに溢れていたわけじゃない。
書き貯めていた分を吐き出してしまったら、あたしには、もうなにも残っていないのだ。
こうして脱け殻になってまで、部活にしがみついているのが関の山。
この前参加した賞企画では掠りもしなかった。もちろん自信があったわけではなかったが、最終選考にも残れないんじゃたかが知れている。
それなりに有名な賞レースだったから、読者は多かった。あたしの作品の中では☆の最高記録も塗り替えた。でも、それだけだ。
実際、他の参加作品を読めば自分に実力が足りていないことは目に見えている。あれらの前に出られると思うほど、あたしは身の程知らずではないのだろう。
読めば分かる、諦め時。
「ここまで、かな」
大きく息を吐き出して、窓の外に目をやる。
空には、星が見え始めていた。
思えば、何度この部室で一人、空を眺めたことだろう。
あたしはここが好きだ。
創作を愛する部員たちが大好きだ。
でも、僕はいつも君のワンオブゼム……
愛してほしくても、君の想いは他所にある
いつも優しい部長でさえも、今はハルキに御執心。
ふふっ
思わず、いつもの自虐的な笑みがこぼれる。
背伸びしたところで良いものが書けるわけじゃない。ビギナーズラックの期間はもう終わっているのだ。あとは実力通りの評価があるだけ。
執着して無様を晒す前に、自分から立ち去るのが正しい振る舞いだろう。
あたしは、鞄から封筒を取り出して机の上においた。
『退部願』
そして、あたしは立ち上がり部室の外に足を向ける。すると、戸口から声をかけられた。
「もう、いいのかい?」
いつの間に来ていたのだろう。
守衛さんが、部室の外で様子を伺っていたようだ。
「はい、遅くまですみません」
あたしは、守衛のおじさんに頭を下げて退出しようとした。
だが、守衛さんは机の上の封筒をじっと見ていた。そして、一つため息を付いたように見えた。
「……おっちゃんな、お嬢ちゃんの物語、結構好きだったんだがなぁ」
そう言って、何処か寂しそうな顔をしていた。
「ありがとうございます。でも、一年って……決めてましたから」
このおっちゃんが、時々部室に来て作品集を読んでいたのは知っていた。だが、それがお世辞であることくらいは、あたしにも分かる。
同情に縋って書き続けるわけには、いかないのだ。ここが、潮時という事なのだろう。
そんなあたしに、おっちゃんは言った。
「お嬢ちゃんが書き始めたのは、去年の10月半ばだったはずだ。まだ1ヶ月残ってるだろう?」
……驚いた。
このおっちゃんはちゃんと、あたしが書き始めた日を覚えていたのだ。
本当に───
本当に、覚えていてくれたんだ。
思わず、想いが溢れそうになる。
でも、もう決めたんだ。
「ありがと…う、ございました……今まで」
そんなあたしに、おっちゃんは察してくれたのだろう。微笑んで……そして言った。
「書きたくなったら、また書けば良いさ。おっちゃん、楽しみに待ってるからよ」
「……はいっ」
あたしは、なけなしの笑顔を返して、静かな部室を後にした。
作者からの返信
青……春……っ!!
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まだ二ヶ月!
そら学生さんたち、すぐ付き合ってはすぐ別れますわ。社会人のペースと何から何まで違うw
ここの活動だけでこれだもんなあ……🤔
******
「あのさぁ、廊下まで声聞こえてんですけど? 喧嘩ですかねぇ。キャットファイトは大好物。どんどんやりたまえ」
「ばか! おバカ! そんなこといってないで書記に——」
「あ、あー、とさ。天川さん?」
「は、はい。……こんなときだけ甘いこといって誤魔化そうとしても、あたしはもう騙されませんから……」
「書くも自由、書かないも自由。やるも自由、やめるも自由。なんならやめてからまた始めるも自由だし、やめたなんて言わずにやめるのも自由だ。で、だ。自由とはいったいなんなんだ?」
「え、なんの話ですか……?」
「自由自由というけれど、人としての尊厳だプライドだいうけれど! 安月給でこき使われて、なんか部室にいるワンコには手を噛まれるし、家に帰っても癒やしてくれる相手なんかもいねーし、出会いなんかないし、なんなんだよ、おまえらッ!」
「こ、顧問……?」
「会計!」
「は、はい! なんですか?」
「君はギャルの格好して、もっと俺をねぎらえ!」
「ハァ⁉︎」
「書記!」
「…………」
「君はもっと自由に生きなさい。コーギーみたいになんか間違えて新興宗教の教祖になりそうな気配とか醸すでもなく、会計のように勘違いしたあげく勝手に落ち込んだり怒ったりするでもなく、もっと自然に! ナチュラルに! よし、わかった、今日は特別にビリー・ジョエルを歌ってあげよう!」
「なにアレ……?」
「わかんない。多分頭沸いてるんだと思う」
「とりあえず帰ろっか」
「帰りましょう」
「ワンワン!」
夕焼けの差し込む教室に、男寡の歌声が朗々と響く。
誰だって甘えたいときや拗ねたいとき、心裏腹なときや思ってもいないことを言うとき、あるいは本音であったり自らを勝手に縛ったことから抜け出せなかったりと自由にならないどころか不自由な世界でもがき、苦しんでいるのだ。
とりあえず彼の歌声は、煉獄で苦しむ亡者のごとき絶叫だったのはいうまでもない。
作者からの返信
若者は生身でぶつかりますからね!
私も、半年くらいはみなさんとわちゃわちゃしてた気がするのですがwww
追記
とりあえず、天川書記は縦縞さまに謝りにいこっか✨✨🐶
さらに追記
会計の勝手に落ち込んだり怒ったり、って、別に良くないですか?
人間だし、そういうことがあっても。
うまくいけば小説になるし。
え?それってまさか顧問が会計をめちゃくちゃ心配してたから気にしてるとか?
いやあ、ちょっとそういうの匂わせやめてほしいですねぇ。
僕NLに厳しいヒトなんでwww
「ちょっと! 書記がいなかったら誰が書くのよ!」
「……え?」
「誰だって字くらい書けるとか言うんじゃないでしょうね」
「何が、言いた……」
「私が公募用のお話書いてる時にやめるとか、何様のつもり? ……ああ、逃げるんだ?」
私の言葉に彼女は驚きを隠さず、目を見開いている。
「ま、別の部活に行って誰かにいじめられたらここに戻ってくればいいわ。あなたにキツいこと言えるのは私だけだから、文句言いに行ってやる」
「別の、ところなんて……」
言い淀む彼女に、私は言い募る。
「書記は誰でもいいわけじゃないって、そんなこともわからないのね。見損なったわ」
「あのさぁ、廊下まで声聞こえてんですけど? 喧嘩ですかねぇ」
顧問の先生が大きな音を立てて扉を開け、室内に入ってきた。そんなに大きな声ではなかったはずだ。相変わらず海千山千の雰囲気を漂わせていて小憎らしい。
ちょっと疲れました。続きお願いしまーす☆
作者からの返信
部長はガチ語りを第60話にブチ込みましたので、あとは顧問の腕の見せ所ですね☆
会計と書記に百合のかほりが……( ´Д`