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「え、どうしたの?」
「なんでだよ」
横で先生はため息をついた。「全部ブロックされちゃってね。だから逢いに来たんだけど……」
「そんな、どうして」二人同時に問う。
「この前の連中と金子さんの関係を、ボクに知られたと思っている。いや、じっさい知ってしまったんだけどね」
「アネゴ、いや金子はあんなヤツらとは違う! 事情があって──」
手でボクを制す。「わかっているよ。彼女に対する気持は何も変わらない」
「ワタシ、流美ちゃんに言います。先生と逢って話さなきゃダメだ、って」
「ありがとう。そうしてもらえると助かるかな」
立ち上がる雪ちゃんを先生は止めた。「少し時間を置こう。冷静さを取り戻してからじゃないと」地面に置かれたカップホルダーを指さした。「せっかく買ってきてくれたおやつ、いただこうよ」
「そうですね。アタマ冷やさないと。みんなが」ボクは置き去りにされたフラッペを取りに行った。
無言のままシャリシャリ三人で食べた。
「あ、しまった!」とつぜん雪ちゃんが声をあげた。「ホイップクリーム食べちゃった」恨みがましくフラッペを見る。「えーん、考えごとしてたからあ」
「なんで?」先生は不思議そうだ。
「ダイエットしてるんですぅ」
「キミはカレシ?」ボクを見る。
「はい、去年の暮れから」
「こんなセツナイことさせてるの?」
「いえ、ボクはオリジナルのふっくらでもぜんぜん……てか、ふっくらの方で好きになったんだけど。雪ちゃん、もうダイエット止めたら」
「え!!」
「カタチなんか虚しいじゃん」美形のケンを意識して言う。
「健康が問題ならともかく、人生の楽しみを減らすことはないよ。それに人の好意も受けられなくなる」先生のダメ押しに、雪ちゃんはフラッペを見つめる。
「そうなんだ。これ、流美ちゃんの好意なんだ」
三つの味で選んである。ちゃんと好みを覚えている。雪ちゃんにストロベリー、ボクにソーダ味、自分にはレモン。ボクも雪ちゃんも、ちゃっかり好みのカップを手にしていた。
「好意をより分けたらいけないね。いただきます」雪ちゃんはクリームごとすくって口に運んだ。「おいし〜」
舞島先生はボクらと連絡先を交換し、礼儀正しくお辞儀をして帰っていった。
ジャケットの背にロゴが拡がる。〈MAISHIMA〉という白文字の先頭に、重なり合うブロックがデザインされていた。
「舞島建設だ」
「ええっ!」雪ちゃんが驚きの声をあげる。「先生って、舞島建設の御曹司なの!」
それは県内有数の建築会社だった。
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