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「流美ちゃん、勉強はかどってる? よかったら、また一緒にしようか」

 雪ちゃんの家で合宿して、二人で勉強した事があるという。

「ワタシ、進学やめようと思う」その言葉を、アネゴは無理矢理のように口から押し出した。

 ボクと雪ちゃんはストローを咥えて固まった。

「どうして? あんなにがんばったのに」雪ちゃんは怖るおそる訊く。 

「なんだか疲れちゃった。アルバイトして、奨学金もらえたとして、それでも仕事に就けるのは四年先だし。お母さんは歳とるし、また病気するかもしれないし、妹だって居るし……」

「小さい頃から看護師さんになりたい、って言ってたじゃない」

「夢を見るのは自由だけど、現実は夢につき合ってくれないよ。このまま突き進んでも、挫折しそうな気がする」

 弱気なアネゴを初めて見た。お母さんの入院がよほどショックだったのだ。

「高校出て働けば、すぐにおカネが入るんだ。源田さんがね、いずれ店を一つ任せる、って言ってくれてる。そうなったら、母に楽してもらえる」

 裏の道……

 儲かるんだなあ、これが──そう言った顔を思い出す。

 源田社長、信用できるのだろうか。でも、何も言えない。他の事ならともかく、おカネの問題はボクらには対処不能だ。

 雪ちゃんも何も言えずに視線を落としていた。

 夏休みの最後は、盛り上がるはずが盛り下がって終わりそうだ。だが、下がり具合はまだ序の口にすぎなかった──

 店を出て、短い影を連れて駅に向かう。と、駅裏へ通じる地下道から男たちが上って来た。イヤな予感。──そういうものに限って的中する。

 長身のメッシュ髪は、まだら狼――ケンだ。ベージュのサファリを着流している。

 タンクトップのマッチョと調子良さそうな小男が先に立つ。明るいうちから酒が入っている。

「よ、流美ちゃん、久しぶり~」小男がアネゴを認めて言った。

「あれ、Hカップちゃん、流美のトモダチなんかぁ?」ケンは雪ちゃんに声をかける。

 Hカップじゃないもん。雪ちゃんが呟く。

 じゃあ何カップかと気になったが、状況はそれどころじゃない。

 女の子たちを先導して進行方向を変えようとしたが、廻り込んだケンに遮られてしまった。

「アサオだっけ。オマエ、美女二人連れて結構なご身分じゃねえか」唇を歪め、不快げにボクを見た。

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