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「表の道もいいだろうさ。胸を張ってお天道様の下を行くのもいい。でもね、裏にも道がある。日陰でジメジメしてるけど、儲かるんだなあ、これが。アンタがその気になれば、ヘタな勤め人よりずっといい暮らしができる」

「そうなんですか」

「いずれ、わかる時が来る。なら、早いほどいい」

 変わる──その言葉が出た。まるでシンクロニシティのように。

 JOYビルを出ると、ケンが居た。客引きのマッサージ嬢を相手に軽口をたたいている。

 ボクを認めるなり目が険しくなった。

「よお、お疲れェ」肩を揺すって寄ってきた。「社長にスカウトされたか?」

「アルバイトに来いと言われました。あれってスカウトなんですか」

「ああ。別の店のハナシだがな。ばあさんたちのお相手をする仕事だ。オマエみたいなのは好まれる。まあ、オマエのレベルじゃ、ばばあ相手のホスト止まりだ。はは」

「ケンちゃんはね、俳優さんなんだよ。今にきっとブレイクするよ」いつもと違うマッサージ嬢が、ケンの機嫌を取るように言い添える。

「へえ、すごいですね」ボクは合わせる。テレビで見た記憶がない。どうせチョイ役だろうと思う。ひょっとしたらAV男優か。

 ボクの反応が気に入らないらしい。ケンの目に嫌な光が浮いた。いや、きっとボクそのものが気に入らないのだ。

 殴られるのを覚悟した。だが、ふるわれたのは言葉の暴力だった。

「オマエってさあ、流美にホレてんの?」

「そんなんじゃないです」

「ふうん。手ェ繋いだこともないとか」

「ええ、ないです。あ、フォークダンスのとき繋いだか」

 ボクの応えに、ケンはバカのようにわらった。

「それはそれは、お気の毒に。アイツ、いいケツしてるぜ。ぷりっと盛り上がってな。右側にホクロがあるんだ。エッチぼくろってやつ。好き者なのさ」

 思わずアネゴのお尻を想像してしまった。あわてて振り払う。「帰ります」

 横をすり抜けるボクに泥をぶつけるように、ケンはトドメの言葉を投げた。

「流美はなあ、フェラうまいぜ。オマエもやってほしいだろ」 

 泥から逃げようと早足になる。

「ね~、ケンちゃん、アタシともアソんでよぉ。アタシのホクロも調べてよぉ」シナをつくった嬢の声。

 ケンの高笑いが、路地の奥からいつまでも背中を追っていた。

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