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ただし、店は胴元になっていない。客はゲーム機を介して、回線で繋がる他の客と対戦している。おそらく支店もあり、そことネットワークで繋がっている。
ゲームはトランプばかりじゃない。花札も丁半もあった。
ブースの壁を蹴る客。忍び笑いを洩らす客。店を飛び出て、すぐに戻り、受付にカネを払い込む客。払い込めば手持ちコインがPCのアカウントに加算される仕組みだ。すべて現金払い。クレジットは使えない。
受付の奥にある二台のパソコンが各ブースをモニターしている。一台はそれぞれのゲーム状況を表示し、もう一台は、たぶん隠しカメラで、ブース内を映している。
マスターは腕組みして観戦していた。負けが込んで、ドロ沼にはまる客の姿がたまらないようだ。
「あ~あ、レート上げやがったぜ。コイツ、もう終わったな」
「そうなんですか」
「勝負ごとは熱くなったら負けだ」
外でカネを調達してきたばかりの客のブース。冷房がギンギンにかかっているにもかかわらず、ワイシャツを脱いで下着一枚だ。灰皿には押し潰したタバコが山になり、負けの大きさを示している。
ひひ。マスターは彼の不幸を
そのブースへ灰皿を取り替えに行くと、血走った目がボクを捉えた。「あんちゃん、カネ貸してくれや。1万でいい。そろそろツキが来る。2千円付けて返すから。これで──」腕時計を外して渡そうとする。
返事もせず受付へ逃げ帰った。
そういえば、この路地の手前にカネ貸し屋があった。〈喫茶ジョイ〉って店もある。食堂も。みんな繋がる。負けた客にカネを貸し、出前はジョイと食堂から届く。すべてのバックに源田のオバサンが居て、にんまり笑っているのだ。大きなダイヤを首元にギラつかせて。
「おう、もういいぜ、アガりな」マスターは千円札6枚と交通費をハダカでくれた。
10時をまわっている。あっという間の4時間だった。給料はアネゴの取り分にしてほしかったが、信用できない。もらってサイフに仕舞う。
金髪のオネエサンがやって来た。次のシフトだ。襟に蝶ネクタイを着けながら、不思議そうにボクを見た。
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