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通路には、〈私語・携帯電話、禁止〉、〈大きな声を出す方は退店いただきます〉と張り紙があった。
「こんばんは」奥に向いて呼んでみるが応答はない。
背後で、階段をのぼってくる音がした。缶ビールのケースをかかえた中年男が入口に現れ、ボクを見た。「アサオかい?」
「そうです。はじめまして」
「ほらほら、これ持って。奥まで運んで」ケースを押し付け先に立つ。
ついてゆくと、通路を曲がった先に洗い場と収納スペースがある。ビールをケースから出して冷蔵庫に移せ、と言われた。
「前の分と区別して入れろよ。一番冷えてるやつから客に出すんだ」
「はい」
庫内にはカップ酒とかウーロン茶も入っている。
持参の白ワイシャツに着替えると、男が蝶ネクタイを投げてよこした。
「オレのことはマスターと呼べ」そう言って仕事の説明を始めた。
ブース内の客からはタブレットオーダーがくる。注文の品を揃えて運ぶ。客が帰ったらブース内を清掃。基本はそれだけ。
受付の奥、カーテンで仕切られたスペースで待機することになった。パソコンが二台起動しており、奥に頑丈そうな金庫がある。
開店時刻を過ぎると客が入り始めた。先に支払いを済ませ、会員カードをスキャンしてブースに消える。
さっそく内線が鳴った。注文の品をトレイに載せてブースに向かう。
「ご注文お持ちしました」声をかけて仕切りのカーテンを開く。
頭頂部の薄い眼鏡の男が顔を上げた。
横顔を照らすディスプレイにはトランプゲームが映っている。ポーカーをやっているらしい。
缶ビールとナッツの皿を邪魔にならない場所に置いた。
「いつも居るミミちゃんは?」
この店でアネゴが使う名前だろう。
「休みです」
「ちぇっ、男のケツ触ってもしょうがねえしな」舌打ちしてゲームに戻った。
ところが、その夜、ケツどころか前を触られた。別のブースの母親くらいの女性に。
注文は在庫のある物に限らない。ラーメンやカレー、サンドイッチなどは店外から出前される。開店から1時間が過ぎると満席になり、1階の上り口に〈LUCKSただいま満席です〉のプレートを下げに出た。
忙しい。下げた皿を洗ったりしているうちに、ボクには店の正体が見えてきた。
――ここは賭博ゲームの店だ。
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