P.09 赤い鮫
*
アネゴ──
自転車を降り、赤いテスラの横に立っている。
フロントに
うつむき加減のアネゴに、いつもの
運転席側のウインドウが半分さがっていた。中の人と話しているようだ。
「なんかイヤな感じだな」
「どうしよう。ワタシ、バス逃がしたら30分待たなきゃいけない」
「ボクがようす見ておくよ。あとで連絡する」
「ありがと。じゃ、お願いね」
雪ちゃんは何度か駐車場を振り向いて、バスターミナルへ歩き去った。
ボクはコンビニをぐるりと回り、隣接する空地に踏み込んだ。低いコンクリート塀に沿って、腰をかがめ雑草をかき分けてテスラに近づく。
声が聞き取れる場所まで移動した。
「──だからあ、困るんだよ、今夜休まれちゃ。ケンが新店へ行ってるから、てんてこ舞いなんだよ」中年女性の、酒とタバコで潰れたような声だ。
「明日、母の入院なんです。付き添わせてください」アネゴの声。こんな切実な声は聞いたことがない。
「筋腫なんて簡単なんだよ。医者に任せとけばいいじゃないか」
「いろいろ準備とか。妹の面倒も見なくちゃいけないし」
「手が足りないって言ってるだろ! 店、休めって言うんかい? 売上補填してくれるんか? アンタの借金、また増えるで。いいんか?」
何てことだ。このガラの悪そうなオバハンに、アネゴは借金があるらしい。話によると飲食の店で働いてるようだ。お母さんが病気だってのも初耳だし。
家庭事情が複雑なのだ。
「──大学進学なんて、おかしなこと考えるのは止めときな。せっかくオマエに、店をもたせてやろうと思ってるのに」
「オレ、代わりに働きます!」ボクは立ち上がっていた。
半身が塀の上へ出る。
車中のオバサンとアネゴが、驚いてこちらを見た。
塀を乗り越えて車に近づく。「今夜と、それから一週間、代わりに仕事します。ファミレスでバイトしたことあるから、お運びとか皿洗いとかできます。金子を休ませてやってください」
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